3話「避けゲー」
『こんなの全然だめーー!』
「いやいやこれの方が全然いいってば!」
明石に先日壊されてしまった眼鏡に変わる何かのデザインについて、ラボにある大きな机の前で話し合っているのだがこれが全然進まない。
俺とレイナの意見が全く噛み合わないのだ
例えば、俺はやっぱりロボットのようなかっこいよく素早く動ける装備がいいといってるにも関わらずレイナは、戦車のような全く動けない代わりにダメージは全く受けないものがいいと言っているのだ。
「だーかーらーそれだと相手のこと殴れないじゃないか!」
『別にレイナからしたらセーヤが攻撃受けなければいいだけだしーー』
「あーゆー奴は絶対殴らないとわかんないんだって!あとこっちの方が断然かっこいいね!」
『今はカッコよさなんて気にしてる場合じゃないでしょー死んじゃったらなんの意味もないんだから!』
「はぁ?俺が死ぬわけないだろ?てかそんな装備じゃあ全く動けないじゃないか!予測システムが全くうまく使われていない!」
『それは私も気になってはいたけど!でも、頭の回りは危ないからこのヘッドギアはつけてもらうよ!』
「えーそれが一番カッコ悪いのにー、絶対バカにされんじゃん、大抵あいつらは俺が何をしてもバカにしてくるけどさー!それでもダサくない?」
『ダサいダサくないの話じゃなくて、頭ぶつけたらセーヤは雑魚だからすぐ気絶しちゃうじゃん!そのときに殴られたら大変だと思ったからいってるの!』
雑魚ってとこに少しイラついたが、俺のことを心配してるのはホントそうだな、
「じゃあヘッドギアはつけてあげるよ、だけど後のデザインは俺が決めてもいい?」
『うーんどう考えても私へのメリットは少なすぎるけど、まぁ一番つけてほしいのをつけてくれるってことだからいいよ。』
「ヤッホーーイ!」
喜びのダンスをしていると後ろから声がしてくる
『やっぱりセーヤは明石とかをぼこぼこにしてやりたいとかは思ってるんだね。』
「当たり前だろー、やり返して一生俺に歯向かえないようにしてやりたいね!」
『そんなもんなのかぁ』
「そんなものなのだよ人間なんて」
『あ、』
「どしたの?」
『いや、何でもない……』
「そかそかじゃあ早速造りますかぁ!」
『おー!』
装備を造るときはレイナと俺とで一緒に造るようにしている。
ベッドから台所までのちょうど真ん中ぐらいにその作業部屋はある。部屋の真ん中にシンプルで巨大な楕円形の机がひとつとその周りに多少大きな機材やらがあるだけだ。
レイナが演算、設計、材料等を教えてくれるのでそれ通りに俺は材料を買ってきたり、溶接したり、組み立てる。
「あっつ!!」
『大丈夫っ!?』
「あぁ、ちょっと火花が当たっただけだから」
『そ、そうならいいけど……そ、それでね』
「ん?」
俺はコードだらけの基盤を机に一旦置く
『そろそろね、セーヤ誕生日じゃない?それでね……ほしい物ってあるのかな?って思って』
レイナが俺の誕生日を覚えててくれてるなんて思ってもいなかった
「うーん、なんだろなぁ」
これはありがちなことだと思うが、いきなりほしいものと言われてもわりとすぐにでなくて焦ることがあるだろう、今がそれだ。
「うーん…………強化スーツ?」
『え、?なにそれ』
レイナが不思議そうな顔でこっちを見てくる
「あーあれだよ、今造ってるこのヘッドギアみたいな機構が体全身に付いててジャンプ力が上がったり、走るスピードが速くなったり、単純にパワーが上がったりするやつだよ。」
『あー、わかった!ロボットみたいな感じになりたいのね!』
なんか違うけどかわいいから許す!
「まぁ、そんな感じだ」
『オッケー!じゃぁ考えとくね!』
「おう!」
そろそろ眠たいな、てかめんどくさい、なんかいってこの作業終わらせよう。
作業を初めてから約2時間がたち健全な男子高校生の俺はもうおねむのじかんだ。
何で俺は、これ作ってるんだっけ?頭がボーッとしてきて当初の目的さえもあやふやになってきた
「あれ?わざわざ新しくヘッドギア作らなくてもバイクのヘルメットとかでいんじゃねっ!?」
不意に思ったことが口からでてきた。
『はっ!確かに!てか今更っ!』
さっきから家の中を走り回っていたレイナが俺の前で止まる。
「確かにって、考えてなかったんですか、俺も今思い付いたんだけど……」
『いや、装備って1から作った方がいいものだと……』
「それは一理あるけど別に無理して作る必要はないんだ、それだと効率が悪くなることもあるからな」
それらしいことをいってごまかす
『ほうほぅ、そーゆーこともあるんですな!!』
レイナ は一瞬で軍服へ着替え、敬礼をしていかにもわかりました感を出している。
「よし、じゃあ今から一番カッコ良さそうなヘルメット買いにいきますか!」
『あれ?もしかして作るの面倒なだけじゃ』
まずいばれるっ!俺の巧妙な手口がばれてしまうっ!!
「そ、そんなことはないよ……早く買いにいこうぜ!眠くなっちゃうし」
『そうだね!じゃあ買いに行こう!』
「お、おー」
なんかいろいろ考えてたのにこんな結果でいいのかって気はしてきたけど。
「まぁ、いっか!」
そう言って俺達真っ暗な夜の町へと足を踏み出し、一週間ぶりに外の空気を吸った。
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あれから一ヶ月がすぎて、12月になった。
「あー寒い寒い。」
昨日の夜から雪が降ってたらしく、通学路に雪が積もっている、ついでにいうと現在進行形でその雪がどんどん積もってきている。
「なんで、こんな日にも学校があるんだよぉ~」
『そんなの私に聞かれても困るよ』
レイナが、独り言に参加してきた
「おはよー、あと今の独り言だから」
『そうなの?でも、今日は吹雪になるらしいから学校休んでもいいんじゃない?』
「それはできないのが、学校なんだ」
『なんかしたの?セーヤ』
「あぁ、学校休みすぎた。」
そう、この小柳聖夜17歳は鼻が折れたこと(ほんとは一週間ぐらいでなおってる)を理由に学校を一ヶ月間休んでいたのだ!
そして、休みすぎていた俺のところに昨日担任から電話が来て、《そろそろ学校来ないと単位もらえないわよ》と、言われたのだ!
そもそも学校を休みがちの俺だ、一ヶ月も休んだらそりゃもうヤバいことになるのは当たり前だ、でも、一日休んだらもう一日っ、てなるじゃん?だから仕方がないと、思いたい……
あと明石に殴られんのやだし。
『今回は、セーヤのせいね、観念して学校にしっかりいって常識を学んで来なさい』
「うへーレイナ先生厳しすぎかよ~結婚してあげるから許してよぉ」
俺がうなだれながらふざけてそんなこと呟くと
『もぅ!そんなこと言っちゃって~学校サボったことは許してあげないんだからねっ!』
とかなんとか言われて顔を真っ赤にしたてレイナのツンデレが発動した
今日は朝から幸せだなぁ、きっと今日はいいことがあるぞ!と、それを見事に裏切るように教室に入ったら俺の机がなくなっていた。
「ほぅ、やるじゃねぇか」
俺が来たことに誰も気づいていないのか誰もこの事について話さない
まぁ、そもそもこのクラスのやつとしゃべったことがないからなんも気にしないんだけど……誰が、やったんだ?
ふいに誰かが俺の肩を叩く
「ずいぶんと学校に来なかったけどどうかしたの?」
頭を傾けて微笑を浮かべているそいつは空だ。
ずいぶんとキャラが変わったようでこれから空は気持ち悪い路線に走るらしい
「お前絶対なんか知ってんだろ」
どうせやったのは空か明石らへんのやつだろ、それ以外ののやつとはなんにも接点ないし、そもそもこんなことをする必要がない。
「おいおいいきなり俺の質問無視かよ、せっかく心配してあげたのに」
「嘘はいいから早く答えろ」
「は?何が?」
「机だよ!机!!!!俺の机がねぇじゃねぇかよ!」
空の会話のレベルが低すぎて少し声が大きくなってしまった
「あーそれ、なんか先輩が持って行っちゃったんだよね机が足りないからとか言って」
は?なんだそいつ、理不尽過ぎないか?
「で、そいつと、俺の机は今どこに?」
「先輩は知らないけど、机なら多分第3倉庫にあるんじゃね?」
え、第3倉庫って確かこの学校で一番でかい不良のたまり場じゃねぇか!
なんだよ、先輩って悪い方の先輩かよ、留年してるほうかよ!てっきり文化祭の道具とかで使うから必要なのかと思ったけど全然違うじゃねえか!
「はぁ、取りに行くしかないか……」
「取りに行かない方がいいと思うよ、聖夜だったら絶対殺されるから。」
「いや、殺すって」
嘘が下手な空君が、またまた変なことを言う
「マジだよ、だいたいはバカな人ばっかだけど力だけはあるから、確か一人プロボクサーもいたはずだし。」
「プロボクサーがそんなことしていいのかよ」
「ばれなきゃいいんじゃないの?知らないけど」
随分とてきとうなやつだな、
「まぁ、とりあえず机取りに行かないと授業受けられないし、取ってくるよ」
「はぁ?お前俺の話聞いてたの?バカなの?ねぇバカなの?」
「バカじゃねぇさ、俺にはこのヘルメットがあるからな、余裕だ」
大きすぎて少し鞄から顔を出していたヘルメットをパンパンと叩く
「なんだそれ、この前の眼鏡の新バージョンかよ、そんなのじゃ全くいみないと思うけどまぁ、取りにいってくれば?運よくいないかも知れないし」
空のわりに随分と話してくれるんだな、明石に怒られるんじゃないのかよ、キャラブレブレすぎだろ
「じゃあ、情報ありがとな」
「せいぜい死んでこいよ」
「ふっ、俺は死なんよ」
学校の第3倉庫というのはなかなか近場にある、教室から歩いて五分もたたないうちに倉庫についてしまった。
さぁて、倉庫前についた訳だが
『レイナ!中に人はいるか?』
『えーっと3人かな?』
歩いているときに被っておいたヘルメットのシールドに3人と、文字が浮かんできた
『3人か……3人なら行けるか?』
行けるか?とは、予測システムがカバーできるかどうかということだ
『3人ならまだ余裕だけど、行かない方がいいんじゃない?』
『いや、ここまできたんだ、行く!あんな理不尽なやつら許せん』
あと、授業受けられないしな
『そっか、じゃあ頑張ろうね!』
『まぁ、戦わないのが一番なんだけどな、』
俺はいかにも倉庫らしい古びた大きな金属で出来た扉をこじ開けて中に入る。
そこは暗く埃っぽく錆びた鉄柱ばかりが置いてあり、謎の異臭が漂う廃倉庫のような場所だった。
『誰もいないのか?』
俺が声をだすとそれは反響して大きくなる、辺りはしんとしていて人間の気配なんてものはない
『セーヤ後ろ!』
システムとレイナが同時に反応する
暗くて見えづらいが、確かに後ろを向くと学生とは思えない大柄のやつが腕を振り上げてるところだった。
俺は予測線に従い降り下げられた拳を避ける
「あっぶねぇな、誰だお前!」
嫌悪感を覚え少し声を大きくして言葉を放つ
元学ランのようなものをはおり、かなり薄汚れていて所々ビリビリに破かれているシャツを着ているそいつは、俺のことをかなり上から見下し、睨みながら
「あ?オメェこそだれだよ!勝手に入ってくんじゃねぇよ!」
と怒鳴る。
「俺のことはどーでもいいので、机を取られんで返していただけないでしょうか」
こんなやつに敬語を使うのはしゃくだが、今怒らせてもめんどくさいだけなのでとりあえず使っておく。
「机?あぁ、お前が、」
ん?なんだこいつは俺のことを知ってるかのような口調だな、なんか聞き出して見よう。
「あの、僕のことを知っているのですか?」
あー気持ち悪い気持ち悪い、こんなことを言うなんてキモすぎる。
「知ってるもなにも、お前明石にぼこぼこにされてたやつじゃないか、」
「え、」
なんで、しってんだこいつ、あのあと実はたくさん人が見に来ていたのか?
「えっ、てなんだよ、この学校の大抵の人は知ってるぞ、明石に鼻折られて学校にこれなくなったやつがいるって」
なぁーーーぬぅーーーー!!!!
まさか!まさかだ、そんな感じに認識されることになるとは思っていなかった!ダサすぎる、殴られて鼻折られたから恥ずかしくて学校これなくなったインキャだと、思われるとかはっず!
俺はその場で頭を抱え、ガックリと膝を落とす。
「ふ、ふん別にそんなこと気にしてないし」
大丈夫、まだ、こんな台詞が言えるんだ、俺の精神はまだ、やられてない。
「まぁ、どぉでもいいけど早くここから出ていけ、邪魔だ」
「いや、だから机を返してほしいのですが……」
「うるせえ!じゃまだっつってんだろ!!!」
ヘルメットをかぶっている俺の顔めがけてパンチが飛んでくる
「だから、こんなの当たりませんから。」
明石と比べてスピードのないパンチを避けるのはとても簡単だ、しかも殴る起動が先に見えるのだ、全くあたる気がしない。
「なんでっ!当たらないんだよ!」
ブンブンと何回も腕を振り回しているが一向にその攻撃は、当たらない。
「早く、机がどこにあるのか教えてくださいよ!」
軽く避けつつそんなことをいう
「机なら俺がさっきまで座ってたけど?」
後ろから別の声がしてくる
「だっ誰…………」
ドゴォォォォン
相手の顔が見えるか見えないかのところでまさかのパンチが飛んできた。
その拳は俺のこめかみ辺りを強打し、ヘルメットを少し欠けさせた
ぁ、っ!くそっいてぇ!!
前がっ!見えない、あれ?俺は今どこにいるんだ?
殴られた威力で、その場に倒れてしまった。
「メッ、メリケン……サック?」
俺を殴ったらしき人物の手には銀色のメリケンサックがはめられている。
まさかメリケンサックをつけてくるやつがいるとは、てか振り向いた瞬間に殴られるとタイミングが少し遅れて軌道が表示されないから避けられないな。
「っっ、いってぇ…………」
「おお、立てるなんて有能有能!すごいね君!サンドバッグの才能あるんじゃないの?」
ああ?んな才能いらねぇよ!
「誰だよ、お前……いきなり殴ってくるなんてクズだな」
そいつはメリケンサックを愛でてるかのように優しくさすりながら
「お前が、ここに来たんだろ?だからお前が、悪い」
「どんな……理屈だよ…………質問に答えろ」
さっき空に言われたようなことをいう
「お前は俺のこと知ってるはずだぞ。ほら」
そう言ってそいつは今まで垂れていた前髪をあげる
「え、…………」
お前って……
「どうも、倉科高校3年1組東寛人です。以後お見知りおきを!」