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レイシーのぼうけん  作者: 偶像兎
第三章 少女と魔法のがっこう
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落ちこぼれから始まる学園生活かと思ったら、特殊クラスに入れられた件 Ⅴ

「この学校は崇高なる知の殿堂。この娘は相応しくない!」


「今ならまだ入学前だろう、今からなら遅くはない。引き返させるのがよかろう」


「退学だ! 追放だ!」


「え、え……」


 すっかりレイシーは気圧されてしまい、その場から動けなくなってしまう。


「おいおい、待てよ! 確かにこの子の魔力は無いかも知れないけど、それだけで入学拒否ってどういう事だよ! そんな要項、どこにも書いてなかったぞ!」


「……そ、そうですよ。それに、何事にも完璧はないですし……たまたま計測できなかっただけかも知れませんし……退学って言うのは、ちょっとかわいそうじゃ……」


「やかましい! 入学前の小僧と下っ端の研究員め!」


 トウタと試験官が援護してくれたが、大声の一喝にあえなくかき消されてしまった。


「……」 


 いやだ。勉強できないのはいやだ。しかし反論を展開するにはあまりにもレイシーには知識が足りず、何を言って良いか全く分からない。胃袋の辺りがもやもやする感覚を抱いたまま、黙っていることしかできなかった。


「なんだいなんだい。何やら騒がしいと思えば、いつからここは検査会場から演説場になったんだい?」


 先生達の後ろから一人の女性が現れた。

 試験の時にはいなかったはずだがどこから現れたのだろうか。かなり筋肉質で、着ているノースリーブから見える腕や腹は彫像のように整った筋肉の塊だ。なおかつ、腰はほっそりくびれており、髪は男性のように短く切られている。まるで英雄物語に出てくる女傑のようで、他の先生よりも背は低いのに巨大な岩山のような存在感を放っている。


「トルーデ、どこへ行っていた! 検査監督の仕事はどうした! 教師として問題があるぞ!」


「ちょっと目に余る奴がいたので指導してやっていたのさ、教師としてね。遅れたのは悪かったよ。で、これは何の騒ぎなんだい? 説明しておくれ」


「この娘に魔力が備わっていなかったのです。普通なら持っているはずの属性もなし。これは前例のない事態で、入学を本当に認めて良いのかと話し合っていたところです」


「零点! 零点だ!」


「そうだ。エネルギーを持たぬ者に、この学校に入学する資格など無い!」


「待ちな。マナじゃなくとも立派なエネルギーを持ってるじゃあないか。体そのものにね」


「な……何!?」


「今のを見たかい? 鉱石ほども硬い魔法検査の石を握りつぶしている。ありゃ魔法でもなんでも無い、あの子の力さ。これをエネルギーがあると言わずして何と言うんだい」


「お前、そこから見ていたのか……だが、だったらどうする! どう使い方を教える? 魔法実践の授業カリキュラムはどうする?」


「簡単な話だね。エネルギー、つまり力の扱い方を教えるのもこの学院の役目だろ? だったら、この子が鍛えるべきは素手だ。格闘だ。ステゴロだ、ケンカだ!」


 教師達は黙り込んだ。トルーデと呼ばれた女の提案に、驚愕のあまり絶句しているようだった。


「何を言っているトルーデ! 前例がないことだぞ! そもそもそんなもの、魔法ではない!」


「じゃあ今後は魔力のない子供がここに入学しようとしてきても、こうするのが慣例だと言って容赦なく門前払いするんだね? この学園は王子陛下の名の元に、広く開かれた学園にしようという理念のはずだ」


「う……」


 トルーデは反論しかかった先生の肩を抱き寄せて囁いた。


「調べてみようじゃあないか。あの娘の身体をさ。あんたも教師なら、研究者なら、興味が湧くだろう?」


 彼はそれでも考え込んでいる様子だったが、やがてレイシーの前にやってきて言った。


「……やむを得まい。今回は折れてやろう。だが今後の学校生活で魔力が無いことを理由にあれこれ言い訳しても聞かんからな!」


「……! わかりました!」


 レイシーはつかえていたものがすっと取れたような清々しい気持ちになった。


「おめでとうございます! この基準だとクラスは……0ですね!」


「え!? わたしがクラス0!? トウタと一緒なの!?」


「はい。全属性に適正無しですが、これも今まで例のない特殊なことです。だからクラス0とさせていただきます!」


「やったな、レイシー!」


 トウタがぱちぱちと拍手をしてくれた。後ろで順番待ちをしていた生徒達からも、小さい拍手が起こっていた。




 本日は検査だけの予定のため詳しい指導の内容は入学の後に行うという説明を受けたので、レイシーとトウタは会場を後にした。


「あの女の人……トルーデさん、だったっけ。次に会えたらちゃんとお礼を言わなくちゃ。検査の人にも、入学したら会いに行こうかな」


「何はともあれ、良かったよ。俺までびくびくしちまったし……」


「トウタもありがとう。わたしのために抗議してくれて、うれしかった。それにしても疲れたなあ。検査」


 もう一日働いたかのような疲労をレイシーは感じていた。それに反して日はまだ傾きかけたばかりで、まだまだ周囲は明るい。


「……ねぇ、トウタ」


「何だ?」


「わたし、今はほっとしてるけど……ちょっとだけ残念なんだ。魔法を使えないのって」


 自分の目的は本を書くことであり魔法を使うことではないので、入学が許されただけでもありがたいものだ。しかし、それでも残念でないわけがない。魔法で誰かを助けたかったという欲望は確かにあったのだ。かつて憧れたサンディのように。


「だから、教えてくれないかな。魔法を使うって、どんな感じなの?」


「うーん、言うならイメージかな……自分が魔法でこうしたいって言うのを強く思い描いて念じるんだ。そうしたら、それが実際に起こるって感じかな」


「そうなの。ありがとう。これですっきりしたよ」


「それならよかった……なあ、俺からも一つ良いか。俺が言えた立場じゃないんだが」


「うん」


「レイシーにもまだ、君の知らない力が眠ってると思うよ。だから、きっと何か見つかるさ。それを一緒に学んでいこう。この学園で」


「……うん!」


 力強い言葉の後押し。爽やかに笑いかけるトウタに、レイシーも笑顔を返した。


「それにしても疲れたし、お腹も空いたなあ! 食堂でラーメンお代わりしてきちゃおっと! いこう、トウタ!」


「えええ、また食うの!?」


 こうして少女と少年は、いい匂いのする道を走り始めた。

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