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レイシーのぼうけん  作者: 偶像兎
第二章 少女とたたかいの鬼
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辛苦を耐え忍ぶ Ⅱ

「……いっけね、俺何言ってるんだ。昨日来たばっかりなのに。変なこと言って悪かったな」


「……家族、かぁ」


 そう聞いていつも思い出すのは屋敷での日々だ。

 しかし、今はもう一つ思い出せるものがある。同じように大切な、ずっと新しい記憶。


 オーネも、オーネの父も、オーマーも、ヘンデルも、グレイルも、グリムも、皆温かかった。これもまた、家族と過ごした屋敷での思い出と同じくらいかけがえのないものだと思う。

 だとしたら、それもまた家族と呼んでいいのではないだろうか。


「あれ、よく考えてみたらオーネやヘンデルやグレイルは友だちでもあるし、でも家族みたいだし……どっちかな?」


「家族だから友情があったら変、というわけではないわ。大事だっていう気持ちに変わりがないなら、呼び方はきっとなんだっていいのよ」


「そうなの。だったら、セコロも家族だね」


「……おい、正気か? だからまだ合って一日経ったかどうかって言うのに」


「一緒にいた時間なんて関係ないよ。セコロのスープ、美味しかったし、温かいよ」


「……おう。照れくせえ……」


 にっこり笑ったレイシーを見て、彼はばつが悪そうに眼をそらした。


「目まで似てやがる……あいつが戻って来たみたいな……」


「? セコロ? 何か言った?」


「いやいや、なんでもねえよ。ほら、今日もできた。冷めないうちにスープ、飲んじまいな」




 その後、セコロが夕食の片付けをしている間にこれからの旅の予定を話し合うことにした。

 隣に友達がいるのに隠れて会話を行うのにもどかしさを感じながらも、仕方がないと自分を騙し騙し、二人の輪に加わった。


「僕達の今日の仕事は農作業だったけど、奴隷の仕事はまだまだあるらしい。どの仕事に当たらされるかは、その日によって変わったり、変わらなかったりするみたいだ」


「個人的にチャンスだと思っているのは鉱山での仕事ね。最寄りの鉱山でもこの奴隷居住区から離れているから、もっと広く領内を見て回ることが出来るわ」


「よく調べたね……わたしは疲れて、仕事で精いっぱいだったよ。力はあるのに疲れるなんて、私の身体なのに変だなあ」


「お疲れ様。ゆっくり休んでいてね」


「辛いけど今は少しずつ前に進むしかない。もっと情報が集められるまで耐え忍ぼう。セコロも僕達に良くしてくれている。みんなで協力して乗り切るんだ」




 奴隷に混ざった生活を始めてから数日が過ぎると、身体が露骨に疲れを訴えてきた。

 全身が重く、一度寝ると起き上がりたくない。関節に何かへばり付いているように重たく、気怠い。

 栄養が足りないせいだろうか、寝ても覚めても脳みそと目玉の間に針が刺さっているような痛みがずきずきと居座っている。


「おはよう、レイシー。セコロは一足早く行ったみたいよ」


 綺麗なヘンデルとグレイルの横顔も、段々と泥で汚れてきていた。


「こんなことが行われている地域が、この国にあったんだな……反省している」


「そうね……でもここの人たちは、もっと色んな物を失くしたり、痛めたりしている……」


「自分の身を守るので精一杯で王都の外に目が行っていなかった自分を恥じたよ。僕の目指す王はそういう物ではない。この身で学んだよ」


「うん……今日もお仕事、頑張ろう」


 その日も全身がくたくたになるまで働かされ続け、食事もセコロのスープだけだった。彼の作るスープは美味しく温かいが、それだけで空腹を満たせるか、と言われればそうではない。 

 生まれた時からこんな事をやらされ続けているなんて、考えただけでぞっとする。レイシーは奴隷たちを心底尊敬した。

 そして、その内に日数を数えるのをやめてしまった。



 その日の眠りを覚ましたのは、聞いたことのない声だった。


「起きろ娘」


 眠る自分の横に立つのは壮年の男だった。男の服装は汚れた家とは対照的な小奇麗なコートで、腰に剣を指している。

 兵隊だ。レイシーはわずかに残る眠気を押し殺し、彼の方に向き直る。セコロやヘンデル、グレイルもみんなすでに起きており、彼を見据えていた。


「命令だ。お前たちは今日から鉱山で働け」


 全員が息をのんだ。


「ねえセコロ、わたしたちはよそ者だけど、ばれてないの?」


「ふつうここには奴隷しかいないし、末端の奴らはこちらの顔まで覚えちゃいない。使える労働力がある、くらいにしか思っていないさ。それよりも、だ」


 彼はこちらを割れ物の美術品を見るように、心配そうに見た。


「……お前、大丈夫か? 鉱山での労働はきついし、死んでしまった奴も多い。耐えられるか?」


「お仕事は疲れるけど、大丈夫だよ。セコロはどうして、そんなにわたしに優しくしてくれるの?」


「それは……」


 セコロに元気がない。触れられたくない部分を覆い隠すかのように、レイシーからも目をそらしてしまう。

 その一方でヘンデルとグレイルは決意に満ちた表情を浮かべていた。


「思ったより早くこの時が来た。準備はいいかい?」


「ええ。私達の身元もまだばれていないようですし、今日で一気に手を進めましょう。レイシーはお仕事に集中してくれていいわよ」


「わかった。邪魔をしないように、しっかり働くよ」


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