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レイシーのぼうけん  作者: 偶像兎
第三章 少女と魔法のがっこう
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とある少女の入学当日 Ⅳ

 入学式は講堂で行われる。あの魔力検査を行った建物はそう呼ばれているらしい。。今は沢山の長椅子が置かれ、新入生達は順番に腰かけていっている。また、前方には演説用の舞台が用意してあった。

 レイシーはレトリー、トウタと三人で並んで座ることにした。手を繋いでいたときのように二人の間にレイシーが入るような並びだ。

 やがて講堂が生徒で埋め尽くされると、前に司会がやって来た。手には小さな筒を持っている。


「お静かにお願いします!」


 彼が筒に向かって話しかけると、声が部屋全体に伝わった。大声で叫んでいる様子もないのに不思議だ。


「すごい! あれはなんだろう?」


「あれはマイクだな。金属性魔法の応用で、声を電波に変えて周囲に届けるんだ」


「え……? デンパ?」


「まぁ詳しい話は後にしよう。今は静かにしよう」


「あ、ごめん。そうだね」


 周りはまだざわついていたが、呼びかけもあって次第に静かになっていった。

 全員が話をやめたのを見て、司会が大きく咳払いをする。


「それでは王立魔法学院二年、生徒会会長にして生徒代表のルナ・シャイニングナイト様から、歓迎のお言葉をいただきます」


 すらっとした制服の女性が横から入ってくると、司会からマイクを受け取って舞台上に上がっていった。彼女のきれいな長い茶髪は、舞台上の照明を浴びて黄昏時の山のような光を帯びている。一目で美人とわかる人だ。

 彼女は新入生たちをじっくり見回した後、大きく息を溜めて話し始めた。


「陽気が地を満たす頃合いとなりました。みなさん、ご入学おめでとうございます。私は生徒代表のルナ・シャイニングナイトです。

 まず、あなたたちは魔法の適性を持っています。この世界を満たすマナを自在に操り、人の力を越えたエネルギーを使用できる。どのように使うか、今から夢を膨らませている方も多いことでしょう。

 また、あなたたちの学び舎となるこの学院は、変化や多様性を大きな懐で受け入れます。そこに正しさはありません。どんな身分も、思想も、否定されず受け入れられることでしょう。

 ですが、忘れないで下さい。力の使い方には責任が伴います。いついかなる時も責任のある力の使い方を心がけるようにしてください。学んだ力で人を傷つけたりしないように、十分に気をつけてください。その心構えもまた、この学生生活で学んでいくことを期待します。

 最後に、恐れずとも大丈夫です。この学校にはたくさんの頼れる先生方がおられます。経験を積んだ先輩方もいます。今皆さんの隣に座る仲間達もいます。私も生徒代表として、皆さんの力になりたいと思います。困ったことがあれば、いつでも生徒会室のドアを叩いて下さい。遊びに来てもらっても大丈夫です。皆さんがこの学院で過ごされた貴重な体験を、いつでも話しに来て下さい。

それでは、改めまして。ご入学おめでとうございます。二年間という短い時間ではありますが、楽しく学んでいきましょう」


 話し終えた彼女が舞台上で一礼する。それに合わせて周りから熱い拍手が起こった。


「責任のある力の使い方、か……」


 いい演説だとは思ったが、レイシーが一番気になったのはそこだった。

 我が身に宿った怪力はすごい。しかし、責任もそれに見合って重いものになるだろうと思ったからであった。

 すごい魔法の力を持っていたトウタは今の演説をどう受け取ったのだろう。彼の方を見ると、ぼーっとした様子でルナを目で追っていた。

 どちらかというと見とれて聞き惚れていた、という様子だったが、ルナがそんなに気に入っているのだろうか。


「レイシーちゃん、いい話が聞けたね。どんどん色んな事を学んで、皆に追いつけるよう頑張るね!」


「そうだね、レトリー。次は学校見学だっけ?」


「うん!一緒にまわろっか!」




 医務室にはレイシーとトウタに倒された男達のうめき声がこだましている。


「よくもボクをここまで馬鹿にしてくれたな……!」


 全身を包帯でぐるぐる巻きにされたゴウラはベッドの上で、身勝手な復讐に燃えていた。

 その隣には彼を心配そうに見下ろす女性がいる。彼女のカールした金髪は医務室の薬品に負けないほどきつい香水の匂いを放っていた。


「ゴーちゃん、無理しちゃだめだよ」


 彼女はゴウラに下げられたため戦いには参加していなかった。おかげで傷ひとつ負ってはいないが、その表情は負傷者に負けないくらい暗く沈んでいる。


「魔力検査の時はすっごく喜んでたのに……ゴーちゃんは最近おかしいよ。あのトウタの事を知ってから、無茶ばっかりしようとしてるって」


「やめろ! ここに来てまでアイツの話をするな!」


 ゴウラは痛む身体を転がして彼女に背を向けた。


「……無理は止めなよ。アタシ、ゴーちゃんが怪我するのを見てるのはもう耐えられないよ。家のことで悩んでるなら、アタシも協力するから……」


「お前には関係の無い話だ! ……いや、待てよ……協力、協力か……」


 ゴウラは少し考えた様子だったが、やがて高笑いを始めた。


「そうか、協力か! おい、お前! 早速だがボクに協力しろ」


「え……?」


「入学式の後、校内見学があるだろう? トウタは知りたがり屋だからな、全ての部屋を回ろうとするだろう。そこでだ」


 ゴウラは女性の腕を掴んで引き寄せ、耳に何かを囁く。それを聞いた女性は怪訝な表情を浮かべた。


「……ゴーちゃん、本気で言ってるの?トウタだけならともかく、色んな人に迷惑かかるよ?」


「あいつに一泡吹かせられればそれでいいのだ。それに、ボクの恋人であり、クラス4の水属性魔法が使えるキミだからこそ頼めるのだよ。キミを愛し、信頼しているからこそこのお願いをしたんだ」


 女性はふぅー、と大きなため息をついた。


「……そこまで言うなら、今回だけだからね?次からはマジでやめてもらうから」


「今回だけだと約束しよう。さぁ、ゆけ!」


 去って行く女性の背中を眺めるゴウラの顔はほくそ笑んでいた。


「能力で勝てないなら、周りからの信頼を落として社会的に抹殺してやればいい……今に見ていろ」

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