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レイシーのぼうけん  作者: 偶像兎
第二章 少女とたたかいの鬼
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今後の話をする Ⅱ

今回から

ヤーコブ→ヘンデル

アリエッタ→グレイル

に呼び方が変わります。

「さて、これからどうするかだね」


 三人は焚き火を囲み、顔を寄せ合った。傍から見れば命運がかかった会議ではなく、子ども同士の楽しい密会のように見えるだろう。


「王都にお手紙を出したら? 近くに来てるってことを知らせたら、誰か迎えに来てくれるんじゃない?」


「そうしたいのは山々だが、あんな戦いの後だからね。王都周りの警備は厳しくなっているだろうし、敵に見つけられたらそこで足がつきかねない」


「それに仮に王都の中に手紙を届けられたとしても、私達に刺客を手引きした内通者がどこかにいるわ。どっちにせよ居場所を明かして迎えに来てもらうのは、直接狙われる危険性が高いわ」


「そうなんだ……そういえば、ここはどこの洞窟なの?」


「あの後、来た道を戻ったわ。ラムラの所領から、少し東に行ったところよ」


「だけど、もう無駄な動きはできないな。僕たちは子どもだけの旅人、というのがかなり面倒な状況だね」


「どうして?」


「子どもだけで旅をするなんてとても珍しい事だし、敵は私たちが三人だけである事も知っているわ。目をつけられやすくなっているのよ」


「そういうわけで、ここからは変装が必須になる」


 そう言いながらヘンデルが袋から取り出したのは、先の丸まった木製の塊だった。ちょうど足と同じくらいの大きさで、縦にした手の平ほどの高さもある。


「これを靴に付けて、身長をごまかすんだ。そうすれば遠くからは子どもだとばれにくくだろう。あとはマントとフードで顔をできるだけ隠す事だね」


「……靴底を高くするってこと? 歩きにくそう……」


「まあ、慣れれば大丈夫よ」


 ここでグレイルが「お腹、空いてないかしら?」と、干し肉に胡椒をかけて手渡してくれた。


「次は、奴らを『やっつける』方法についてだね。大前提として、僕たち三人であいつら全員を真正面から倒すのは数の面で無理だ」


「手伝ってくれる人はいないの? ほら、またラムラさんの屋敷へ行って仲間を増やしてもらうとか」


「それは難しいわ。敵が入り込んでいたのは馬車の中だったから、屋敷にいた時点で私たちの事がばれていた可能性が高いもの。迂闊に近づいたら、あの街ごと襲撃されかねないわ」


「もし他の所で信用してもらったとしても、ラムラ領の兵は次々に倒されてしまっていた。王都できちんと装備を整えた兵でないと対抗するのは難しいだろう」


「そっか……三人で何とかするしかないんだね」


「……グリムがいてくれたら……」


「しつこいわ、兄上! 彼の為にも、もう後ろを向くのは終わりにしましょう! 切り換え、切り換え!」


 グレイルが震えた声で、精一杯明るく声を張った。


「それに今の私達には、レイシーがいますもの! きっと、勝てるわ!」


「そうだよ! わたしの力で、グリムの分まで二人を守るから、ね!」


「……ああ、そうだね。レイシーの力があれば百人力だ。だけど、仮にレイシーの力に頼っても、あのアクロという男をどうするかが課題になる」


「そ、そうだね。わたし、あの人にはちょっと敵わないかも」


 きまりが悪くなったので、誤魔化そうと干し肉を食べた。グレイルに手伝ってもらって口に入ったそれの味は、胡椒辛さがほどよく、小腹を満たすのに適していた。


「いいんだ。……あいつは僕に任せてくれ。グレイルはレイシーの手助けをしてくれるかい?」


「兄上。私もあいつと戦うわ。私もグリムから剣を習ったのよ?」


「……! グレイル、本気かい?」


「グリムと二人がかりでも苦戦したのに、兄上一人でどう戦うっていうの?」


「……刺し違えてでも、倒すつもりだった。グレイルとレイシーさえ、王都に行ければ……」


「また無茶をして! グリムのためにも、二人とも生きてたどり着かないといけません。もっと身体を大切にしなくちゃ、ね?」


「……それもそうだね。だけど、恐ろしくないのかい?あの強さを遠くで見ていたんだろう?」


「勿論恐ろしいわよ。だけど、その恐ろしいところに兄上を一人でやる方がもっと恐ろしいわ。それに、あいつは私にとって師の仇でもある。二人でグリムの仇を取りましょう」


 ヘンデルは、自分と同じ色をした目の奥をじっと見た後、ため息をついた。


「はぁ……こう言い始めたら、君は聴かないからね。さて、レイシー」


「なに?」


「知ってるだろうけど、今の僕たちに余裕はない。この三人で奴らに立ち向かうには、真っ直ぐに敵の中枢を叩かなくちゃいけない。しかし、アクロを僕達で何とか押し留められたとしても、他にどんな強敵がいるかわからない。そいつらとの戦いはなるべく避けて、まっすぐ敵の頭を倒すんだ」


「ええと、他の敵は無視して真っ直ぐ相手のボスをやっつけるってこと?」


「そうだよ。そうして組織自体を壊滅させてしまえば、もう追手はいなくなる。そうすれば、もう邪魔されず王都に行けるんだ。手を貸してくれるかい?」


「もちろんだよ、力仕事なら任せて! でも、いっぱい敵がいるんでしょ? そう簡単にボスのところまで行けるのかな?」


「それを今から調べに行こう。奴らの場所は割れてる。僕たちはそれを調べていたからね」


「すごい、ボスの居場所はどこなの?」


「ラムラ領の北だ。どうやら、貴族同盟領を裏から操っているらしい。今から僕たちはそこへ向かって、敵の詳しい様子を調べよう」


「……」


 屋敷で見た地図の青く塗られた部分と、疲れ切ったラムラの顔が頭の中に思い浮かぶ。あそこに行かなくては、この王都への旅は終わらないらしい。


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