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レイシーのぼうけん  作者: 偶像兎
第二章 少女とたたかいの鬼
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旅の終わりに夢を見る Ⅱ

「よく来たでおじゃる。協力に時間がかかって申し訳ないでおじゃる」


 退屈しない一日の陽が落ち、レイシーの腹がくうくうと鳴り始めたころ。食堂に着くと、ラムラがニコニコしながら出迎えてくれた。彼はヤーコブ達と食卓を囲めて嬉しいのか、単に食事の時間が楽しいのか、それとも気持ちを隠すのが上手いのか。仕事に疲れた様子は微塵も感じさせなかった。

 ラムラの屋敷の食堂は、サンディの屋敷の食堂を一回り大きくしたような構造だった。あの時は四人で入るのが丁度いい広さであり、それ以上人が来る場合は居間を使用していた。しかしここでは五人以上が難なく入ることが出来た。


「いやいや、こちらこそ。急なお願いを聞いていただき感謝します」


「いいのでおじゃる。旅人の安全に協力するのは領主として当然でおじゃるからな。さあ、もう料理はできているでおじゃる。冷めないうちにいただこうぞ」


 ラムラがぱんぱん、と太い手を鳴らした。

 すると、皿を手にした奴隷と従者が次々とやってきて、燭台しか置かれていなかった机を次々に彩った。

 皿はどれも銀色に輝いており、上に乗せられた料理をその光でさらに美味しそうに見せている。炒めた野菜、揚げた魚、焼いた肉。そのどれもが呼吸をしているように、ほくほく湯気を立てていた。


「おおー!」


 これほど多くの皿が豪勢に並んだ光景は見たことがない。感嘆の叫びをあげるレイシーを見て、アリエッタが嬉しそうにふふっと笑うのが聞こえた。

 今回の晩餐は各々に料理が用意されているのではなく、真ん中に大きい料理の皿を置き、それぞれが食べる分だけ取る形式だった。


「んんん……おいしい……」


 料理がレイシーの口に入り、舌に触れるや否や、それぞれが次々に主張してくる。まるで舌の上で自分が一番おいしいと、料理達が勝手に品評会を開いているかのようだ。

 大勢いる料理人だったが、一人一人に個性があるという事を改めて教えてくれるようだった。



「レイシー殿、どうでおじゃるか?この屋敷の料理は」


「とってもおいしいです……って、えっ」


 ラムラの方を見たレイシーは目を丸くした。

 彼の周りには山のように様々な食物が積み重なっている。まるで仕事をしていた時に山積みになっていた羊皮紙をそのまま料理に置き換えたかのようだった。ラムラ一人でレイシー達四人の量を既に超えていることを、レイシーは一目で理解した。


「わぁ、すっごい……」


「レイシー様、このままではあなたの食べる分がなくなるのでは?」


「……あっ!?」


「あわてないで良いでおじゃるよ。もうすぐお代わりが来るでおじゃる」


「お待たせしました、完成しました!」


 彼の言葉通り急いでフォークを掴もうとしたレイシーを止めるように、たくさんの料理人たちが再び入ってきた。その中に先ほど厨房で出会った料理人がいた。彼はお椀型の蓋をした皿を運んでいた。


「あっ、あなたは! わたしが教えたお料理、できましたか!?」


「勿論ですとも!」


 蓋を開けると、中から香ばしい湯気がぶわっと広がった。


「こ、これは……?」


 ラムラは目を丸くする。

 そこにはオリーブ色の海に浮かぶ、赤いタコの切り身があった。


「ラムラ様。これはレイシー様直伝、タコのアヒージョです。タコは疲れの回復にいいそうですよ」


「ほほう、この香りは……熱々のオリーブ油にニンニク、トウガラシにタコの切り身でおじゃるか。キノコもあって豪華でおじゃるなあ。どれどれ……」


 ラムラは興味津々にフォークを使い、タコを口に運んだ。


「お、」


 タコを味わった瞬間、彼の瞳が輝いた。


「おいしいでおじゃるううううううううううぅぅぅぅぅぅ!」


 彼は震える手でがつがつと口に残りを運んでしまう。


「あつ、パンに付けて食べたらもっと美味しいですって言おうと思ったのに……もうなくなっちゃった」


「大丈夫、こちらもまだ作ってありますよ! もちろん、皆さんの分も!」


 料理人が次々と同じ皿を運んでくる。


「わぁ、美味しそう……レイシー、あなたすごいわ!」


「そうなのか。僕達も旅の疲れが癒せてちょうどいいな」


「ですね。これはお酒に合いそうですな」


 ヤーコブ達も熱さも気にせず、タコを楽しんでいる。

 レイシーもタコをフォークで刺すと、黄緑色のオイルをたっぷりつけて、にんにくを乗せて食べた。


「……うん」


 料理人の腕は確かだった。レイシーの言葉だけをヒントに作ったにもかかわらず屋敷で食べたものが見事に再現された、懐かしい味だ。その料理人の方を向くと、微笑んでウインクしてくれた。


「それにしてもレイシー、どうしてこの料理を教えたの? あなたは食べる事が好きだから、色々な料理を知っていると思ったけど」


 幸せそうにアヒージョを飲み込んだアリエッタが手を止めて質問してきた。


「わたしの家族が、タコは疲れに効くって言っていたことがあったんだ。それで、アリエッタが修行をしている間に、厨房で料理をしていた人に教えたんだよ」


「ほう。レイシー殿がこの料理を……? それまたいきなり、どうしてでおじゃるか?」


「わたし、今までここの領地で暮らせてとっても幸せでした。それはきっと、ラムラ様がこの地をしっかり治めてくれていたおかげだと思ったんです。だからあなたに、何か恩返しがしたかったんです。それと、旅ももうすぐ終わりだから、わたしの友だちにも疲れを癒してほしいなって思いました」


「そうでおじゃるか……この領地で……」


 その言葉を聞くと突然ラムラは表情を暗くして、顔を伏せた。


「その、何じゃ……サンディの事は、残念だったでおじゃるな」


「……サンディを知ってるの!?」

 

 意外な人物から意外な名前が飛び出し、レイシーは椅子から飛びあがって驚愕した。

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