5話「被害」
「ハァハァはぁはぁ、まだ……走る……の?」
近くの公園のトラックを全力で走ること一時間、全然終わる気配がしない。
『ほらほらそこ休まない!早く早く!』
いくらなんでもハードすぎないか?
それからまた30分ほど走らせれた。
「さて、このスーツ貰ったはいいが何に使おう。」
俺はランニングからの帰り道、レンズの付いた真っ黒な手袋を、腰に巻き付けていたバッグからとりだしそんなことをいう
『はいはーい!』
レイナは元気よく両手をあげて必死にあててもらおうとしている
「はい!レイナさん」
『えーっとぉー人助けのために使えばいいと思いますっ!』
「いやぁ、人助けって言われても……例えば?」
『強盗捕まえたり!』
「漫画か!」
『工事手伝ったり!』
「怪しいだろ!」
『おばあちゃんの荷物もってあげるとか!』
「スーツいらなぃ!」
うーんまじで、使う場面がないなぁ、明石とかを殴りたいってのもあるけど絶対死んじゃうだろうしなぁ。
『ほんとそのスーツ使えないね』
「平和すぎてなんにもないからなぁ、このまちは。」
『いじめはあるけどね!』
「それはなくなんないから。」
ちょうど公園っぽい道から商店街の道へ差し掛かるそんなとき、わりと近場から叫び声が聞こえた。
《キャーーーー私のバッグがぁーーーーーー!!!》
突然の声に思わず振り向いてしまう。
『セーヤ、ひったくりだよっ!』
ちょっと待て、フラグ回収早すぎないか?
でも!
「これはチャンスだ、いくぞ!」
『そ、そうね、定番だけどとりあえず取っ捕まえよう』
「レイナっ!犯人は!」
『あそこの赤いバイク!』
見た感じだが300メートルはないぐらいの距離にバイクがいる。
「よしっ!あの距離なら余裕だな!」
『あんまり派手にやり過ぎないようにね』
はっはっはーー悪党め俺にやられろ!、俺はレイナの忠告を無視してそんなことを考えていた。
「装備転送システム起動!!」
走りながら手をクロスさせて起動する。
「おりやぁ!!」
出てきたブーメランをバイクに当てようとしたが、軌道はバイクのはるか左を描き戻ってくる
それとほぼ同タイミングでアーマーの装着が完了する。
「ちくしょう!追いかけるしかないか!」
歩道から飛び出た漆黒のロボットが交差点を猛スピードで走り抜ける。
この装備の性能のが異常だったお陰で3秒もしたら、もうバイクに追い付いていた。
「おい!バッグ返せ。」
「はっ???人?なん……で?」
引ったくりの犯人がこっちへと顔を向け、驚きを隠せていないのか空いた口がなかなか閉まらない。
状況を把握できていないのも無理はない、普通人間があの距離を一瞬で詰めるなんてあり得ないことだし、しかも迫ってきたのが真っ黒の得体の知れないものとなるとなおさらだ。
でも、一向に止まる気がしない。
よしっ!止まらないなら止めるしかないよな!謎の理論で俺はバイクを足で止めようとした
「食らえ。」
短く呟くと俺は足を振り上げ即座に降り下げる。
バコオオオオオン!!!
俺の蹴りがバイクのマフラー部分を貫いてバイクがぶっ壊れながらぶっ飛びバラバラになる。
そしてコンクリートでできた道路は砕け散りその欠片が周りの車を次々とパンクさせ停止に追い込む。
俺はもちろん正義のヒーローなのでどんな悪党でも怪我はさせない、吹っ飛んだ犯人を地面に当たる寸前で捕まえバッグも回収する。
よし一件落着!
『道路ボッコボコになっちゃったけどね!』
「え、?」
『ほら、道路見てみって』
レイナに言われたように道路を見る
「…………お、おう。」
そこにはもはや耕したての畑と化した道路が広がっていた。
ちょっと待て、これは不味いぞ。
今更過ぎるが後悔の念が止まらない、だんだん、頭がボーッとして来て何を考えているのかわからなくなる。
とりあえず自分のやったことを思いだそう、道路の破壊、バイクの破壊、通行止め、犯人の捕獲、バッグの回収。
ダメだ、明らかにマイナスの要因の方が多いな。
俺の目の前にはコンクリートがバキバキに捲り上がって使い物にならなくなった道路、今にも爆発しそうなバイク、道路の破片でパンクしてしまった車たちが見える。
「これじゃあまるで、犯人を捕まえた俺が悪人みたいじゃないか。」
腕の力が緩まったのか、左腕で抱えていた犯人がずり落ち「うっ」といううめき声が聞こえたが気にしない。
『えーっと…………セーヤやっちゃったねぇ』
レイナは呆れているのか、焦っているのかわからない感じで話しかけてくる。
「と、とりあえずバッグは返しておこう。」
今やるべきことが明確ではない今、まずは当初の目的であったバッグの返還を実行しようとする。
こんな厳つい感じだと逃げられてしまうかも知れないと思い、アーマーを転送解除しようとするとレイナが慌てて出てきた。
『まだ解除しないで!顔が割れたら警察に捕まっちゃうかもだから!!』
確かに、これをやったのが俺だとわかったらすぐに捕まってしまうな。
「あ、おお、わかったこのまま返してくるよ」
さっきからずっと身体中の力が抜けた感じで動きづらい。
さっき叫んでいたお姉さん?にバッグを返す
「はい、どうぞ」
バッグを手渡すとすごい剣幕で怒鳴られた
「あんた、なにやってくれてんの?さっきから私が変な目でみられてるから、早くあっちいってくれない?」
なんだこいつは、俺がせっかく取り返して来てやったのになんだその態度は?なめてんのか、今ならこいつの頭ぐらいなら潰せるよな…………
『こら!セーヤなーに考えてるのっ!早く帰るよ!』
女の頭潰しを実行する直前でレイナからの呼び掛けがかかる
「あ、そうかここにいたら危ないんだった。」
『まぁ、物理的には無敵なんだけどね』
『そうだな。』
とうとうバイクが爆発したらしく、野次馬が次々と集まってきた
「こんな姿を大勢に見られてはまずいな、さっさと帰ろう……」
俺は思いっきり地面を踏みつけ、遥か上空へと飛び上がる、また地面がバキンッと鳴った気もするが、そんなことは気にせずジャンプした反動でそのまま家まで自分をぶっ飛ばす。
俺はなんてことをしてしまったんだ……
装備を転送して、上着を脱ぎバタンと音を立て布団に体を預ける。
「はぁ……」
さっきの出来事でどれだけの人に迷惑がかかった?
何台の車を壊した?
どれだけの人間の時間を無駄にさせた?
そんな、悪いことばかりが頭のなかを駆け巡る。
『そんなことばっか考えてても、なーんにも始まらないんじゃない?』
俺の思考を読んだのかレイナが割って入ってくる。
「あ?仕方ないだろ?俺だってあそこまでなるとは思ってなかったんだよっ!」
『そうかもしれないけどさ、セイヤは正義のためにやったんでしょ?』
「そりゃそーだよ!俺は悪人なんかじゃない!」
『だったらあれは仕方なかったんじゃないの?犯人捕まえるには。』
確かにあそこで捕まえるには必要だったかも知れない…………
「それでもやっぱりやりすぎだったと思う。」
『じゃあ今回みたいなことが起きないようにするには、どうすればいいの?』
レイナがさっきから俺の話を無視しまくってないか?
「うーん」
どうすれば……何をすれば?……うーんわかんねぇなぁ。
『おーそーいー!!』
「いや、遅いって3秒しかたってねぇじゃねえか」
俺の突っ込みを無視してレイナが答える
『正解は~ー!装備のコントロールを完璧にするっ!でしたぁーー!!』
「あー確かにそれなら被害を少なくできる!」
ちくしょうレイナめ、なかなか考えてるじゃねぇか!装備のコントロールができるとしたらできることも増えてくるはずだし、完璧だ!
『というわけで1回着てみよう!』
「え?また、着んの?」
『そーだよぉーは、や、く!』
「今疲れてるし、さっき色々やっちゃった反省として着たくないんですが……」
『運動と同じで、疲れているときに着てその疲れになれておかないと、コントロールなんてできないよ。』
「いや、でも……」
『ダメっ!そんなこといってたらいつまでも着れないままになっちゃうじゃん!!』
「はぁ、わかったよ……」
レイナの声が大きすぎたためか、あっさりと了承してしまった。
仕方なく俺はベッドの上に立ち上がり手袋をはめる。
「……装備転送」
ここに来て思い出す、あれ?家の中でブーメラン飛ばしたら危なくね?と。
確かにうちはある程度広いかも知れないが、ブーメランはそもそも家で飛ばすようなものでもないし……
「おい、レイナ!ブーメラン飛ばしたくないんだかー!」
俺の回りをふよふよと浮かんでいる妖精に声をかける
『いつも吹っ飛ばしてるから飛んでいっちゃうだけで、別にロックしてから手を横に振れば勝手にくっつくよーー』
「いや、そんな方法があったのかよっ!」
『別に聞かれなかったしぃ』
「まぁいいや、とりあえず……」
言われた通り顔らへんでロックしたあとに、腕を横に振り払った、そしたら少し回転しながらほんとに勝手に引っ付いた。
そして装備の装着も完了する。
ひとつ疑問に思ったことがある。
「あれ?何で布団が全然へこんでないんだ?」
『あー重い素材だと、セーヤは絶対に動けないと思ったから、軽いのにしてもらったの!』
へー、そんな気遣いがあったなんて全然気づかなかったな、やっぱりレイナは俺の見えないところで色々やってくれてるしすげえいいやつだったのかぁ。
「これってどんな、どんな素材使ってるの?」
こんなに体をおおっているのに俺が普通に立っているときと同じぐらいしかベッドがへこまない素材ってなんなのか、単純に気になってしまった。
『えーと、確か……マニュタイト鉱石?みたいなやつ!』
かなり曖昧だしそんな鉱石聞いたことないな?、まぁ鉱石に詳しい訳でもないし、知ってるのも学校で習ったのだけなんだけどね。
「じゃあ、この装備は、マニュプレートからできてるって訳か」
『まにゅぷれぇと?なんじゃそりゃ』
こいつは今、かわいい感じでいっているが、体は台詞とは裏腹に猛スピードでぐるんぐるん回っている。
「簡単に言えば、マニュなんとかのプレートからできてるってこと。」
『あーそゆことね!…………まぁそんなことはどーでもよくてほんとにやらないといけないのはこっからなんだけどね!』
どーでもいいって、ちゃんと考えたつもりなのにお兄さんちょっと悲しいぞ。
「で、何をすれば!」
『えーっとぉ、うーんとぉ…………』
まてまて、絶対に今考えてるよな、また訳もわからず俺の回りをぐるぐるしてるし……この子はほんとに大丈夫なのか?
『はっ!レイナさんはとても重要なことに気づいてしまいました!』
なッなんだ?レイナが慌てるなんてそうそうないからわりと不安だ。
「どうしたッ!」
固唾を飲んで返答を待つ。
『とても言いにくいんだけど……この装備…………リミッターが解除されてましたぁ!!』
「………………」
俺らのいる空間の時間が一瞬だけ止まる。
『…………テヘッ♪』
「テヘッ♪、じゃねぇえぇぇえぇ!」
俺はこのとき今年最大級の突っ込みをしたと自負している。
「ってゆーかさぁ、何で解除されてたんだよ。」
今は俺の怒りの説教が終わって数分後である。
『ううっ、そんなに怒らなくてもいいじゃないかぁ!』
まるで赤ちゃんのように足をじたばたさせている、でもこんなことで諦めてはいけない、怒るときは怒らないと。
「お前がふざけてリミッター解除してたせいで、どれだけの人に迷惑かけたと思っているんだ。」
『反省はしてるもん……』
ほっぺを膨らしてもダメ。めっちゃかわいいけどダメ。
「で、何で解除しちゃってたんですか?レイナちゃん」
『あのー壁壊すときあったじゃん?』
「うんうん」
『あのとき衝撃を受けさせたかったから…………』
「そんなことのために!!?」
『そんなことってなによぉー!セーヤめっちゃ興奮してたじゃん!』
「そりゃしたけれども……でも」
「でも!そこまでやんなくてもよかったんじゃ……」
『ぜーったいセーヤはあんぐらいやんないとダメだったね!』
わりとその可能性があるから言い返せない
「じゃあまぁ、今回は仕方ないとして、次はするなよー!」
『にゃ~~ん♪』
「フー、どんな返事だよ。」
突然思い出したようにレイナが立ち上がる
『あ、ためしに今壁殴ってみたら?』
「え?あ、あぁそーゆーことか」
つまりレイナはこういいたいのだ、リミッター解除してないときの威力がどんなものかみてみろと。
「じゃっ、よいしょーーー!」
おそらく、この前と同じぐらいの力加減で壁を強打する
ドンッ!!
音はこの前よりも軽いようで、威力が激減しているのがおとだけでわかる。
「あ、ほんとだ……少し壁がへっこんだだけだ。」
前に開けた穴の横に小さなへっこみが形成される。
『ほーら、こんなのじゃ絶対運動しようとなんて思わなかったでしよぉーー』
得意気になってこっちを見ているレイナのどや顔といったらもう、傑作である
「その顔やめろ、面白すぎる。」
真顔で注意しようとしたが、無理だった、自然と笑みがこぼれてしまう。
『もぉ、笑わないでよぉ!!』
「いやぁ悪い悪い、ってかこんなに弱いんだな……」
思ったより弱くて少し、いや、かなりショックを受けた
『当たり前でしょ、セーヤに世界征服されるなんてたまったもんじゃないよ、』
「世界征服って、んなことしねぇよ俺はかっこよく生きたいだけさ」
『え、?そーなのっ!?』
「いや、そうだろ、男はみんなかっこよく生きたいんだ!」
『そーなんだ……』
「あとさ、」
『ん?どしたの?』
「装備転送って言うのめんどくせぇから転装!って言うことにするー」
『転送?何が変わったの?』
漢字が変わってないってことかな?
「転送の転に、装備の装で、転装ってこと!」
『おおおーかっこいいー!』
「動きづらいから解除していい?」
俺は軽く肩を回す動作をして動きづらさをアピールする
『あ、うんいいよ』
「転装解除っと……」
ヒュンッと音を当てるのがぴったりだろうか、俺が解除ボタンを押すと装備が消える。
ベッドに入って寝ようとしたらレイナもついてきて忠告する
『明日は、学校に行きなさーい!』
「今日からもう、冬休みだよ、」
『え、?』
「2週間ほど学校はありませーーん」
今度は俺がどや顔でレイナの方を見る
『じゃあ、明日からはもっとランニングできるねっ!』
「はい!?」
幻聴かな?とてつもないことが聞こえた気がするぞ。
『だーかーらー明日からは暇なんでしょ?だったら1日12時間は、走ってもらうよ?』
「無理無理無理無理無理無理無理!!」
『これは決まったことですっ!なんなら今から走っちゃってもいいんだよ?』
レイナさん……鬼教官極めすぎです。