落ちこぼれから始まる学園生活かと思ったら、特殊クラスに入れられた件 Ⅰ
今回から第三章スタートです。いろいろ挑戦していきたいと思いますのでよろしくお願いします。
レイシーが入学する予定の王立魔法学院は暖期の前に入学式をするらしく、時期としてはぴったりだった。
青空から降り注ぐ麗らかな日差しが、祝福するように目の前の道を照らしている。
「ふん、ふふん、ふふん」
うきうきした気持ちでお気に入りの歌をハミング。こつこつ、靴でリズムを取れば、もっと世界が明るく見える。レイシーは上機嫌に歩いた。
今日から始まる学園生活。どんな勉強をするのだろう。そもそも、学校とはどんな雰囲気なのだろう。どんな経験ができるのだろう。期待のわくわくで、とくんとくんと胸が心地よく鳴っている。
やがて道の向こうに桃色のつぼみを付けた木に守られるように囲まれた、大きな建物が見えてきた。
「ここが学校……」
学校はお城によく似ていたが、壁も窓も、何もかもが光沢が出るくらいつやつやに磨き上げられている。まるで白い宝石を削り出して作りだしたようだった。
入口の上には、円の中に複雑な模様が描かれた紋章が飾られている。
たくさんの少年少女が、次々に門をくぐっている。笑っている人もいれば、どこかおびえている様子の人もいる。みんないろいろな事情があるのだろう。大体は自分よりも大きい人たちだった。
「王立魔法学院へ入学される方はこのまま進んでください!」
門の前の男性が大声で呼んでいる。きっちり整えられた服には、学校にある紋章と同じバッジがついている。彼が学校で働いている人だろうと、早速話を聞いてみることにした。
「あの、ごめんなさい。どこで授業を受けられるんですか?」
「あ……本日は入学の準備なんです。授業はきちんと入学してからになりますね」
「そうだったんですか……ありがとうございました」
勘違いに気づいたレイシーは少し恥ずかしくなった。すぐに授業を受けられると思っていたが、準備はいろいろあるらしい。
胸のどきどきを、もう少し抑えておかないといけないようだ。
「よかったら予定を確認されてはいかがでしょう。午前は制服の採寸。午後は魔法力の検査となっております。お名前をお聞きしていいですか?」
「レイシー・ヴァレリオンです」
「確認いたしますね」
彼は小さな紙の束をぱらぱらとめくっている。その紙一つ一つに、精巧に描かれた似顔絵が載せられている。名前や出身も書かれているようだ。
「それ、何ですか?」
「これはですね、写真ってやつだそうです。人の顔を正確に写し取れる道具だそうで、なんでも魔法とはまた違う技術で作ったそうです」
「へぇー……そういうのもあるのですね。それについてもここで勉強できるのですか?」
「どうでしょう……ここは魔法学院ですし、教えるかどうかは検討中らしいですけどね。それに講師も足りないらしいですし……おっと、確認できました。西から来たレイシー・ヴァレリオン様ですね。制服の採寸をこの奥でしますので、どうぞお進みください」
「わかりました。いろいろありがとうございました」
制服は茶ジャケットとシャツを組み合わせたシンプルなもので、女性は首にリボンタイをつけることになっているようだ。胸には学校の複雑な紋章がついている。
また、ジャケットの色を紺色、茶色と黒の三つから選べるらしい。レイシーはなんとなく気に入った紺色を選んだ。
下半身は、男性は動きやすそうなズボンで、女性は可愛らしいスカート。あれを着て学校に通うと思うとずっと勉強できそうだった。
「それでは、採寸お疲れさまでした。引換券を渡しますので、明日以降またお越しください。再発行はできませんので落とさないようにしてくださいね」
「ありがとうございました!」
手のひらに収まるほど小さな引換券には、自分の名前が記されている。にこにこしながら眺めようとしたら、お腹の虫が鳴り出した。
「あっ……そうだった」
浮かれていたので忘れていたが、昼食を忘れていた。このあたりに良い食堂は無いだろうかと、振り返った時だった。
ごつん、と男性にぶつかった。はらり、引換券が手から滑り落ちる。
「わっ! ごめんなさい」
「俺は大丈夫だよ。そっちこそ大丈夫か」
「はい、わたしは大丈夫です」
「よかった。こちらこそ、不注意だった。ごめんな」
慌てて落とした引換券を拾うと、レイシーは何度も頭を下げた。うっかりしていた。次は気を付けなくては。
「さて、どこでお昼ご飯を食べようかな……」
王都までの旅の手助けの報酬としてヘンデル達からいくらか貰っているので、お金に余裕はある。辺りをきょろきょろしていると、ふと引換券に目が落ちた。
「え」
そこには自分の名前ではなく、「トウタ・オカヤマ」という、見慣れない名前が居座っていた。
間違いない、さっき落とした時に取り違えてしまったのだ。
「あ、あ……まって、まってえぇぇぇぇぇ!!」
空腹を我慢しながら、レイシーは先ほどぶつかった男性を慌てて追いかけるのだった。