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レイシーのぼうけん  作者: 偶像兎
第一章 少女と森のやしき
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一夜明けて Ⅲ

 入浴後、今夜の赤いドレスに着替えた少女とサンディはオルガを伴って食堂に向かった。

 

既に料理は出来上がり、配膳がなされていた。爺やが頭を下げ、テーブルへと案内する。


「お待ちしておりました。今日のメインディッシュは野草のリゾットでございます。お嬢様がたが摘まれた野草を腕によりをかけて料理してみました」


 テーブルの上に乗せられた。白い大地に緑をちりばめたようなできたてのリゾットも、熱々の湯気を上げて少女たちを出迎えてくれた。

 サイドメニューはきつね色に揚げられたコロッケに添えられた野菜サラダ。いつもの果実ジュースも横に控えている。

 少女はごくり、と唾をのんだ。また見たことのない料理だ。新たな出会いを前に、胸が高鳴るのを感じる。

 もう抑えられない。早くあれを味わってみたい。


「さあみんな、テーブルについてくださいな」


 4人が食卓を囲む。全員の顔をぐるりと見渡してから、サンディは食事開始の合図を出した。

 その瞬間、まるで飢えた獣が好物にありつくような勢いで少女はスプーンを取ると白と緑に彩られたリゾットを口へ運ぼうとした。

 しかし、湯気の熱を顔に感じたところで腕は途中で止まってしまう。サンディが腕を抑えているのだ。


「!!!?」


 どうしてこんなことを?寸止めされた少女が困惑していると、サンディは少女の持つスプーンにふー、ふーと息を吹きかける。湯気の勢いが少し弱まった気がした。

 そこでサンディはようやく少女を放してくれた。念願の野草リゾットをようやく口に入れると、シンプルでありながら野草の味やほどよい塩辛さ、ほのかな甘さが少女を楽しませた。


「んぁ~……」


 とろっとした米がそれらの味を一つに束ね、少女の味覚を支配する。まるで米の真っ白なキャンバスに豊かな森の絵を描いたかのような、そんなイメージが頭をよぎった。

 また、料理は程よい温かさに整えられている。

 なるほど、興奮で気付かなかったがなかなか熱い料理だ。あのまま食べていたら紅茶の時のように口を熱さに苛まれていたかもしれない。サンディはそれに気づいて料理を冷ましてくれていたのか、と少女は思った。

 サンディの方を見てみると、笑顔で部屋の隅に置かれたバスケットを指さしている。この野草は今日自分たちで取ったものを使った、と教えてくれた。

 そう思うとなぜだろうか、さらに料理が美味に感じる。


「はふっ、はふっ」


 少女も自ら湯気を吹き飛ばし、冷ましたリゾットを一口、二口、三口と一心不乱に味わった。


「あの子、今夜の料理も気に入ってくれたようですわね。ねえ爺や、この味付けはバターと塩かしら?」


「当たりでございます、サンディお嬢様。それににんにくも加えてみました」


「やはり爺やの料理は流石ですわね……あなたを本家から連れてきて本当に良かったですわ」


「なるほど……このオルガ、敗北です。さらに精進しなくては」


「ほっほっほ、お嬢様だけでなくオルガにまで認めてもらえるとは、これまた光栄ですなあ」


 サンディやオルガもリゾットに舌鼓を打ち、この老練な使用人の腕前を改めて思い知った。

 一方、少女はリゾットを食べ終え、コロッケに手を付けた。口に入れるとサクッという軽快な音がする。

 中にあるのはマッシュされたジャガイモに、細かく刻んだ肉。外はサクサク、中はホクホクの食感に少女は大いに満足した。

 野菜サラダに果実ジュースはあっさりした味で、疲れた舌を休ませてくれた。


「ぷはー……」


 夕食を満喫した少女は息をつく。お腹いっぱいのいい気持ちが少女の中に満ちる。満足げな少女の様子を見て、サンディも満面の笑みを浮かべた。


 夕食が終わり、脱衣所で歯を磨いた二人はそのまま眠ることにした。遠出をしたので、今日は早めに身体を休めることにした。

 ゆったりした寝間着を身にまとい、焚かれた香の柔らかな香りに包まれながら、二人は大きな枕に頭を乗せる。

 サンディがランプを消し、布団を自分と少女にかぶせた。

 布団の中では、まるで大きく、温かくて柔らかいものに抱擁されるかのような安らぎが少女を包む。そうするとすぐに眠気が少女の意識を塗りつぶしていく。


 ふと、右手が何かに触れた。サンディの手だ。少女は彼女の手を、布団の下で握る。自分から手をつないだのはこれが初めてだった。

 サンディも気付き、その小さな手を握り返してくれた。

 手から優しい温もりが少女に伝わる。真っ暗闇の中、布団の中で確かに感じるサンディの存在。少女はこの時間がずっと続けばいいのに、と思う。


 やがて少女は夢を見る。

 晴れた森の中を、サンディとともに歩く夢。

 手をつなぎ、笑い声を絶やさず、二人はどこまでも歩いていくのだった。


 そしてつないだ手はベッドを出てもそのままで、朝のドレスに着替えるまで離さなかった。


 新しい日の始まりに、少女は思う。ほんの数日いっしょにいただけなのに、サンディには特別な思いがある。

 彼女は自分にとって新しい世界への導き手だ。

 彼女と一緒だと、次はどんなことを教えてくれるのだろう、と胸が期待で一杯になる。

 サンディもまた、まるで家族のように少女に接してくれる。

 教えてくれる言葉を使えるようになれば、もっと親しくなれるのだろうか?

 だったら、早く覚えなくては。少女は密かに決意していた。

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