決戦をする Ⅵ
あけましておめでとうございます。本年もよろしくお願いします。
「……じゃあ、聞かせて。どうして、こんなことをするの? こんな風に人を傷つけたら、これからたとえどんなに楽しく生活しても、良心は痛まないの?」
聞くだけ無駄かも知れない。だが、この男はグリムを殺した。サンディも殺したのかも知れない。大好きだった二人の死について、少しでも知っておきたかった。
「はぁ。よほど甘ちゃんばっかり周りにいたようだな」
コルベスは呆れた、という様子で天を仰いだ。
「貴族ってのは、生まれながらにしていろいろなものを与えられる。土地、領民、財産。平民からすりゃ華やかなもんだが、それらを守るためには戦いがつきもんさ。……俺はずっと、独りで戦ってきた」
「戦いは一人でするものじゃないよ。家族や友達もいたんでしょう?」
「その家族や友達も、俺の持つ物を狙っていたとしたら? 俺がボロを出すのを、後ろから虎視眈々と狙っていたとしたら? いつ友が敵になるかわからないとしたら?」
「……それは……」
レイシーは言葉に詰まった。考えたこともなかった。自分の愛する人たちが敵になるかもしれない。その可能性を提示され、驚きと恐怖を抱いてしまったのだった。
これでは駄目だ。ぶんぶんと頭を振って、余計な感情を払い除ける。
「……そうだとしても、わたしはみんなを裏切らない。今、決めたんだ」
「人間なんて揺れ動くもんさ。本当にそう言い切れるか? どれだけ裏切られても、お人好しでいられるって言い切れるか?」
「喧嘩したって、仲直りする。殺されそうになったって、許してあげる。わたしはそのつもりだ」
「そうか」
コルベスは再び呆れた様子でため息をついた。本日二度目だ。
「……俺もあんたみたいな甘ちゃんがそばにいてくれたら……それだけが欲しかったのに……な!」
「え?」
コルベスの腕がこちらに向かって伸びてくる。短剣が握られている。狙いは首だ。
「うっ……」
警戒していたおかげでぎりぎり反応できたが、刃が頬を掠める。血が一筋流れ落ちた。
「このっ……!」
レイシーは彼の腕を取り、捻ってからもう一度壁に投げつけた。
二発目の砲弾で、部屋が再び大きく揺れる。
「ぐ……ぁ」
彼はもはや動くことはなかった。四肢がぐんにゃりと曲がっている。頭からは血がぼたぼたと流れ、髪が赤く染まってしまっていた。
確かな手応えを感じる。今度こそ倒したはずだ。
「コルベス様! 一体何が……ひっ!?」
二度も爆音を立てたせいで、さすがに衛兵が気づいたらしい。駆け込んできた彼は倒れた自らの主人を見て、明らかに狼狽していた。
「……この人を手当てしてあげて」
「な、何者だ……! 名を名乗れ!」
「早く!」
彼は槍を向けてきたが、レイシーは壁をぶん殴った。どごん、と硬い壁に拳の形の穴ができた。
「あ、あ……うわああああああ!! 化け物!」
素手で壁に穴を空けた少女を目にした衛兵は槍を落とすと逃げて行ってしまった。
「……仕方ないな」
レイシーは囮に使った服を着直し、コルベスを担ぎあげる。
彼は許せない。何がどうであれ、グリムを殺したのは確かなのだから。しかし、サンディの事についても聞かなくてはならない。ここで死んで貰っては困るのだ。
何よりも、コルベスを打倒するのが本来の目的だ。それが達成された以上、もうみんな傷つく必要は無い。あらん限りの力で走ろうと、レイシーは深呼吸した。
「人間なんて揺れ動くもんさ。本当にそう言い切れるか? どれだけ裏切られても、お人好しでいられるって言い切れるか?」
ふと、彼の言葉が頭をよぎる。
「誰も信じられなかった……か」
途中までの話は、うそを言っているように見えなかった。だったらどうして最後に斬りかかってきたのだろう。どうして自分を信じてくれなかったのだろう。
レイシーはますますわからなくなった。