4話「初装備」
東寛人って、あの学年トップのやつじゃないか!
「どうだい?驚いたかな?」
「驚くもなにも……なんでお前が、こんなことしてんだよ!」
俺はシールド越しに奴の顔をにらむ。
「趣味だよ趣味、ただそこら辺のやつらと絡んでるのが楽しいんだよ、別に俺は悪いことしてる訳じゃないし、大学ももう決まっている、何の問題もない」
うーわこっわ、なに?学年一位の裏の顔はヤンキー?こっわ。
「お前、バカなの?完全に大問題だろ?」
「あ?どこに問題があるんだよ、バカはお前だろ?こんな学校でトップもとれないなんて」
全くもって正論だがこいつがバカなのは間違っていないようだ。
「お前が、俺を殴ったことを先生にいえばお前は終わりだ!いくらお前が先生からの信頼が厚くても、こればっかりは無視できないはずだ!」
はぁ、とため息をつき俺と同じ目線になるようにしゃがむ。
「やっぱお前、バカじゃねえか、先生何てやつらがそんなことで動くわけねぇだろ」
「動くに決まってんだろ」
「動かねぇよ、学年一位が傷害事件なんて他の学校にしれわたったらどうする、学校の評判ガタ落ちじゃねぇか」
たっ確かに、学校の評判を下げることなんてするわけがない、こいつはそんなことまで考えて…………。
「まぁ、別にお前が、報告する前に潰せば何の問題もないんだけどな!」
東が立ち上がり思いっきり顔の目の前で拳を振り抜く。
もちろん俺は余裕で避ける。
「あれ?何で当たらねぇんだ?」
「当たるわけねぇだろバーカ、お前のパンチなんて遅すぎるんだよッ!」
何かを察したのか東の目が変わる。
「そうか、そうか、本気でやんないと駄目なやつか、じゃあ…………死ね」
「ふっ!」
俺はピッチャーのように振りかぶられた一撃を食らうことなく避ける
にしてもこのシステムほんとにすごいなぁ、全く当たらないというかもうそんなレベルを明らかに越えている。
何度も何度も振り抜かれる拳はそのスピードを段々落としていく。
「当たらねぇよ、絶対にな!てか机返してくださいよ」
「つくえ?どーでもいい、伊藤!こいつを捕まえろっ!」
伊藤?誰だそいつは、そいつはどこにいる?辺りを見回しても誰もいないじゃないか、全くあいつは何をいってるんだか。
「はいよっとー」
耳元で聞き覚えのある声が聞こえる。
あぁわかったわ、さっきのやつだ、さっき東が来る前に戦ってたやつ。
「ちょっお前話せよ!動けないだろ!」
こいつッ!バカだけど力だけはあるタイプか、全然動けないぞ。あと臭い。
「あれ?もしかして、攻撃避けられない?」
「ぐっ!はなせっ!離せよぉ!」
出来る限りジタバタしてみるがびくともしない、首もしっかり押さえられているから、もう全く避けられる気がしない。
「じゃあ、さよーならってことで。」
ボクサーのようなポーズで真っ直ぐに繰り出された悪意が俺に迫って来る。
「やめろやめろやめろっっ!」
あぁこれくらったら絶対いたいだろうなぁ顔面が潰れて、今度は目が見えなくなるかも知れないなぁ
『セーヤ!眼を閉じて!!』
唐突に飛んできた声は俺に指示を与える、俺は言われたように従う、すると目の前がビガッ!と一瞬真っ白に染まった。
「くっそ、なんだよ!目が見えねぇ!」
『今よ!全力で前屈みになって!!』
俺は状況も把握できていないままその指示通りに無我夢中動く。
前屈みになると後ろにいたやつがぶっ飛び東に直撃する。
「いってぇ!!お前ふざけんなよッ!」
「ふざけんなって言われましても、そいつに飛ばされたんですって!!」
どうやら仲間割れが始まった、とりあえず今ここにいてもいいことなんて無さそうだ、さっさと逃げよう。
「あ、おい!ちょっと逃げんなよ!、ってかお前邪魔だ!どけ!」
「足挫いちゃった見たいでこれが全く動けないんですが……」
東はもう視力が回復したのかしっかりと俺の方を睨んで
「コヤナギィィィ!覚えてろよぉ!」
と、多少狂ったように叫ぶ
普段だったら一瞬にして逃げたくなるような台詞を、男に押し潰された格好で言われても全然怖くないし、むしろくそダサい。
「もう忘れましたよ。では」
少しカッコつけ俺はその場をあとにする。
このまま学校にいてはまた、同じことが起こると思い(めんどくさいってのもある)素早く帰宅する。
「はぁぁぁーーつーかーれーたーー」
俺は頭に付いた雪を払い、傷のついたヘルメットを横に置き、大量のため息とともに疲れを放出する。
『いやぁ危なかったですなぁ』
「レイナがいなかったらまた、鼻が折れるどころの騒ぎじゃなくなってたよーーまじで感謝っす」
『それほどでもー』
「あ、机」
『机、取り返すの忘れちゃったね……』
「まぁ、今度行ったときにでも先生から余ってる机もらえばいいかぁ」
『でももう、ほんとに学校休めなくなっちゃったね♪』
今日休んだら欠席がヤバいとか、担任が言ったから、ということだろうか……。
「何でちょっとうれしそーなんだよっ♪」
『これでやっと、セーヤが学校に行くようになると考えるともう、嬉しくて嬉しくて』
「でも辛くね?今日の一件もあったわけだし」
『そーだよねーまぁ、そのときはそのときで、私がなんとかしてあげるから♪』
「じゃあ頼ることにするよ、よろしくな!」
『もちろんセーヤのためなら何でもするから安心して頼りなさい!』
「んじゃ俺はもう、寝るから。お休みー」
『今日ぐらいは、いっかな。』
…………save
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誕生日おめでとーーー!!
そんな声が起きた直後に聞こえてきた。
「ん、ん?今日って何日?」
『クリスマス!12月25日だよ!』
「え、マジで!?!」
『ふふふーん!マジです!』
まじで俺の誕生日じゃんかよ、まさか自分の自慢できる唯一の誕生日を自分自身が忘れてるなんて……でもレイナが祝ってくれるなんて思ってもいなかった…………。
「まぁ、なんだ……ありがと、な」
レイナの顔が急に無邪気な子供のような笑顔に変わる。
『わぁ!セーヤがありがとうって言ってくれた♪嬉しいなぁ嬉しいなぁーわーーーい♪』
とても嬉しそうにぐるぐる空中で回っている、レイナを見ているとこっちまで楽しい気持ちになってくる。
人生でここまで嬉しい、楽しいと感じたことはおそらくなかっただろう。人をそんな気持ちにさせる力がレイナにはある。
「でもほんとにありがとな、感謝してる。」
なぜかこっちを見ているレイナの顔が紅くなる、照れているのだろうか、まぁなかなかかわいいのでこのままずっと見ていてもいい。
『そ、それでね……プレゼント…………』
「プレゼント用意してくれたのか!?やったぁー!」
『フッフッフー驚くわよ!はいっどーぞ』
レイナがそう呟くと向こうの方から四角い箱が台車に乗ってこっちに向かってくる。
「箱?」
『ほらほらぁ♪開けて開けて!』
「わーったよ、よいしょっと、これかなり重いのな」
『わくわく』
いやそれ俺の今の気持ちだから!と、心のなかで突っ込みながら箱を開ける。
「え、ぇ?ええええ!おーーー!!」
「こっこれってマジもんの強化スーツやん……」
『ふっふーん、褒めて褒めて!それ入手するのめっちゃ大変だったんだからぁー』
ヤバいぞこれはヤバいしか言葉が出ないってぐらいヤバい、こんなの軍ですら持ってないんじゃないか?
てかこれさえあれば、ヒーローみたいな感じになれちゃったり!
おおおおおおおお!すげぇ!
「ねぇねぇこれ!早速着てもいい?」
『別にいいけどこれの装着の仕方は特殊だから私が教えてあげるね!』
「特殊って?」
『それはねーーー』
レイナの説明によるとこの装備の特徴は、装備をどこにでも(俺がいることが前提だが)転送できるとこらしい。
『はーい!じゃあこっちは準備できたよー!あとはセーヤのタイミングでいいよぉ』
俺は大きく息を吸って目を閉じる、やけに心臓の鼓動が速くなってきた。
あぁなんてカッコいいんだ俺は…、こんな僕をここまでしてくれたレイナに感謝しつつ、俺は口から息を吐き出して少しでも冷静になろうと試みる……。
「よしっ、いくぞ!レイナ!」
『うんっ!セーヤっ頑張って!』
「装備転送システム起動!」
システムを起動するために左手首のブレスレットのダイヤルを押しながら声を発する。
そして手順通り両手に装着している手袋の左手の甲と右の手の掌を胸の辺りでクロスする。
その瞬間に両手の甲についているレンズが青白く光を放つ、それと同時に右の掌を中心に光の歯車のようなものが出現しそれを自分の眉間辺りに持ってきてでロックをする。
すると右の手の甲から、中心にレンズがある黄金の三枚刃の紅葉を模したブーメランのようなものが出現する。
右手でフリスビーを飛ばすように構えるそして、左から右へ平行に手を振り、右手の甲についていた黄金の紅葉を飛ばす、それがブーメランのように戻って来て、自分の眉間辺りで顔に張り付く。
ここまでの手順を完了したらあとは、勝手に装備が転送されてくる。
「おお、おっ、おおお!!!」
今俺の回りでは普通ではあり得ない事が起きているのだ、さっき黄金の紅葉が俺の体に装着されたように次々とどこからともなく、俺の回りにアーマーが出現し、次々と装着される。
いつの間にか俺の体はすっぽりと装備に覆われていた。
多少呼吸のしづらさと視界の悪さはあるが、その装備のかっこよさはレイナの顔を見れば一目瞭然だ、また無邪気な子供のような目をしてこっちを見ている。
「ど、どうだ、俺カッコ悪くはないか?」
きもいなんて言われることはないだろうが少しも不安がないわけでもないのでちょっと聞いてみる。
『ううん、もう最高だよっ!かっこよすぎる!セーヤちょーカッコいいーーー!』
『セーヤもうヤバいヤバいよヤバすぎる!!ほらっ自分でも見なよ♪』
「はっ!」
初めて自分で見た新しい俺は、ほんとにただ真っ黒な全身装甲に金のブーメランに胸、小手、脛を覆う大きな金のアーマーを着け、肩と背中にガンメタのアーマーを着けただけのロボットみたいな風貌だった
顔なんて黒いヘッドギアの真ん中に引っ付いたブーメランの中心にレンズがついてるだけだし、胸部とブーメランと胸部アーマー小手、脛が金色なだけであとは全部真っ黒だし。まぁ、艶々だけども。
「あれ?、これほんとに強いの?」
腕は細いしスーツは思ったより薄いし、まぁアーマーはわりと頑丈そうとはいっても鉄よりはって感じだし……正直かなり不安なんですけど…。
『もー私を信じて!そのアーマーは私の友達が丹精込めて作ったんだから!とりあえずそこの壁殴ってみたら?』
あ、友達が作ってくれたのかぁ、今度ありがとうって言いに行かないと。
「ま、まぁそうだな。」
おもいっきり拳の中心に力を込めて、腕を大きく振りかぶるそして真っ直ぐ壁に向かって正拳を繰り出す。
「うらぁ!!!!」
キュイイイイと心地いいモーターが回るような電子音が聴こえる、これが強化スーツのアシストか、と思いながら俺の腕はいつもの何倍もの速さで高速で振られ、俺の目の前に映し出されている画面になにやらよくわからない文字が表示される。
ギィィィン!!、金属と金属のぶつかり合う音がし、目の前の光景に俺は驚愕する……。
強化合金の壁に俺のパンチで穴が空いているのだ、普通この壁は車がぶつかっても壊れないはずなのに……。
「やっべぇ」
『どぉ?すごいでしょ!』
「すごいもなにも、こんな力……俺なんかが……」
『力なんて使い方によってはいくらでもいいようになるんだから。』
俺はレイナの思いもよらない言葉に唖然とする。
「レイナ…………」
『でも、その力には欠点がありますっ!』
「え?欠点なんてあるのか?」
『それはねーーースタミナまではカバーできていないところですっ!』
嘘ーだーろー!!
『私が、セーヤが運動するようにって、友達に頼んだらやってもらえたの!』
「えっと……つまり俺がこのスーツを完璧に使いこなせるようになるには、スタミナをつけないといけないと」
『そゆことです!』
「ふぁぁぁまじかーーーい辛ぁーーーい」
『ふっふーん、これでセーヤも毎日走る気になったでしょ?』
ちくしょーー!こんな強そうなのにっ!走らないといけないのかよぉぉぉ。
けどやるしかないかぁ。
「むむむ、全くもって不本意ながら……」
『やったぁ!作戦成功!』
『じゃっ!今日からがんばろうねーー♪』
そのレイナの笑顔は喜んでるんだか楽しんでるのかよくわからない笑顔だった。