7話「少女」
お祭りに行かせてあげたお陰か俺は、冬休みの2週間地獄のランニングをしないで乗り越えることができた。
『今日から学校だけど大丈夫? セーヤ』
「まぁ、別にいざとなったら転装すればいいだけだし」
『なんで戦うの前提になってんの? あと、あれはあんまり使わない方がいいとは思うんだけどねぇ』
「死ぬよりはましだろ?」
『そーゆーことじゃないんだけど……まぁ、いいやセーヤが学校行ってるってだけでまぁまぁの奇跡なんだし』
「レイナ、それは俺のことをバカにしてるようにしか聞こえないんだが……」
『あっ、いやなんでもないよっ! じゃっ!』
ーーーぶち。
切っちゃったか……まぁ、ゆっくりいろいろ考えられるからいいんだけど。
なんでほんと、学校なんてあるんだよ……こんな寒いのに。
てか、三年のこの時期に学校来るやつなんてたかが知れてるだろ……俺とかはもう就職先が決まってるから勉強もなんもしなくていいけどさ……他のやつらは大変だよな。
これから一生使わないかもしれない勉強を自分のやりたいことをやる時間すら削ってやるなんてとんだ変態じゃねぇか。
つまり今この期間に学校にいるやつなんてまともなのがいないのだ……そもそも学年トップがあれだから他のやつらなんて終わってんだろとか言われたらそれでおしまいなんだけどさ。
登校してるときからもう家に帰りたいよ……
あの女の子は無事だったのだろうか……ちゃんと家に帰れたのだろうか……いつもは人のことなんて考えない俺だが傷ついている人を見るとどうにもほおって置けないタイプらしく、なかなか考えがやめられない。
「はぁ……学校かぁ」
俺は、登校してすぐ授業が始まる前に先生に30分土下座してやっと貸してもらえた机に顎を乗っけてボーッとしている。
四時間目がちょうど終わって今は昼休みだ、そろそろ呼び出しが来るかな?
「あ、あの……」
誰かに肩を叩かれ俺は、反射的に後ろへ振り向く。
「あぁ空どうしたんだよ」
この学校で話しかけてくるのなんか空しかいないので、なめきった口調で返事をした。
「え、誰?」
「え、?」
じょっ女子!??なんでっ???
そこには空ではなく、どこか見覚えのあるような黒髪ロングの女子がいた、しかも巨乳。
「えっ、えっとこの前はありがとうございました!」
その女の子があまりにも大きな声でそんなことを言うのでクラス中がざわざわとし始める。
え、彼女? まさかねありえないでしょーなんだよ錯覚じゃねぇの? 人間違いだよ人間違い! あんなのがモテるわけないじゃん!
おいまてお前らそれはせめて俺のいないとこで聞こえないようにいってくれ、仮にも同じクラスなんだから少しは気を使ってほしいな。
「えっと……ちょいこっち」
俺は椅子からたち、女の子を廊下に呼び出す。
あーくっそまじでくそだ!また女の子の前でコミュ障が発動してしまった。
レイナとはいつでも一緒にいるから話せるけどやっぱり普通の女の子となると……辛いなぁ。
『じゃーわたしは普通じゃないと』
あ、やッべぇ声流れてたかぁ、まじですんまへん。
『すんまへんじゃないよ全く!』
『あ、あれだよレイナは特別だからってことを言いたかったんだよ!!』
『えっ、えっ…………なら許す』
いや、レイナちょっろ。
二人で廊下に出て、ドアを閉める。
「あの!この前はほんとに助かりました!」
「あっ、いえ……。」
ここでもまたコミュ障が……。
「まさか変身するとは思いませんでしたよぉ!」
「は?」
この女の子の口から変身なんて言葉が出てくるなんて思ってもいなかった。
「いや、だっていきなり弱そうな人が助けて来てくれたから不安で、戻ってきたらなんか変身してて……」
見られたくないからさっさと逃がしたのに……困ったな。
「私あーゆーの好きなんですよー! どぉです? 女子では珍しいでしょお!」
「そっ、そうっすね」
え? こいつこんなにしゃべんの?
あーうっとおしいこういうやつが一番嫌いだ、自分の話ばっかりして相手のことなんて考えない、俺が話せるのはいつになるのやら。
「で、また変身してくださいよ!」
「んなもんしらん」
変身変身うるせぇよ! あれは転装だから! 間違えんな! まぁ、知らないだろうけど。
「俺は、変身なんてしらん、じゃあな」
俺は、教室に入ろうとしてドアに手を掛ける。
「待って!」
女の子が俺の手をつかみ、その動作を止めさせる。
「私どうしてもまた見たいんです! なんでもするから! お願い!」
その女の子は俺に向かって合掌して何回も頼んでくる。
「…………」
『ねぇこの人めんどくさい』
レイナもしびれを切らしたのか話しかけて来ちゃうぐらいだ、こいつはめちゃくちゃめんどくさい。
『全くだ、さっさと帰ってやろう』
「無言ってことはいいってことだよね!」
おいちょっと待てその理論はおかしい。俺は、今レイナとはなしてんだ邪魔すんな。
「え、あ……」
「じゃあ放課後!あ、自己紹介するの忘れてた!私、白井百合!よろしくね♪」
自己紹介を済ませたら白井は手を振りながらすぐ、どっかに走り去ってしまった。
てか、俺がまだ自己紹介してないんだけど…………ほんとなんなんだあいつ。
俺は悟ったしばらくはこいつに振り回されるだろう、と。
「待ってましたぁ!」
めんどくさいやつに絡まれるのは嫌なので、少しフライングして帰りのホームルームが始まる前に帰ろうとしたが、そんなことは全くの無意味だった……。
「なんで待ってんだよ……」
半分ぐらいは予想してたけどまさかいるとは思っていなかった。
「じゃあいこ!こっちこっち!」
白井はダッシュのポーズをして早く来いよとアピールしてくる。
「はぁ、でどこに?」
「まぁまぁいーからいーから♪」
俺の体を後ろから両手で押し無理矢理つれていかされる。
学校から出て約10分訳のわからない話をしてたらやっと白井が止まってくれた。
「よーしついたぁ! なんで君は全然動いてくれないのさ女の子にそんなことさせちゃダメだよ♪」
俺の知っている女の子はそんなことしません。
「これってなんの店なの?」
そこは商店街から少し外れた道にある訳のわからない、洋風っぽい店だった。
「ここはね! ケーキ屋いとうって言うお店でね昨日から発売しためっちゃめちゃ美味しいと噂されているケーキが売っているお店だよ! しかもその場で食べれるっ!」
洋風の外観からは到底思い付かないような名前のその店は、内装が和風だったのだ俺はおばあちゃんの家が和風建築なのもあってか、すごく落ち着くことができた。
「和風ってなかなか珍しいな」
「でしょでしょ!」
俺らは店の奥の方にあるフードコート的なところのはじっこの席に座る。
この店は和風をやけに徹底していて、床はたたみ席がちゃぶ台に座布団というケーキ屋にしてはなかなか斬新なところだった。
「で? なんでここにつれてきたんだ?」
「奢ったら変身くれるかなって」
「やらねーから!」
「ええええええええ!」
白井が机を両手で叩き体を前に乗り出す。
どんだけ驚いてんだよ、ここ、仮にもケーキ屋だろ。
「そんな簡単にしていいもんじゃないんだよ。」
はぁ、とため息をつきながら店員が来るのを待つ。
『それをセーヤが言っちゃうかねぇ』
『うるせぃ』
「ふん!いーもん、変身しないと申し訳なくなるぐらいつれまわしてやるしー!」
「どーぞどーぞ、でも俺は、変身したりなんてしないぞ」
ちょうど話が一段落ついたところで店員さんが来た。
「ご注文はお決まりでしょうか?」
白井は食べるものが決まっていたのか速攻で注文をしていく。
「あ!じゃあこの店長オススメのウサちゃんのしっぽみたいにふわふわシフォンケーキにホイップクリーム増し増しで!」
なんだよそれ、長すぎて、もはやなにを頼んだのかわかんないぞ。
めんどくせーから同じやつでいいや。
「じゃー俺もそれで」
「え? 君これ食べれるの?!」
「これってなんかあんの?」
「まぁ、来ればわかるよ。」
驚いたんなら焦らすなよと言いたい。
「えっと、ウサちゃんのしっぽみたいにふわふわシフォンケーキ2つでよろしいですね!」
「はい!」
店員が厨房? に戻っていくと白井の話がまた始まった。
「君ってさ、名前なんて言うの?」
「今さら!?」
「それ言えば聞いてなかったなと思って!」
「小柳聖夜……」
「じゃあこれからは聖夜ってよぶね!」
え? いきなり下の名前で呼ぶんですか!? マジですか嬉しいけどなんか恥ずかしいぞ。
「聖夜はさ、なんか部活とかやってんの?」
ヤバい、いつももっとロリ声でせーやって言われてるのになんかこっちの方がすごく恥ずかしい。
「や……やってない」
「え? やってないのにあんなに動けたの?」
「毎日走ってるからな……」
「ふーん……一人で?」
「一人……だなうん一人だ」
レイナといっしょに走っているわけだが、その存在をこいつに伝えても恐らく理解できないだろう、だからレイナには失礼だがここは一人といっておくことにした。
「逆に白井さん? はなにしてんの?」
「え? なんで私の名前しってんの?」
「いや、お前がこの前……」
「あそっか忘れてた忘れてた。で、私はいつも何してるかって? うーんバスケ?」
「へーバスケやってんだ。」
そんな胸でバスケなんてやったらもう男子は大変だろうな。
「うん! あのボール蹴るやつ」
それはサッカーだぁぁ!
なんだこの子天然……なのか? ちょくちょくすごいこといってるぞ。
「……それはサッカーだよね」
「あっ、そうだサッカーだサッカーこの前もさサッカーやってたらさボールが怖そうな人たちに当たっちゃって大変だったんだよ!」
「で、俺が助けにきたと」
「いやぁほんと危なかったよぉ、ほんとに殺されるかと思ったもん! まぁ、ボールを顔面に直撃させたのは悪いと思ってるけど……」
「直撃?!」
「そそ、ゴールに蹴ろうとしたらびゅーんって!」
「まず、怖そうな人の近くでやるなよ。」
「いつもあそこは私の練習してるとこなのっ! あそこにいた人達が悪い。」
「助けてもらえなかったらどうするつもりだったんだよ。」
「お兄ちゃんが助けてくれるから大丈夫!」
「へーお兄ちゃんいるんだね、名前は?」
「正宗だよ! なんかよくわかんないけど怖そうな人たちにその名前いったらみんな逃げちゃうんだよねー優しそうなのに……」
それ絶対お兄ちゃんどっかのこわいやつらのボスとかやってるやつだろ、大丈夫かなこの子ほんと心配になってきたぞ。
「へ、へーお兄さんすごいんだね」
「そうなんだよ!お兄ちゃんかっこいいんだよぉ!」
こりゃ話おわんねぇだろなぁそんなことを考えていると、店員さんが来てくれた。
「おっ、ケーキがきたみたいだぞ」
「お待たせいたしました、ウサちゃんのしっぽみたいにふわふわシフォンケーキ2つでございます」
感想、でかい。
でかすぎないかちょっと、これを作った人はウサギのしっぽではなくウサギ本体を作ろうとしているのかもしれない、そう思わせるほどの大きさだ。
簡単に言うと、分厚めの辞書みたいな感じだ。
「ほらぁいったじゃん!大丈夫?」
すでに口の周りが白くなっている白井のケーキは、来て1分もしないうちに上部がかけてしまっている。
「ダメになったときはよろしく頼むよ」
「え? 食べていいの? やったぁ!」
白井は万歳をするときに、持っていたナイフとフォークをぶっ飛ばしてしまい、洗いにいってしまった。
『ねぇセーヤ、この人私とキャラ被ってない?』
レイナの機嫌が少し悪そうだな……ここはちゃんとしたフォローで機嫌をよくしてあげよう!
『被ってはないんじゃないかな……ほ、ほら胸とか!』
『セーヤ、この世には言っていいことと悪いことがあります』
『はい』
ダメだったーー!墓穴掘り返しちゃったーー!これは完全にお怒りモードだぁ!
『セーヤにはあとで罰としてこれから1週間学校に行ってもらいます』
『ええええええ?!やーーだーー』
学校めんどくさいめんどくさいめんどくさい。
『ダメなのーーーセーヤは学校にいくのぉーーーー!』
レイナはこうなるともう収集がつかなくなる。仕方ないな……。
『わ、わかったよ学校いくよ……』
『そしてレイナちゃんかわいいって言って!』
『レイナちゃんかわい……い!? ちょっとなに言わせてんだよ! もー』
『わらわは満足じゃ、ほれそこの爆乳野郎と話すことを許可する』
『ば、爆乳って……。じゃあまたあとでな』
『うん! またあとで!』
「はぁぁ……もう食えない……」
「え? じゃあ私食べてもいいかなぁ?」
「どーぞどーぞ、むしろ食ってもらいたいよ」
「じゃあいただきまーす!!」
この白井という子はほんとに胃袋が三つはあるんじゃないかってぐらいたくさん食べるな……。
今はあのケーキが来てから30分がたった頃だろうが、白井は20分前にはもう食べ終わっていた、俺なんてまだ半分も食べ終わってないのにお腹一杯になるってのに、ほんとなんなんだあいつは……。
「いやぁ! これほんとおいしぃねぇ!」
ほんとに幸せそうに一口一口を食べているその女の子は食べることに一生懸命になりすぎて口の回りがクリームでベットベトになってることに気づいていない。
「食ってるときぐらいはしゃべんなよ。あと口拭いとけ」
「ついつい感想が出ちゃうんだよね!」
「だから閉じろって……」
「ごちそうさまぁー!」
よし、やっとかえれるぞ! 家に帰ったらためているアニメでも見てのんびりしよう。
「次はどこにいく?」
はい?
「え?次って……」
「だからいったじゃん! 変身するまでなんでもするって」
「いやさすがに、今日はもう動きたくない……」
「仕方ないなぁ……じゃあ明日でいいよ!」
「あっ、明日も!?」
「当たり前じゃぁーん変身してくれるまで毎日だよ」
お……終わった……俺の平穏な日常が……。