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レイシーのぼうけん  作者: 偶像兎
第二章 少女とたたかいの鬼
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決戦をする Ⅲ

 空気が震えるのを感じた。ぱちぱちと見えない火花が散る。レイシーは眼前の敵に神経を集中させた。


「……」


 薄暗いろうそくの明かりを頼りに、コルベスの挙動をくまなく観察する。自分には力があるとは言え、相手の実力は未知数だ。突っ込むのは愚策だろう。


「どうした、来ないのか? 得意の怪力で暴れたらどうだ?」


「行かない。あなたのことを、何も知らない」


「そうか。なら、こっちから行くぜ」


 ふと、どこか覚えがあるような。そんな危険を肌が感じた。


「ウザいんだよ。消えろ、小娘が!」


「……!」


 先ほどまでの馬鹿にしたような声とは違う、どすの効いた声だった。コルベスの手が動くより早くレイシーは伏せていた。

 部屋の中が太陽が持ち込まれたようにぱっと明るくなった。雷が頭上を掠め、背後の燭台に命中する。

 ぼごん、と燭台は爆発したような音を立てて粉々になった。


「それは……魔法……!」


「正解だな。学院なら花丸をもらえるところだ。俺の属性はサンドリヨンとおなじ『金』……」


 僅かな明かりだった燭台が無くなり、部屋はさらに暗くなった。それでも、闇の中で彼が嘲笑しているのがよくわかった。


「まぁ、オマエにはサンドリヨンよりも、サンディの名の方がなじみがあるかもしれんがな?」


「…! その名前は…!」


 あの光の筋のような金髪が、あの花のような笑顔が、レイシーの脳裏をよぎった。何よりも愛していた人の名前を突然出され、心臓がどくんと跳ねる。しかし、驚きはすぐに怒りへと変わった。


「どうしてその名前を知ってるの!? まさか……、あなたが……!」


「おいおい、むやみに人を疑うのはよくねえぞ?」


 気の抜けたため息が闇から聞こえてくる。


「頭が幸せなお前の考えることなどたかが知れている。経験も無い、技術も無い。今なら無知故の愚行として見逃してやってもいい。降伏すれば命は助けてやるぞ? 俺の兵器として従うならばな」


 レイシーは沈黙をもってそれに返事をした。


「そうか。なら、死ね!」


 二発目の雷撃を、レイシーはすんでのところで躱した。


「ほう、やるじゃねえか。だが、どこまでもつかな?」


「攻撃がはやい……!」


 雷を撃たれてから回避するのは不可能だ。だから撃ち出される前の手の動きを見て避ける他はないが、薄暗い場所ではそれすらもかなり難しい。今の二つを躱せたのはほとんどまぐれのようなものだ。

 更に魔法は打ち過ぎると疲れるはずだが、彼の息づかいが荒くなったりというような様子は伺えない。


「だったら!」


 レイシーは撃たれる前に攻める作戦に出た。足に力を込めて跳躍し、一気に彼との距離を詰める。そのまま彼の腕を掴もうとした。


「詰めが甘いな!」


「うっ、しまっ……」


 彼は素早く腕を引っ込めると、そのまま雷撃を繰り出した。空を掴み隙を晒してしまったレイシーはそれを避けきることはできなかった。閃光の槍は容赦なく少女の左腕を抉った。


「あああああっ……」


 レイシーの腕がだらりと垂れ下がり、肉が焼ける臭いが自分から漂う。出血こそ無かったが、それは傷が焼けて塞がれているからであった。命中したところから激痛が走っている。まるで熱した太い鉄串が突き刺さっているかのようだ。


「どうした、こんなもんか?」


「くっ……」


 脂汗を流しながらもレイシーは飛び退き、背後のドアを開けて逃げ出した。


「おいおい、ここは俺の屋敷だぞ? 自分の家みたいに追いかけっこに使って貰っちゃ困るんだが。それとも何だ、サンディはお前にそういうこともいいですよー、なんて教える教育をしたのか? それが家族って奴なのかぁ?」


 沸々と湧き上がってくる怒りをレイシーは押さえ込んだ。挑発に乗ってこのままコルベスと戦っても追い込まれていくだけだろう。今は一度退いて、どうするか考えなくてはならない。


「まあいい、少し時間をやるからじっくり逃げな!」




 アクロの前に、ヘンデルとグレイルは進み出た。

 奴隷では彼を倒すことはできない。ヘンデルは自らの血筋に受け継がれてきた突剣を、グレイルはグリムが託してくれた剣をそれぞれ握っている・


「切っ先が震えているな、王子。病にでも罹ったか?」


「へぇ、あんたに気遣いされるなんてね。その気遣いをグリムにちょっとでも分けてあげて欲しかったな。殺す前に踏みとどまる、とか……ごほっ、ごほっ」


「ほう、口の方は切れるようだ。だが、死合いはいかなる好機もモノにし、勝利するのが常道……手加減は、できぬぞ?」


「やれるものならやってみなさい。私と兄上はアンタなんかに負けたりしない! カールの仇、取らせて貰うわよ!」


「小娘か。お前にも期待しておるぞ。あのときの雪辱、果たして見せよ」


 三人の間で空気が震える。先ほどまで叫んでいた奴隷も、抑え込もうとしていた兵士も、一人とて動くことはできなかった。全員が味方だったかのように沈黙を守り、固唾を呑んでそれを見守っている。


「では……参るぞ!」

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