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レイシーのぼうけん  作者: 偶像兎
第二章 少女とたたかいの鬼
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決戦をする Ⅴ

 扉の中に転がるように逃げ込むと、走った疲れがどっと襲ってきた。左腕の痛みは早くも引いてきているようだったが、疲労は消えてはくれないらしい。重たい肺に酸素を補給しながら、辺りを見回して確認してみる。

 まず、他に逃げられそうな扉はない。白いテーブルクロスのかけられた長い机、その脇に並べられた椅子は左右4つずつ。上半分がガラス戸、下半分が戸棚になった大人くらい背の高い食器棚が柱のように立っており、天井のほのかな灯りを放つシャンデリアと、四隅の燭台が光源だ。


「ここは、食堂……?」


 どうすればここにあるもので危機を脱せられるか、レイシーは頭をフル回転させる。

 

 机の下に隠れて奇襲するか? 駄目だ。そんな子供だましでは見抜かれる。

 食器棚の後ろに箱が積まれている。どかせば、隠れられそうな隙間になるだろう。ここからならいけるか? 駄目だ。棚が邪魔ですぐに攻撃できない。 

 すぐに攻撃したいなら、扉の横で待ち伏せしてみるのは? 駄目だ。それも簡単に見抜かれてしまうだろう。


「ははは、追いかけっこはお終いだな」


 扉越しから聞こえてくる声がレイシーを急かす。どうすればあの狡猾な男に一矢報いることができるだろう。頭の中をいろいろなアイデアが廻っては、「駄目だ」の一言でかき消されていく。もう時間はない。一か八か、正攻法に賭けるしかないのか。


 ……サンディならどうするだろう? ふと、そんな事を思った。盗賊を撃退するときに、家具や石や、いろいろなものを使った。以前盗賊がやってきたとき。この食器棚とよく似た箪笥を倒したような。

 

「……やってみる。やってみよう」


 レイシーはこぶしを握り締めた。




 コルベスが扉を開けると、食堂には誰もいなかった。


「もう逃げられないぜ、お嬢ちゃん? さぁて、どっこだろうな~」


 彼は鼻歌交じりに辺りを見回す。食器棚の後ろに合った箱が動かされている以外は特に変わったところはない。彼の見慣れた食堂だ。


「どっこかな、どっこかな、こっこかなぁ~~?」


 食器棚の後ろに箱をどけて隠れているのだろうが、楽しみは最後まで取っておくことにした。猫なで声で机の下をのぞき込もうとしたその時、コルベスは自らに影が差したのに気付いた。食器棚がこちらに向けて倒れてきているのだ。


「……はっ、つまんね」


 棚の方を警戒していたコルベスは難なくそれを回避する。机にぶつかった食器棚の扉のガラスがガシャンと大きな音を立てて割れ、中の食器が机の上や下に散らばった。


「見つけたぜ」


 傾いた食器棚の後ろにある隙間から、レイシーが来ていたぼろぼろの服がはみ出ている。


「人の家の物、勝手に壊していいと思ってるわけ? こりゃお仕置きだな」


 彼は隙間をのぞき込んだ。そこには小さくなって震えるレイシーがいるはずだった。

 

 しかし、そこには脱いだ服だけが隙間からはみ出るように置かれていただけだった。


「……っ! あいつはどこに……」


 彼の顔に初めて焦りが浮かぶのと、何かに足首を掴まれるのは同時だった。

 食器棚から腕が生えていた。少女の腕が倒れた棚を突き破って伸び、がっちりと彼を掴んでいたのだ。


「なに、小娘……ふざけ」


「ふざけてない。わたしは、本気だ!」


 レイシーは力をぐっと込めてコルベスの足首を握り潰した。ばきばきばきっとした感触とともに、ぐにゃりと彼の態勢が崩れる。


「……っぐぁ……」


「とりゃああああ!」


 それだけでは終わらない。手首のスナップだけで怯んだコルベスを振り回し、壁に向かって放り投げる。


「ぐああああああああぁぁぁぁぁぁぁ! ……ぁが……」


 どがぁん、という爆発音にも似た音が響き、部屋全体が少し揺れた。

 レイシーが戸棚から出てくると壁に砲弾でも撃ち込んだかのような大きなへこみができており、満身創痍になったコルベスが埋まっていた。

 レイシーは彼に警戒しながら近づいた。この油断ならない男には、最後まで隙を見せてはいけない。


「……参ったよ。食器棚の後ろじゃなくて、戸棚の中に隠れていたんだな……まんまとはめられたよ……」


「自分が勝った、って思いこんでたからはめられたんだよ。参ったっていうのは本当?」


「……ああ……今ので、だいぶ骨をやられた。もう立てねえ……」


「立てなくても雷は撃てるでしょう?」


「もう撃つための体力もねえや……お前の勝ちだよ。お嬢さん……」



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