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レイシーのぼうけん  作者: 偶像兎
第二章 少女とたたかいの鬼
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全てを明かす Ⅱ

休ませていただきありがとうございました。今週より再開いたします。よろしくお願いいたします。

 彼が妹を失っていたのだという事を、レイシーとグレイルはここで知った。


「セコロ……」


 大切な人を失う悲しみはレイシーの心にも深く刻みつけられている。彼は悲しい顔をするなと言ったが、レイシーの胸の痛みは抑えられそうにもなかった。

 グレイルも同じ気持ちらしい。目にこぼれそうな涙を一杯に溜めていた。


「……そうか。仕方ねえな」


 周囲をぐるりと見回して、セコロは大きくため息を吐き出した。


「じゃあ、もうこんな思いをする奴が増えないようにしてくれ。もっといろんな所に目を向けて、俺の妹みたいに命を奪われる奴がもういない世の中にしてくれ」


「……ああ。この名にかけて、誓おう」


 ヘンデルは冷静な態度を崩していなかったが、王族でありながらこの地域の惨状に気付いていなかったことを悔やんでいたのかもしれない。

 だとすると、セコロはそれをわかって彼を叱ってくれたのだろう。


「私からも謝るわ。セコロ、騙していてごめんなさい。妹さんを助けてあげられなくてごめんなさい」


「わたしも。ずっと黙っていてごめんなさい」


「そう辛気臭い顔をするなよ。……実を言うとな、この現状をぶっ潰したかったんだ。仲間が増えて嬉しいよ。それにな、レイシー」


「えっ、なに?」


 いきなり名指しされて、レイシーの肩がぴくりと跳ねた。謝罪の後なので、何か言われるのではないだろうかと身構えてしまう。


「そう驚くなって。実はお前、俺の妹に似てるんだ。年頃とか、笑い方とかな。雰囲気も似てるし……だからな、その……えっと」


「その……死んじゃった妹に?」


「ああ。だから、お前が大の男を倒せるくらい強いのはわかってるけど……あ、あんまり危ない事をしてほしくねえんだ! 俺に、お前を守らせてほしい! これ以上、妹を失いたくねえんだ!」


 どもりながらも言い切った、というように、セコロは本日二度目のため息をついた。


「面と向かって言うのは、思った以上に照れくせえな……でも、お前らも隠し事を離してくれたんだ。俺も話さなくっちゃな」


「そっか……ありがとう。わたしを気にかけてくれて。だけど、わたし、守られるだけは嫌だよ」


 ヘンデルやグレイルだけではない。新たな仲間も、自分を好きになってくれた。そう思うと、悲しみの代わりに嬉しさがこみあげて、四肢に力がみなぎった。


「わたし、戦うよ。ここにいるみんなのために。そして、あなたの妹のために。何があっても戦って、勝って、みんなで生きてここから出よう!」


「お、おまえ……ああ! やろうぜ!」


 二人は固く握手を交わした。セコロの手は岩のようにごつごつした、大きく逞しい手だった。


「それとね、かっこよかったよ。自分の思ったことを、ちゃんと言うセコロ」


「……おまえぇぇぇっ……! やっと恥ずかしくなくなった所だったのに……ああ、思い出したらまた……」


 顔を真っ赤にして目を背けるセコロを見て、三人の笑い声が起きた。




「さて、ここからは作戦会議だ。僕達には頼もしい仲間が増えたが、依然として数は奴らの方が上だ」


 病で横たわるヘンデルを中心に、三人は寄り集まっていた。


「私が記録をするわ。兄上、無理の無いようにお願いするわね」


きれいな星明りが彼らを照らしている。その光を頼りに、グレイルが地面に棒で文字を書くのだ。


「ああ、宜しく頼むよ。まずセコロ、君は戦えるかい?」


「同じ年ごろ同士の喧嘩ならまあまあってとこだが、兵士が相手となると……無理、だな。すまねえ」


 彼はばつが悪そうに地面を見た。


「こんななのに、さっきは守るなんて大層なこと言って。ああ、また照れくさく……」


「大丈夫だ。戦えなくても、彼女を守る策はある」


「……本当か!?」


「ああ。後で説明しよう。それじゃあ、戦えるのは僕、グレイル、レイシーの三人か」


「待ってください、兄上。兄上は病気なのに。それでまともに戦えるの?」


「……さすがに健康な時には及ばないよ。だけど、全く戦えないわけでもないさ。グリムは調子の悪い時でも戦えるように訓練を付けてくれた。この王家に伝わる突剣の限り、僕は戦ってやる」


「そう……だったらいいけど、無理はしないでね」


 ヘンデル、グレイル、レイシーの名前が地面にかかれ、その横に「戦える」と書かれた。


「よし、その中でアクロを止められるのは僕とグレイルだ。僕はできるだけ、奴だけに見つかりやすい所に行かないといけない」


「なあ、アクロって誰だ? 敵か?」


 「ええ、アクロはここの領主の用心棒で恐ろしく強いの。……仲間も一人、あいつにやられたわ。あいつは、味方の介入も、敵の手助けも、あらゆる物事を「死合」と称して戦う。袋叩きにされてはかなわないわ」


 ここでグレイルはヘンデルの手を握る。病人相手なので加減はしているようだが、離さないと言わんばかりだ。


「兄上。私も一緒に戦うわ。あいつを今の兄上一人で止めるのは難しいし、それに、兄上までいなくなったら……」


「……やれやれ。協力は頼むつもりだったよ。だけど、いざとなったら僕を盾にして逃げてくれって言うつもりだったんだけどな……そう言われてしまうと言えなくなるな。先を越されたよ」


「みんなで生きてここから出ようって、レイシーも言ったでしょ。そういう事はしては駄目よ。ついていくわ、どこまでも」


 グレイルはにっこりとヘンデルに笑みを向けた。


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