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レイシーのぼうけん  作者: 偶像兎
第二章 少女とたたかいの鬼
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鉱山で働く Ⅰ

 埃っぽい洞穴。吸い込むだけで肺がむずむずする。

 鉱山は狭い上に蒸し暑い。身を置いているだけでじっとりした汗が染み出てくる。


「あれが、連れてこられた子どもたちか……」


 既に自分と同じくらいの大きさの子どもたちが縄をつけられ、重い鉱石の入った容器を延々と運ばされていた。身に着けた粗末な衣服は刃物で裂かれたようにぼろぼろで、その下からは痛々しい生傷が見えていた。

 子どもたちはその痛みに喘ぐこともなかった。生気がなく、まるで死体が動いているかのように黙々と働き続けている。


「何、これ……」


「……可哀想に…いつ見ても酷いな……」


「いつ見ても……? ここに来たことがあるの?」


「……ああ。ずっと前にな」


 これ以上は話すことができないまま、この場を監督する男に見つかった。すぐに四人は仕事に当たらされることになった。


 ここでの奴隷の仕事は奥で鉱石を掘り出すこと、掘り出した鉱石をトロッコに載せる事、残りの鉱石を入口まで運ぶことだった。


「早く載せろ。こっちだって暇じゃないんだからよ」


 トロッコを動かす役の男は面倒くさそうにふんぞり返っていた。


「俺の服を汚すなよ? 汚したら今夜部屋に来てもらうからな」


 レイシーは煮えたぎる怒りを抑えるため、奥歯を強く噛んだ。。セコロも、ヘンデルも、グレイルも、目を伏せて怒りをかみ殺していた。


 レイシーたち四人は鉱石を入口まで運ぶ役に割り当てられた。

 トロッコで運びきれない分を搬出し、鉱山入口の馬車に積んでいく。そしてまた戻るの繰り返しを、多くの子どもたちが列をなして行っている。

 重さは気にならないが、歩き続けたせいで地面に足を突くたび痛む。関節がひび割れたかのようだ。


「お前、大丈夫か?」


「大丈夫だよ……。ちょっと足が痛いけど、まだまだいける」


「レイシー、無理はするな。奴らだって全部を見張っているわけじゃないし、ここにも見張りの気配は感じられない。ちょっとくらい僕達に石を分けてくれてもいいんだよ」


「そうよ。いくら力があっても慣れていないのだし、無理することはないわ」


「大丈夫だよ! 力仕事は得意だし、みんなも無理してるでしょ? グ……じゃなくてアリエッタとヤーコブも仕事に慣れてないのは同じだし」


「それはそうだけど……」


「……まずいみんな、見張りが来た!」


 鉱石を掘り出すところを監督していた男が突然歩いてきたので、慌てて会話を止めた。彼は列の前を歩いていた少女を呼び止め、何やら話している。


「よう嬢ちゃん、あんた可愛いな。どう?」


 セコロはそれを侮蔑を込めた目で見つめている。


「クソ野郎……」


 見張りは少女と話し込んでいるようなので、レイシーは小声で聞いてみた。


「セコロ、あれは何?」


「あれは、その……」


「売春、ね?」


 言葉に詰まったセコロに代わって、グレイルが言った。


「バイシュン…?」


「何かを得るために、好きでもない人と関係を持つことよ」


「ああ……ここに居る奴隷は奴らみたいな見張り番でも、殺さなければどのように扱ってもいいんだ。鉱山で働くのは若い連中が多いから、奴らの格好の餌食になるんだよ」


「酷い……!」


「連れて行かれた人はどうなる?」


「わからん。だけど、連れていかれた子を再び見たことはない。少なくとも、生きたままではね。やっと働かなくていいと喜んでついてった子が多かった」


「そんな……」


「お前も気を付けるんだ。アリエッタも注意してくれ。奴らは男も女も連れて行くが、声をかけられるのはやっぱり女の方が多い。女の子は、泥か何かでできるだけ顔を汚しておいた方がいい。そうすれば目をつけられる可能性が減る」


 声をかけられていた列の前の少女は生気を取り戻したようににっこり笑った。石が詰まった籠を投げ捨てて、うきうきと小躍りしながら兵士に肩を抱かれていった。

 ここから彼女がどんな責め苦に逢うのかと思うと、レイシーはやりきれなかった。


「……」


 唇を噛んで目を伏せようとしたとき、すぐ目の前の少女が鉱石の重みでふらついていた。


「あっ、大丈夫?」


 少女は答えなかった。レイシーの言葉が耳に入らないというように、黙々と足を前に進める。


「ねぇ。その石、わたしが運んでもいい?」


 少女は答えない。了承と見なして、ひょい、と持ち上げてやった。

 軽い。疲れに蝕まれている身体でも、力を出すことは出来るこの身体に感謝した。


 呪縛が解けたように彼が驚いてこちらを見た。ようやく自分の存在に気付いてくれたようだった。


「大丈夫だよ。ゆっくり休んでね」


「ありが、とう……」


 少女の顔にほんの僅かだが、笑みが戻ってきた。


「……何!?あんた、力持ちだな…」


「うん。昔から得意なんだ、力仕事」


「レイシー、君の優しさを邪魔するようですまないが…あまり力は使わない方がいい」


「どうして?」


 ヘンデルはレイシーの耳に顔を近づけた。グレイルも寄ってくる。


「レイシーの事はすでにばれている。力持ちの少女がいる、なんて奴らに知られてしまったら、潜入が台無しになってしまう」


「あなたの優しさは本当に素晴らしいけど、私達はこの戦いに勝たないといけないわ。だけど兄上、今はいいでしょう?見張りは行ってしまったんだし」


「……そうだね。だけど、気を付けてくれよ。みだりに力を使えば、何もかも無駄になるかもしれない。それを覚えておいてくれ」


 このような事を言うのはヘンデルも辛いのだろう。この潜入を始めてから、辛い事ばかりだ。早く戦いを終わらせて王都に入りたいと、レイシーは心から思った。

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