9話「正宗」
俺はいつも歩いているはずの道路を全力で走り抜ける、途中何度も見失いそうになったが、レイナのサポートに助けられやっとみつることができた。
なんだ? あそこは確か、倉庫に行くときの道……まさか……いやどうするつもりだ?
たどり着いたのはこの前も来た、古びた体育倉庫のなかの1つ第3倉庫だった。
今度は扉を蹴り開ける。そこは電気がまだ通ってなく暗かったが、この前来たときとは違い所々にあった散乱しているものはなく、床もキレイに磨かれて一瞬入る場所を間違えたのかと錯覚するほどだった。
だがそこにいたのは奥で柱に紐で縛られている百合だけだった。
「誰だ! 百合を返せ!」
倉庫全体に響き渡るような声で俺はその百合を連れていった誰かを呼び出すことに成功する。
「待ってましたぁ」
暗がりから出てきたそいつはピチピチのノースリーブ、ボロボロのジーパンそれとネックレスをつけていた、そして聖夜は気付く、以前こいつに会っていたということに。
「あっ! お前……あのぶつかった人……ですよね?」
「おお~聖夜君覚えていてくれたか……よかったよかった、いやぁ君に忘れていたらどうしようかと思ったよ!」
その不思議な笑みを浮かべるそいつは以前聖夜が帰り道でぶつかったその人そのものだった。
「おにーちゃーん早くほどいてよっ! てかさっきのいたかったんだけど!」
「いや、まだダメだ、こいつを俺が倒したらだ。あとうるさい。」
百合のお兄さんいわく、百合を解放したいなら俺と戦って勝ってみろってことらしい。
「はぁ……俺がまけるわけないだろ」
聖夜はあきれながらポケットに入れていた眼鏡を取り出しスイッチを入れそれをかける。
「コマンドa」
『レイナよろしくな!』
『もちろん!』
俺はコマンドを起動し、目の前の光の輪があのお兄さんの体をロックしたところで戦闘体制になる。
「そんなので俺に勝てると思ってるの? 転装しろよ転装!」
どうして? なんでこいつがそのワードを知っている? あり得ないぞ? 今まで誰にも聞こえないようにしてきたのに、いったとしても最初のバイクを壊した時ぐらいだし……なんなんだあいつ。
俺は転装というワードを知っている百合のお兄さんにやけに恐怖を感じそして、その笑みにたいして異常なほどの嫌悪感を覚えた。
「はぁ? お前になんて使わなくて十分だ」
このコマンドを発動しているときの俺に避けれないものなんてないそう思い込み、こんなときでも聖夜は相手をかなり見下しなめきっていた。
「それはどうかな……」
そのせいかはわからないが聖夜はそいつの初撃を避けることができなかった。
「え……軌道が……」
低く構えられたその姿勢から繰り出された一瞬の攻撃を聖夜の作り出したそのシステムは捕らえきることができなかった。
でもこれはシステムのせいというか、誰も予期することはできなかっただろう、まさか死角から鉄骨が飛んでくるなんて事を。
百合の兄のその攻撃は正面からではなく横から飛んできたのでる、このとき聖夜は低く構えられたその体を見て正面から来ると思っていた。
だがそれが百合の兄の狙いでわざとそれっぽいポーズをとって、天井から何個もぶら下げられている鉄骨と手にもった機械を意識からはずすようにしていたのである。
その鉄骨は一つ一つが細い糸で吊るされているようでいつ落ちてくるのかがわからない。
「あれ? あれだけよゆーぶっこいててそれかよ、おらこいよ! 余裕なんだろ?」
「いきなり鉄骨ぶつけてくるやつがあるかぁ!」
聖夜はその壊れた眼鏡を投げ捨て、百合とは違いずる賢い兄に向かって怒鳴る。
「いやいや、絶対避けられるやつと戦うのにそんな無計画でやるわけ! 大学生の白井正宗様がそんなバカことするわけないだろ!」
「大学生が高校生と戦うとかだっさ」
俺は正宗が大学生だと知り、笑いが止まらなくなった。
「なに笑ってんだよ、なめてんのか?」
「いや、だって大学生がこんな訳のわからん糞高校なんかの倉庫で自分の妹を餌にして俺と戦ってるとかバカじゃね? って思って」
「犯罪者がよくそんなこと言えるなぁ……俺見てたぜ道路ぶっ壊すところ」
笑いながら言われたその一言に俺は絶句する。
「なんで……」
「俺さぁ、お前にぶつかったじゃん? あれわざとでお前に発信器つけたんだよね♪」
こいつは何をいっているんだ? 俺に発信器なんてつけてどうするつもりだったんだ? てか発信器着けたってことはずっと俺の場所がわかるってこと? いやしかも俺の事をストーキングしてたのかも知れないぞ……
『この人ちょっとヤバい人なのかもね……』
レイナもさすがにこの気持ち悪いやつのことはほおっておけなかったらしく、話しかけて来た。
『ヤバいよなぁ……』
「てか、なんでそんなことを?」
「気になってたんだよ、お前のこと」
「はぁ??」
ふざけんなふざけんなよこいつ! 俺にはレイナがいるんだからこんな変なやつはいらないし、俺にそもそもそんな趣味はない!
「いや、そういう意味ではないんがな、ある日明石から聞いたんだよ眼鏡をかけたら急に俺攻撃を全部避けやがるやつがいるってな、それでこいつはなんか怪しいなと思いとりあえず発信器をつけておいたってわけ」
「ちょっとよくわかんないんだが……」
どうやら俺が何を言おうと話を続ける気のようだ。
「あれはまだ正月にはなってなかったな……俺はその日暇だったからお前についていくことにしたんだ。しばらくついていったら急にランニングし始めたから遠くで見てたんだよ。
んで俺はランニングが終わって帰るのかなぁとボーッとしていたら俺の隣にいた女がバッグ引ったくられてるんだよ、そしたらお前が急に転装とかなんとか言い出してさ装備を着て道路をぶっ壊しながら犯人を捕まえたあげくバイク破壊なんてしちゃうもんだからびびったよね!」
「おい待てやめろ……」
俺がせっかく忘れようとしていたことを掘り返しやがって……それよりも転装前に見られてるとは思ってもいなかったなぁ、まずいぞ、これ言われたら俺普通に逮捕されるのかな。
「だからさぁもう俺! 倒したくなっちゃってさぁとりあえず腕試しとして出したヤンキーもバンバン倒しちゃうし、でさ、百合が強化スーツとか変身とか大好きなんだよね、だからこれは教えてあげないとかわいそうかなと思って教えたらまんまと引っ掛かってくれて本当助かったよ!」
「お前……妹まで騙して何がしたいんだよ!」
「決まってんじゃん、最強のやつを俺がこのてで叩き潰す! これで俺はまたボスとしてやっていけるっ! 俺の強さが証明されるっ!」
なんだこいつ……俺の事を倒して、落とされたボスをまたやりたいって……そんな下らない理由で……
「簡単だろ、全ては俺の手のなかで起こされていたってことさ!」
正宗が分かりやすく自分の手を強く握る。
そして俺の少し後ろから俺以上のダメージを受けている彼女が突然話に割って入ってくる。
「え!?もしかしてお兄ちゃん……今までの全部嘘だったの?」
百合が何と言おうとなんにも反応しないぞ、という姿勢を示したいのか、正宗はいっこうに質問には答えようとしない。
「ねぇ、答えてよ……最近優しくしてくれたのもケーキやさんの半額券をくれたのも。サッカーボールをくれて場所を取ってくれたのも、映画館のチケットをくれたのも全部全部! 全部! 嘘だったのねぇ! ねぇ! 嬉しかったんだよ……ずっと話してくれなかったお兄ちゃんが話してくれて。しかもいろいろしてくれたことは感謝もしているんだよ……それなのに……それなのに……」
さすがの百合も大好きだった兄の言葉を嘘だといってほしい、信じたくない!そんな気持ちが爆発したのか、とうとう泣き崩れてしまった。
てか、そこまでのことを急にやってくれたら少しは怪しめよ、とも思うが、……こいつ天然なんだよなぁ。
「あぁそうだよ……全部演技だ! 何が感謝してるだふざけんな、お前だっていつも俺の名前使って逃げてきてんだろぉが! 俺がいつもお前のあとあいつらを倒してるんだぞ……その苦労も知らないで……何を言うか。これで俺らはやっとおあいこさまになったようなもんだ。」
「で、俺に倒されたいと……」
百合が泣いてしまったこともあり俺は少しキレぎみで話に割り込む。
「まぁ、どっちでも言いが、とりあえず転装しろや」
「その前に、百合を解放しろよ」
俺はその紐で無造作に縛られている百合を指差しながらそう呟く。
「それはダメだ、お前は俺を倒さなければ百合を助けられない。そういう条件だ。」
どう考えてももう百合を拘束する理由なんてないと思うのだが……倒せばいいなら倒してやるよ。
「ちっ、あぁいいだろう見せてやるよ、転装……」
俺はクロスした手の甲からでたブーメランを正にに向かって今できる全力のパワーで飛ばすが。
「先制攻撃かよっ!」
そんな言葉を吐きながら正宗はもはや自分の指と化した鉄骨10本を器用に使いその攻撃を防ぐ。
「弾くやつなんて初めて見たな……」
だがあんなのは操作している基盤のコアとなる部分を壊せば一発で使えなくなるはずだっ!
アーマーを装着した瞬間に聖夜は正宗の後ろにあるおそらくコアだろうと思われる機械を壊しに行く。
その様子を余裕で見ている正宗は何を考えているのか、聖夜には全くわからない。
聖夜はコアを壊すときに邪魔になる、迫り来る何本もの鉄骨を一撃で壊すために走りながら溜めた力を拳に込めてそれを一気に放つ。
「一撃で終わらせてやるッ!」
その振り抜かれた拳は鉄骨を次々と吹っ飛ばしコアまでの道を作り出す。
「でも、甘いんだよなぁ……」
後ろから聞こえた声に気づいたときにはもう聖夜の体は宙に舞っていた。
「なっん……だっ……」
吹っ飛ばされた聖夜は背中に今まで感じたことのないような痛みを感じその場で崩れ落ちる。
「ハハッ、俺が動けないとでも思ったか?」
「あぁ思っていたさ! 全力でなっ!」
聖夜は後ろへ振り向きブレスレットにあるブーメランのスイッチを押し、再び出てきたブーメランを正宗の手に持っている機械に向けて飛ばす。
「こんなものッ!」
正宗はその機械を操作し聖夜の攻撃を防ごうと試みるが……
「あれ? なぜ何も起きないなんでだッ!」
「俺がッ! 鉄骨を吹っ飛ばしたからに決まってんだろっ!」
聖夜は思いっきりジャンプしてその勢いで正宗に両足で飛び蹴りを食らわす。
「うっ!」
蹴りとブーメランの同時攻撃の勢いで倉庫から飛ばされた正宗を追い聖夜も外に出る。
「もうあんたの負けだろ。」
俺はゆっくりと正宗の元へかけより手を差し出す。
「ふざけるなふざけるなふざけるなあぁぁ!!!」
俺が近づくと正宗は急に大声を出しながらまるで赤子のように暴れだす。
そしてこの声でさっきまで隠れていた野次馬がその姿を見せる、明石とその取り巻き二人、空。
彼らは倉庫の窓から飛び降りて俺らを観賞する。
「は?」
「俺を見下すなぁ!こっちを見るなぁ!」
正宗の罵声が耳に響く。