表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
レイシーのぼうけん  作者: 偶像兎
第二章 少女とたたかいの鬼
133/176

気持ちがはやる Ⅱ

いつもお読みくださりありがとうございます。土曜に更新できなかったので、本日は日曜更新とさせていただきます。

少し量も少な目となってしまいましたので、次回は頑張って書きます。

「誰かいるのか!?」


 がちゃがちゃ、金属の混じった足音とともに、図太い男の声が聞こえた。


「まずい、見張りよ!」


「うん!」


 二人はとっさに小屋に回り込んで身を隠した。すぐに見張りの男がやってきて、開け放された小屋の入口前で止まった。


「今喋ったのはどいつだ? 何故扉が開いている?」


 小屋の中から何か言葉が返される様子は無かった。が、その沈黙こそが、子どもたちの恐怖を何よりもよく物語っていた。


「まさか、外に出ようとしたのか? そもそもお前らが私語をしていいわけないだろ? ああ腹が立つ、こんなことで俺の手間を取らせやがって。奴隷の癖によ!」


 男の怒鳴り声。ひっ、というひきつった悲鳴がその後から聞こえた。


「もういい、誰か一人来い! お前がいいな、そこの小娘。可愛がってやる」


「……今!」


 レイシーは飛び出すと、男の足元を蹴って払った。


「あっ!?」


 ひっくり返った男の後頭部を加減しつつも力を込めて殴る。男の目玉がぐるりと回り、動かなくなった。


「よし、これでいいわね」


「さぁ、逃げよう!」


 しかし予想に反して子供たちはレイシーの呼びかけには答えなかった。全員が驚きと恐怖の混じった目で、この二人の少女を見つめるばかりだった。


「ど、どうしたの? 逃げていいんだよ」


 しかし奴隷は動かない。誰も立ち上がろうとせず、薄暗い部屋の中で脱力しきっている。誰ひとりレイシーにもグレイルにも、目を合わせようとしない。


「なんで!? みんな、このままだと死んじゃうよ!」


 壁に寄りかかっていた少女の一人がようやく口を開いた。


「逃げたところで行くあて、ない……」


「大丈夫! 私達の今いる家の近くには、まだまだ住めそうな場所があるわ。そこまで来てくれたら……」


「行けない……あなた、誰……?」


「何を話している!」


 また暗闇の中から声が聞こえた。松明を持った誰かがこちらへ近づいてくる。


「まずいわ、隠れて!」 


 二人は再び慌てて身を隠した。

 今度の見張りは先ほど倒した男と比べても頭一つ分は大きかった。上半身には何も着ていない。脂肪と筋肉がほどよくついた体つきが暗がりでもよく見て取れた。

 彼はすぐに倒れていた衛兵に目をとめると、烈火のごとく怒った声が空気を震わせて響いた。


「声が聞こえたから来てみたら……お前ら、脱走しようとしたな? コルベス様の所有物の分際で!」


「ち、ちがう……変な人が来て、やっつけていった……」


「嘘をつくな! このできそこないの奴隷共め……お前らが騒がしいせいで、こっちは女と楽しむこともできねえんだよ!」


 人が殴られる音と、短い悲鳴が聞こえた。レイシーは飛び出し、男を止めようとした。


「駄目よレイシー、見つかっちゃう!」


「なんだ?」


「奴隷が脱獄を企てやがった。この奴隷共にダニーがやられたんだ」


「なんだと……許してはおけんな。俺も起こされたんだし罰を加えさせろ」


 この男が大声で怒鳴ったせいで、ぞろぞろと他の人が集まってきた。こうなってしまうともう助けられないのはレイシーにもわかっていた。


「こうなっちゃ全員で罰を与えるか」


「ああ。ここに来た全員、十回ずつは鞭打ちでもしていいだろうな。そうでないと、俺達の楽しみを妨げた罪は拭えんだろうな」


「俺はこの子にするよ。苦しむ顔が見たい」


「なあ、鞭で首を絞めるのは有りか?」


「お、お願い、やめて……みんなだけは……」


「へえぇ、口答えするんだ。偉いねえ?」


「……うぅ……」


「……行きましょう。もう私達にできる事は無いわ。残念だけど……」


「……」


 悲しかった。

 良かれと思ってやったことなのに、グレイルにも、ヘンデルにも迷惑をかけてしまったのに。むしろ救いたかった子どもたちを傷つける結果になってしまった。

 グレイルもレイシーと感情を共有するように、怒りと悔しさで包帯の残る顔をゆがめていた。

 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ