全てを明かす Ⅰ
久しぶりに土曜日更新できました。今後ともよろしくお願いします。
コルベスの居場所に通じる所であれだけの騒ぎになってしまった以上、このまま二人で攻撃を決行するには無理があった。
幸いにも包帯で顔は隠せていた。同じ年代の奴隷も多く居る。実行したのが誰なのか簡単には気付かれることはないだろうが、それでも多くの子どもを傷つけてしまったことには代わりはない。肺にのしかかってくるような失意の中、レイシーはグレイルと共に住処へと戻ってきた。
「ただいま……」
「兄上、今帰ったわ」
「ああ、おかえり……」
星の無い夜空の下、箱を並べて作った粗雑なベッドに横たわっていたヘンデルは表情こそ笑顔で二人を迎えてくれたが、呼吸は荒く、汗で濡れた金髪がべったりと額に張り付いていた。
「どこへ行っていたんだい……? ごほっ」
「少し用事があったので行っていたのよ。それより、兄上は大丈夫だった?」
「なんとか、ね。病人を置いて行くなんて、よほど大切な用事だったのかな?」
「い、いえ、それは……」
心配させないためとはいえ、彼に黙っての出撃だった。返事がしにくい質問を投げかけられたグレイルは焦りを隠せない。こちらをからかっているかのような物言いに、レイシーは少し違和感を覚える。彼の頭の良さは旅で散々見てきた。これはもう、二人で攻めようとしていた事に気付かれていると考えて間違いないだろう。彼はセコロと共にただ留守番をしていたわけではないのだ。
「……あれ、そういえばセコロはどこに行ったの?」
「ここだよ」
住処の外からセコロの声が聞こえた。
「セコロ? どこに行ってたの?」
「……僕がお願いしたんだ。看病をするより、君たちの様子を見に行ってほしいとね」
「兄上……!」
グレイルは焦り、くぐもった声を出した。
ヘンデルは彼女をからかっていたが、それ故に二人がコルベスと戦うために情報を集めているという事には気づいていたのだろう。
そうであるにもかかわらずセコロ二人を見て来てくれと依頼したという事は、必然的に彼をこの一件に巻き込んでしまうという事だ。ヘンデルがそれをわからないはずはない。
「……気持ちだけでどうにかできるわけではないと、僕は思ったんだ。今や僕は病人だからね。三人で攻めること自体が大きな賭けだった。でも、それが出来ない以上は仕方がないんだ」
「……」
正論だとレイシーは思った。グレイルもここから二人で攻めるのは無謀であると薄々感じていただろう。それに、ヘンデルの身体がどこまで病魔に耐えられるかわからない以上、少しでも勝てる条件を整える必要があるのだ。
「セコロ……巻き込んで、ごめんなさい……」
「あんた達、ただの旅人じゃないなって思ってたよ。で、本当は何なんだ?」
「隠していてすまない。僕たちは王族なんだ」
王族。その言葉を聞いたとたん、ヘンデルの表情が固まった。
「……王族?」
「ああ。僕はヘンデル=フォン=アイルーン。この国の王子だ。こっちは妹のグレイル。王女だよ。レイシーは王族ではないけれど、僕達の仲間だ」
「王……王、か……」
セコロは噛み締めるように呟いていたが、突然顔を上げて横たわるヘンデルに詰め寄った。
「……だったらなんで妹を助けてくれなかった! 何でこんなになっている場所があるのに、苦しめられている子どもがいるのに、何もしてくれなかった!」
吐き出すような怒鳴り声が、静かな夜を打ち消す。レイシーは驚いたが、それ以上に悲しくなった。
「セコロ……」
「……ごめん。怒るべきなのは、お前じゃないよな。レイシーも、ごめんな。そんな悲しそうな顔をしないでくれ」
「いいんだ、すべて僕の失敗だ。王都で生き残ることに精いっぱいで、外まで僕の目が向いていなかった。ここに来てそれを恥じているよ。この病気も僕に対する罰なのかもしれないな……」
ヘンデルは咳き込みながら自嘲的に笑った。