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レイシーのぼうけん  作者: 偶像兎
第二章 少女とたたかいの鬼
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決戦をする Ⅳ

「……参るぞ!」


 アクロが疾風のように飛びかかった。ヘンデルはなんとかその動きを追い、浴びせられた一太刀を受け流す。


「そこっ!」


 すかさずグレイルが反撃を差し込んだが、アクロは受け流された勢いを利用し一回転すると、それをすぐに受け止めた。きぃんと、澄んだ音が鳴り響く。


「腕を上げたな、娘。だが、まだ震えておるな? 迷いは無くとも、その心の内にある恐怖は捨て切れておらぬようだ」


 図星を突かれたグレイルははっとしたが、より剣を握る手に力を込めた。


「えぇ、えぇ。怖いわよ。……怖くたってやるわ。ここであなたを倒すって、そう決めたから!」


「ほう……今回も期待できそうだ!」


 彼はにやりと笑みを浮かべると、怒濤の連撃を繰り出した。

 アクロの攻撃は突風のように速く、重い。それでいてほとんど隙が無いのだ。攻撃を受け流すのにも二人は全神経を集中させなくてはならなかった。

 陽射しの中を、三つの剣が舞う。舞曲のように刃を響かせながら、命懸けの舞台を演じている。観客は言葉を忘れて立ち尽くす、奴隷と兵士達だった。


「……う、ごほっ、ごほっ」


「兄上!」


 ヘンデルが崩れる。日常の中ならばほんの一瞬の出来事だが、戦いにおいてはそれが致命的な結果を招くこともある。まして歴戦のアクロがそれを見逃すはずはなかった。


「好機!」


「ヘンデル、危ない!」


 その叫びは奴隷達の中から聞こえた。

 奴隷達の中から戦いを見守っていたセコロは彼は三人の動きを全く追えていなかった。聞こえるのは絶え間なく金属のぶつかる音と、気を抜けばこちらまでもっていかれてしまいそうな凄まじい圧だけだ。まるで猛獣同士が戦うのを見ている小動物のような気分だったが、咳き込んで体勢を崩したヘンデルを見て大声で叫んでいた。

 アクロは刀を大きく振り上げる。渾身の力を込めて防御ごと彼を叩き切ろうとしているのが素人の彼にも分かった。


「くっそおおおお!」



 セコロは足下にあった石を力一杯投げつけた。がむしゃらに投げた石だったが、アクロの額に命中した。


「……ほう?」


「ひっ……」


 ぐるりと首が動き、アクロの眼光に捉えられたセコロは腰が抜けてへたり込む。睨まれるだけで刀で突き刺されたような幻覚すら覚える。あの二人はこのプレッシャーに耐えながら戦っていたのか。セコロに続いて後ろで動こうとしていた仲間の奴隷も動きを止めたのが感じられた。


「あなたの相手は、こっちよ!」


「むっ!」


 再び金属がぶつかる音。眼光がセコロを離し、グレイルに向けられた。

 彼に力を溜めさせてはいけない。大岩を真っ二つにするほどの威力がある彼の一撃を防げるかどうかは分からないのだ。グレイルは妨害の後、一度相手から距離を取った。


「グレイル、すまない……」


「大丈夫よ。それより、兄上こそ大丈夫?」


「正直に言うと、辛いな。だけど絶対に勝つ。それしか僕たちにはない」


「そうね。だけど……」


 二人の頭の中には同じ疑問が浮かんでいた。どうすればこの戦いの鬼を倒せる?今のところ攻撃を凌ぐので精一杯だ。

 更に、戦いが長引けば長引くほど体力は削れていく。病に冒されているヘンデルと、身体の小さなグレイルにとっては長期戦は避けるべき事態だ。


「どうすれば、いい……?」


 口を突いて出た疑問に、答えてくれる者はいなかった。




 レイシーは薄暗い廊下を必死に駆けていた。

 この屋敷のことはよく知らない。どこに逃げているのか自分でもよく分からなかったが、、とにかくコルベスから距離を離さなくてはならない。


「おぉ~い、出てきてくれよ! 俺も自分の屋敷で鬼ごっこはしたくないんだ」


 こつこつ、靴の音がする。薄暗い廊下の奥から彼が追ってきている。歩いているだけだというのにものすごい速さだ。

 心臓が絶え間なく鳴り響くのは走っているせいか、それとも彼が隠そうともしない殺気のせいか。


「あっ!」


 レイシーの足が止まる。行き止まりに差し掛かってしまった。目の前にはドアが一つあるだけだ。

 壁を壊すのは簡単だが、外にいた門番に気づかれてしまう可能性がある。あの気だるそうな門番は魔法では気づかなかったようだが、建物自体を揺らすような事をすればさすがに駄目だろう。レンガの壁ではないので、こっそり外すという手も使えない。そもそも、そんな時間をコルベスが与えてくれるとは思えない。


「うぅ……」


 こんなことなら門番を倒してから行けば良かったと、レイシーは歯噛みした、


「あんまり逃げ回るようなら、他の奴らも呼んじゃうぞ~? そいで俺の手を煩わせた分、働いて貰うぞ~?」


 猫なで声が聞こえるが、どうせ演技だ。今は目の前の扉に全てをかけるしかない。意を決し、レイシーは扉を開いた。

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