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レイシーのぼうけん  作者: 偶像兎
第二章 少女とたたかいの鬼
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全てを明かす Ⅲ

「で、俺はどうしたらいい?」


「わたしは?」


 セコロとレイシーが尋ねるのはほぼ同時だった。


「セコロ、君は奴隷を扇動してほしい」


「せ、扇動……!?」


「ああ、奴隷たちをやる気にさせて、兵士たちに立ち向かわせてほしいんだ。残念だが、僕達四人で相手の警備をかいくぐるというのは無理がある。僕の病気のせいでこっそり行くという手段も使えない。迷惑をかけてしまう事になるが、こうするしか方法はない」


 王族として、守るべき民を扇動して助力させるなどよからぬことであるのは間違いない。しかし、彼は覚悟を決めていた。


「……これは、戦争だ」


「んー、そうか。できるだけやってみるけどよ、問題が二つあるぜ」


「何だい?」


「まず一つ目だ。この地域の奴隷は弱い。ロクな食べ物も無く、ずっと過酷な環境では働かされていた連中だ。良いもん食って武装して、訓練までしてる兵士にどうやって勝てるって言うんだ? 殺されておしまいだぞ」


「大丈夫だよ。彼らは死なないからね」


「死なないって……あっ」


 ヘンデルの考えに気付いたセコロは、ぽん、と手を叩いた。


「気付いたようだね。ここの奴隷は皆、コルベスの所有物だ。だから、下っ端の兵士たちに殺すことはできない。普段は殴って言う事を聞かせているかもしれないが、倒れても倒れても相手が向かってくるとなると、対処はできないだろう」


「でもよ、殺されない程度に殴られたりしたらどうするんだ? 骨を折ったりするだけで、使い物にならなくなるぜ?」


「それも大丈夫だ。奴隷の中には体が弱っている者も多い。コルベスの怒りに触れて今の生活を失くしてしまうかもしれないとい考えると、どうしても加減せざるを得ないはずだ。それに、骨を折ったらその分労働力が減る。領内の労働力のほとんどを奴隷で補っているこの地域にとって、それはかなりの痛手のはずだ。そうなればますます処分される確率が高くなるだろう」


「本当か?」


「ああ、奴らは今の生活を楽しんでいる。食べ物も、夜もの楽しみもあるからね……忠義を果たすよりは、失いたくないと思うはずだ。………ただ一人を除いてね」


「アクロね?」


 グレイルが横から言った。


「ああ。だから僕達で、あいつを止めるんだ。グレイル」


「ええ、兄上。グリムの仇、今度こそ討ちましょう。……だけど、無理はしないでね」


「ああ。頼りにさせてもらうよ」


「なうほどな、大体理解できた。でもな、もう一つ問題がある」


 セコロは最初の問題よりむしろこちらの方が心配だと言いたげな様子だった。


「ここの奴隷は心を折られてる。俺達が歯向かったところで、賛成してくれる奴がどれだけいる? 扇動しろと言っても、俺は女神様でも救世主でも英雄でもないぞ」


「そうだよヘンデル。みんな、みんな……」


 レイシーは自分が助けようとした子供たちの事を思い出していた。あの生気の抜けた身体に、光の無い目。どうやって彼女らを仲間に引き込むのだろう。


「……光がないなら、灯してやればいい」


 レイシーの思考を読んだかのように、ヘンデルが言った。


「どうやってやるの?」


「もう考えてあるさ。これはね、レイシー。君にやってもらわなくちゃいけない事だ」


「わたしに?」


「ああ。とても大変で、一人でやらなくちゃならない。だけどこれができるのは、この中では君だけだ。頼めるかい?」


 おれはレイシーにとって願ってもみない申し出だった。まだチャンスがある。あの子たちを、もう一度助けられるのなら。


「……やりたい。やらせて!」


「よし……ごほっ」


 我慢が限界を迎えたように酷く咳き込むと、彼は再び床に横たわった。


「お、おい……血を吐いてるぞ!」


「兄上!」


「ヘンデル……! 大丈夫!?」


「大丈夫だよ……民に協力を頼むんだ、僕がしっかりしないと……」


 そう言いながらも、彼の身体は震え、脂汗を浮かべている。寒さと暑さを同時に受けたかのような、苦しそうな表情だった。


「……明日、決行しよう。レイシー、僕の作戦を聞いてくれるかい?」


「……わかった」

復活したばかりだというのに、今週は短くなってしまいました。これからもがんばりますのでよろしくお願いします。

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