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レイシーのぼうけん  作者: 偶像兎
第三章 少女と魔法のがっこう
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落ちこぼれから始まる学園生活かと思ったら、特殊クラスに入れられた件 Ⅳ

「トウタはすごいなあ……」


 周りの人々は皆、彼に憧れの視線を向けている。

 それに、レイシーは知っている。彼はレイシーの失敗を笑って許してくれただけでなく、色々なことを教えてくれる人格の持ち主だ。その上魔法の腕前まで備えているとなれば、尊敬するには十分すぎる理由だった。

 やがて注目を一身に浴びる彼は、試験を終えこちらに戻ってきた。


「お疲れさま! すごいよ!」


「……ありがとう」


 レイシーは満面の笑顔で出迎えたが、褒められているのに彼は何故か居心地が悪そうだった。試験で疲れたのだろうか。そううかうかしていると、次の名前が読み上げられた。


「レイシー・ヴァレリオン!」


「あっ、わたしだ! 行ってくるね!」


 トウタと一緒に並んでいたのだから、次に呼ばれるのは当然だった。駆け出すレイシーに、がんばれ、とトウタが軽く背中を叩いてくれた。


「それでは、検査を行います。そこの石を取ってください」


「はい」


 試験官に言われ、レイシーは石を取った。特別な石だからか、多くの人が触っていたためか、ほんのり温かい。


 自分はどの属性なのだろう。

火が出るのか、水が操れるのか。サンディみたいに雷を出したりできるのだろうか。魔法を使って何をしようか、どんどん胸が膨らむ。


「力を込めてみてください。込め方は自由です。この石が魔力を感知して反応しますので」


「わかりました!」


 自由ということは、本当の本当に適当でいいのだろうか。とりあえず、石に何か起きるようにと強く念じてみた。


「うぬぬぬぬ……」


 きつく目をつぶって動け、動けと石に念じたが、石は何の反応も示さない。

 しかしまぁ、いいだろう。前の人を見るに、石に反応がなければだめな試験ではないはずだ。


「もう一回、お願いできますか?」


「は、はい!」


 やっぱり今のでは不十分だったかと、今度は石を握りしめてみた。握りつぶしてしまわないように、加減しながら力を込める。


「もう一回お願いできますか…?」


 今度は眉をひそめ、じっと石を睨んでみる。


「もう一回お願いできますか…」


 手と手で石を挟んだまま上下にシェイク。酒場の店主のようだ。


「もう一回……」


 今度は石を高く掲げてぐるぐるダンス。


「もう一回お願いできますか」


 ぽいぽい、石でお手玉。一個だから簡単だ。


「もう一回……」


 なんでこんなにたくさんやらされるんだろう。いい加減レイシーはうんざりしてきた。

 よく見ると試験官は目が泳ぎ、何やら焦った様子だ。それにやればやるほど教師たちが周りに集まってきて、ざわざわしている。本当にちゃんと試験できているのか。


「まだかなー」


「俺の番、いつ?」


「終わってからお昼ご飯行こうって思ったんだけどなあ……」


 後ろで並ぶ生徒達も徐々に騒ぎ始め、本格的にレイシーの心の不安を煽る。

 助けを求めるようにトウタを見てみると、彼もどうして良いかわからないという顔をしていた。

 彼は結局、すまない、と言わんばかりに一礼する。ここにも答えはなかったようだ。


「ど、どうしたら良いの……!?」


 部屋中の視線が自分に刺さっている。冷や汗が噴き出て髪が気持ち悪い。心臓もばくばくと急かすように鳴っている。


「こう!? こう!? こうすればいいの!? えいえいえいえいえいえいえいえいえいえーい!」


 頭に乗せたり、膝に乗せて貧乏揺すりしたり、指示されていないことも何でもやってみた。

 人が見ていると言うこともほとんどどうでもよくなっていた。早くこの検査を終わらせないと、という思考で脳みそがいっぱいだ。

 とうとう力加減を間違えたレイシーは、ぐしゃ、と石を握りつぶしてしまった。


「石が砕けたぞ……」


「魔法のせいで石が脆くなっていたのかな」


「おいおい、どうなるんだよ?」


 検査が終わってもざわつきが収まらない。とにかく結果を聞いて早く退散しよう。


「ど、どうなったの!? わたしの結果は!?」


「……あなたのマナの属性は、ありません」


「どういうことですか!?」


「だから、属性がないんです。無属性なんです。クラスもどうしたらいいか……こんなこと、今まで記録にもありませんでした」


 試験官の声は、まるで信じられないものを見たかのように震えていた。


「わ、わかりました。ありがとうございました、それでは失礼します……」


「待て!」


「は、はいぃ!?」


 重みのある声に引き留められ、自分でも意図しない甲高い声が出た。他の人も待っているのでいい加減立ち去らせて欲しい。

 レイシーを呼び止めたのは、後ろで見ていた教員達だった。


「あり得ない! この子の入学を認めて良いのか?」


「そうだ。いくら王子、王女の推薦とはいえ、魔力のないものを入学させるわけにはいかん!」


 賢人達の怒鳴り声が会場に響くと、ざわついていた生徒達も静かになった。


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