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レイシーのぼうけん  作者: 偶像兎
第二章 少女とたたかいの鬼
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今後の話をする Ⅲ

土曜日は更新できず大変申し訳ございませんでした。

埋め合わせとして久々の水曜日更新をいたします。

 洞窟を出発してしばらくの時間が経った。曇り空の下でふと、レイシーは手に目を落とした。

 切り落とされた腕は徐々に治ってきて、今ではほぼ完ぺきに手先まで形成されている。まだ少しじんじんと痺れたような感覚こそあるものの、十分体の一部として使える状態だ。

 手は治っても大手を振って歩けないこの旅路は、精神を少しく鬱屈させた。暑苦しい変装用のマントの中、歩きにくい靴底でふらふらしながら、レイシーは足を進め続けた。

 何より常に自分が狙われているという事実のせいで、始終気が休まらない。一方で馬を引きながら前を行く二人はこんな事にも慣れているのか平然としている。


「手の方はどうかしら?」


「もうほとんど大丈夫だよ。心配してくれてありがとう」


「それはよかった。だけどレイシー、もう少し背筋を伸ばしたほうがいい。歩きにくいのはわかるけれども」


「あっ、ヤー……じゃなくて、ヘンデル王子。ごめんなさい」


 知らぬ間に猫背になってしまっていたらしい。慌てて背をしゃんと伸ばす。


「心がけは良いけど少しコソコソしすぎだよ。もう少し堂々と歩いたほうが逆にばれないものさ。ただでさえマントで隠してるんだから、これ以上したら逆に怪しいと思うな」


「そ、そうだね。ごめん」


「あと、僕の名前は呼びやすい方で構わないよ。国民にとってはヘンデル王子でも、君にとってはずっとヤーコブだったからね、急に変えるのは難しいだろう?」


「それはそうだけれど、王子様の名前を間違えたら駄目だと思って……ちゃんと呼べるように気を付けないとって思ったんだ」


「あら、私もこれからはグレイル王女って呼ばれるのかしら? なんだかレイシーが遠くに行った感じがするわね。少しさびしいかも」


「うーん……だったら、失礼かもしれないけど、ヘンデル、グレイル、でいい?」


「良いと思うよ。僕たちは王族である以前に、君の友だちだからね」


 こちらの緊張を察してくれたのか二人が快く会話を振ってくれたおかげで、少し呼吸が楽になった。


 平野の道を通っているので、稀に脇に生えている木以外には身を隠せるところもない。人の多いところでは目立ちすぎないように馬を引いて歩き、人気のないところでは馬に乗って出来る限りの高速で移動した。何度も何度も繰り返しているが、幸いにも今のところは怪しい者の気配はない。


「そうそう」


 くるりと、前を歩いていたグレイルの後頭部が横顔になる。綺麗な緑色の目がこちらを捉えた。


「なんだか、場に流されていたけどよく考えたら三人で戦うってかなり無茶よね。本当に大丈夫?」


「大丈夫だよ!王子はね、グリムと二人で王都に乗り込んだんだよ!……人形劇の話だけど」


「グリム……ね。私はずっと城に捕まってたから、兄上が城まで突入するのは知らないわ……悔しいけど」


「確かに、今回はかなり無茶かもしれないな。……本当は、今回の旅はサンディたちにも協力してもらおうと思っていたんだ。市場でよくその相談をしていたよ」


「そう、なの……」


 彼女の名前を聞き、胸がしくりと痛む。しかし、ヤーコブではなく、ヘンデルという王子の口からその名前が出てきたからであろうか、別の疑問もわき上がってきた。


「あれ、そういえば…サンディはヘンデルたちの友だちだから、王子様と親しかったっていうことになるよね。そういえばわたし、まだサンディのことをよく知らないかも。どうしてラムラや王子と親しくなったんだろう」


「僕たちの敵にもかかわることだし、話しておこう。サンディは元々貴族の生まれなんだ」


「サンディもいろんな人と一緒に、お屋敷に住んでいたの? 王都に行ったら、その人たちにも会えるかな?」


「だけど、生まれた家が悪くてね……彼女は血の繋がった家族に虐待されていたんだよ。それで、あそこに隠れ住んでいたというわけなんだ」


 レイシーは耳を疑った。あんなに優しかった自分の太陽が、他の誰かに苦しめられていたなど考えたくもない。

 しかしこれは、知っておかなければいけない事のような、予感めいたものがあった。


「家族が、そんなことをするの……?どうして……?」


「レイシー。家族が幸せなものだと思っているあなたには、酷かもしれないけれど……近しいからこそ、疎ましく思われることもあるのよ」


「サンディ、わたしをずっと家族だって言ってくれてた。家族って、いいものじゃないの? なんで、そんな……」


「色々な性格の人間がいるように、全部の家族がそうだとは限らないのよ。サンディは実の家族に散々利用されていたのよ。その貴族が私達に取り入って来た時に彼女とは出会ったわ。何とかしたいと思ったのだけれど、その時はまだ幼くて、どうしようもなくて……」


 グレイルは目を抑え、ため息をついた。


「そしてそいつらが、きっとサンディを襲った犯人。今回の私達の敵にも加担しているわ」


「……何だって?」


 悲しみと困惑が追いやられ、怒りがふつふつとわき上がった。歩く一歩一歩に力が入り、道路に抉れたような足跡を作った。


「……サンディとグリムの仇を取る。わたし、絶対にそいつをやっつける。許さない」


「……ええ。私達も一緒よ。頼りにしているわ」


「ああ。それから笑って王都に行こう。この名に懸けて、成功させてみせる」


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