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レイシーのぼうけん  作者: 偶像兎
第二章 少女とたたかいの鬼
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王都にたどり着く Ⅲ

 領地での事後処理はラムラに任せ、レイシーたち三人は彼の馬車を借りて王都へ向かった。王都への道は敵がたくさん見張っているとのことだったが、途中は拍子抜けするほど何もなかった。


「きっとコルベスが倒されたから逃げてしまったのね」


「報酬は望めないし、王に反逆したとして追われるかもしれない。早めに姿をくらますのは良い判断だね」


 レイシーはちょっと薄情に思ったが、そういう関係だったのだろう。彼らもお金が欲しい、楽しいことが欲しいという夢を叶えたいだけなのだ。


 懐かしさを感じさせる王都の外観が見えてくると、レイシーは胸が高鳴るのを感じた。お気に入りのエプロンドレスの裾をぎゅっと握り、何度も深呼吸をしてみる。

 王都に入ろうとする沢山の馬車に並び、ようやく通れる順番がやって来た。


「ヘンデル王子、グレイル王女。お待ちしておりました。どうぞお通りください」


「王子、王女! お帰りなさい!」


 王子と王女が乗っていると知られたせいか、、出迎えが豪華だった。しかしそれ以上にレイシーを驚かせたのは、輝かんばかりの王都の様子だった。


 青空の下、土と光を混ぜて作ったような、明るい茶色のレンガがびっしり道に敷き詰められている。

 市場のようにテントと露店は無いが、木造の大きな建物がいくつも並んでいる。中には大きなガラス窓で商品をアピールするお店もあり、パン屋の前を通ったときは見ただけでよだれが出そうだった。そしてゆっくりと進む馬車には、誰かの食卓に上るであろう大量の野菜が揺られている。

 どこを向いても人、人、人。その皆が話し合い、笑い合っている。馬車の王族に気づいて手を振ってくる者もおり、ヘンデルとグレイルは気さくに手を振り返していた。人の数においては市場を遙かに上回る活気だった。


「ここが王都なんだね……」


「どう、レイシー。憧れの場所に来てみた感想は?」


「すっごく素敵だよ。きらきらで、ぴかぴかで……」


「私たち自慢の王都だもの、気に入ってくれて良かったわ。さぁ、一緒にお城まで行きましょう」


 広い大通りに差し掛かると、脇道の人々の歓声がいっそう強くなった。


「お帰りなさい! ヘンデル王子! グレイル王女!」


 祝福の声が満ちた道ををまっすぐ進んでいくと、城がどんどん見えてくる。ここに来るまでに見てきた家々を五十は集めてもまだ入りそうなほどの、とても大きな城だ。

 城門は跳ね橋で厳重に守られている。真っ白に磨き上げられた城壁は重厚ながらも芸術的で、水晶でできているようだった。その前を守る衛兵はきりっとした立ち方で、こちらに気づくと敬礼した。


 城内はもっとすごかった。今までに見たどの建物よりも広い廊下を通って、金と銀で装飾された、煌びやかな王子の部屋に通された。真ん中には真っ赤なクッションのついた椅子が置かれている。


「座ってよ」


「わぁ、ふかふか。ここに住んでいたんだね」


「うん。だけど自分の部屋だというのに、やっぱりここは落ち着かないなあ…」


「そうね。豪華すぎるのも、ね」


「そういうこともあるんだ……」


 最初は新鮮さもあったが、言われてみれば常に周りがきらきら光っていたらゆっくり眠りにくいような気はする。


「そうそう。レイシー、大事な話があるんだ」

 

 ヘンデルの声ははきはきしていて、もう咳をする様子は無かった。王都の薬を飲んだのだろうか。


「なぁに?」


「僕は今から旅人のヤーコブとアリエッタではなく、王族のヘンデルとグレイルに戻る。居ない間の政務の把握から初めて、治安の維持、モンスター対策、反乱分子との戦い。忠臣グリムの葬儀も執り行うつもりだ」


「そっか……寂しくなるね」


 ラムラの仕事風景が思い出される。王族と言うことは、国全体が領地だと言うことだ。あれより遙かに多くのことをやらなければいけないはずだ。


「勿論、仕事はたくさんさ。だけど、一人ではやらない」


「この城で私たちを待っていてくれた臣下と。私たちを信じてくれる民達と。それからとっても強くて賢くて優しい、小さな仲間と一緒にね」


 グレイルの目線がこちらを指すように向いた。


「!! それってわたしのこと!?」


「ふふっ、頼りにしてるわね」


「嬉しいな!サンディも同じ事言ってくれたんだ。強くて優しくて賢いって!」


 自惚れるつもりはないが、顔がほころんでしまうのをレイシーは抑えられなかった。


「そのためにはまず、知識をつけて貰わないといけないね」


ヘンデルは立ち上がり、宣言するように言い放った。


「此度の旅の手助け、まこと大義だった! ヘンデル=フォン=アイルーンとグレイル=フォン=アイルーンの名において、レイシー・ヴァレリオンの魔法学校への入学を許可する!」


「えぇ!?」


 うれしさで驚いたレイシーはがたりと立ち上がった。


「ほんと!? 私が、学校に行って良いの!?」


「勿論。君はこれからは学生として、魔法学校の寮で過ごして貰うことになる」


「いっぱい勉強して、良い本を書いてね」


「うれしいよ……ありがとう! 絶対、夢を叶えるね!」


 本を書くという夢が、より鮮明な輪郭を持って心の中に現れた気がした。

 ここまでの道のりは長かった。だけど、ここからがまた始まりだ。沢山の人に支えられて、自分の夢を追い求めよう。レイシーはそう決意したのだった。


 第二章 完



これで第二章は完結です。


この作品も書き始めて四年になりました。辛いことも沢山ありましたが、多くの人に支えられて旅をしてきたレイシーのように、いつもお読みくださる皆さんのおかげで、こうして自分は書き続けてこれたのだなと思います。一応終わりまでは考えていますので、更新を止めないように、レイシーのお話を続けていこうと思います。

次回からは学園編になります。ぼうけんはこれからも続いて行きますので、どうかよろしくお願いします。

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