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maniplate~復讐劇~  作者: Kulnete
序章
2/25

2話「コマンドa」

「お前ら! 全員後ろにさがれぇ!」


 その叫びから始まるそれはいつも決まって5時間目のチャイムが鳴り終わりすぐの短い休み時間に起こる。


 大抵教室に入ってくるのは30代後半くらいと思われる男、おそらく身長は180はあり俺からしたらかなりデカイ、まぁこっちの身長が低いからそう見えているだけなのかもしれないが。


 そんな体型で、髭面デブの大人がいきなり小学校の教室に入って来るのだ、しかも右手にはサバイバルナイフを持っている。


 キャーーーー!   


 1人の女子が叫び出すと俺の周りの小学生が続々異変に気付き騒ぎ出し始める、とりあえずうるさい。


 俺は黙って周りを見渡す、当然授業中ではないので先生は職員室に移動しているしここにいるのは男女あわせて30人ほどの小学生だけである。

 教室に在るものは机と椅子位しかなくとても小学生が太刀打ちできるものではないと思い知らされる。


「黙れ! 次しゃべったやつからナイフで刺すぞ!」


 暫くするとこの状況にしびれを切らした男が明らかにモブの決め台詞を言い放つ、大人がよくこんなこと言えるなとも思えるが、こんな台詞で黙ってしまうのが小学生だ。

 なんで男がここに来たのかは本当に謎だが、ひとつ怪しいものと言えばジュラルミンケースを持っている。


 俺らは男に命令されて教室の机と椅子をドア付近に何個も重ねさせられた。それらが無いため今俺らは床に体育座りをすることとなった。

 立て籠るにしても他のとこがあっただろう、なぜここにしたのだろうか。


 辺りがシーンと静まってから3分ほどたっただろうか、やつは教員用の椅子に座りいまだに誰かと電話をしている、その平穏をぶち壊す者が1人クラス委員長だ。そいつは何故か男に話しかけてしまう。


「あ、あの……せめて女子だけでも、外に出さしてください…!」


 あーあやっちゃったよ、みたいな目でクラスの全員がそいつを見る。もちろん俺もだ、こんな場面で普通話しかけるやつがあるか?まぁここでしゃべっちゃうようなやつが委員長になるんだとは思うが相手はナイフを持っている大人だ状況が普段とは違いすぎる、やはりバカだ。


 女子小学生特有の甲高い声が届いたのか男は気持ち悪いぐらい(かなり気持ち悪い)その女子の方を睨んでいる。そして突然立ち上がり発狂する。


「なんだよ…………うるせぇよ、しゃべるなっていったよなぁ!俺いったよなぁ!! うるせーんだよ! 黙れ黙れ黙れ黙れ!!」


 男は髪を振り乱し自分の持っているナイフを教卓に何度も突き刺し発狂する。


 さすがにこの行動には小学生も驚きを隠せなかったようでまた泣き出す、泣き出すとまた男が暴れだす、男が暴れだすとまた泣き出す。


 この無限ループが始まり収集がつかなくなる。そして何故なのか怒りが頂点に達したらしく、男がナイフを振り回しそれが一人の女子に擦る。


「痛いッ!」


 男は自分で女の子を傷つけたのにも関わらず、さも自分の正統性を示そうとして発狂を続ける。狂気とはまさにこの事を言うのだろう。


「あーあーあーー君のせいで女の子が怪我しちゃったじゃないか君のせいだぞ! 君のせいだ! 君が僕を怒らせたから! おこらせたからなんだよぉおぁぉ!」


 男は人の言語よりも猿の鳴き声に近いような奇声を上げクラス委員長のいる所へ、よたよたと体を揺らし気持ち悪い動きで歩きながら近寄る。


「僕、いったよね…しゃべったら刺すぞって」


 クラス委員長の耳元で男が発したその言葉はあまりにも汚くそしてねちっこく女の子を恐怖のドン底に落とすにはちょうどいい言葉だった。


「あ、あ、あ」


 委員長は言葉もしゃべれないほど緊張していて顔が真っ青になっている。そして今にも倒れそうである委員長の頬に男がナイフを当てサッと振り抜く。美しく引かれたその軌道から、紅い鮮血が流れ出て女の子の手を真っ赤に染める。


 許せない、心臓の鼓動が異様に早くなり怒りがこみ上げてくる、自分でも体全体に血液が行き渡り熱くなるのがわかる。


 なんて奴だ! あり得ない、女の子をしかも自分よりも弱いと分かっている相手を傷つけるなんて! 


 あいつはお母さんから習わなかったのか?男の子は女の子を傷つけてはいけないって、守ってあげるものだと。


 ふざけるな、それでも人間か? いやあんなの人間ではない、次傷つけようものなら俺がなんとしてでも止めてやる、もう俺の前では誰も傷つけさせない。


「もーいっか、死んじゃえお前ら」


 何がそうさせたのか突然男が振り上げたナイフを近くの女の子に刺そうとする、はっ! となり俺はもうとっさになって男に全力のタックルを食らわす。


 そのタックルは見事、男の足に命中してこけされることに成功した。


「うッ、いってえなぁ!」


 こけさせることには成功したが男の怒りの矛先がタックルをした少年、すなわち俺へと変わる。


「な、ん、だ、よ! おとなしく座ってればいいものを!」


 俺に邪魔されて怒った男が鬼の形相になりナイフを振り回しながらこちらに向かってくる、その早さに反応できなかった俺は豪快に振られたナイフを肩に刺す事を許してしまった。


「ぐっ!」


 自分の痛みの根源の肩を見るとかなり抉られ赤みがかった白い骨が見える。


痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!


 だがしかしやってしまったことはやり直せない、仕方なく俺はこんなのあの子が感じた恐怖に比べたら大したことないと無理やり思い込ませ、痛みを我慢して男を睨む。


「みんな今のうちににげろぉぉ!」


 とっさに零れた俺の叫びははじめは怯えていた周りの小学生たちに届き、次々に行動を起こしていく。


「う、うん! 今ならにげられるかも!」


「逃げよう!」


「はしってはしって! 追い付かれちゃうよ!」


 男が走ってみんなの方に行こうとする、そんなことをさせたら俺のやったことは意味がなくなる。


「なんか、なんかないか…」


 俺が走っても間に合わないことは分かっている、ならなんか投げるもの……。


 鉛筆……小さい!


 バック……デカイ!


 靴……軽いっ!


「ジュラルミンケース!!」


 これだ!


 これしかない、これが頭に直撃すれば………この判断を一秒もかからぬ間にし、行動に移す。


 俺は最後の力を振り絞り落ちているジュラルミンケースを男にぶん投げる。


 そのまるでハンマー投げのようなフォームで投げられたケースが見事な弧を描き見事頭にヒットして男が倒れる。


 男は気絶したのか、動く様子はない。


「うおおおおおおお!!」


 そしてもう安全だと判断したのか、小学生たちが俺の周りに集まってくる


 危機からの脱却、普段使わない様な筋肉の使用からか意識が朦朧としてきた。


「す……すご…よ、すごいよ………」


「ほん…かっこ……ったよ!」


「ね、だ……」


 興奮しているのか少し声が聞きづらい、体力を使い果たした俺はその場で倒れ………………。


『セーヤーーだいじょーーぶーーー?!』


 突如として聞こえてきた脳に直接話しかけて来るような声によって今まであった世界が反転して、白い天井に白いベットに俺の足が見え、場面が移り変わる。


『もぅ、セーヤほんと大丈夫? すごい苦しそうにしてたよ。』


「ハァ、ハァ、ん、あぁ、夢…だったのか?」


 やけに暑いな、汗もかいていてかなり気持ち悪い、てかここはどこだ?


『家! 家でしょ! なんで忘れてんのーー!』


「あ、そうか、そうだった……な」


 やっと思い出す、自分は小学生ではなく、ただの高校生、今まで見ていたものは夢であって現実ではないこと、そして俺は誰一人として救えてなかったこと。


『学校から帰ってきてすぐにねちゃって、またこんなだからほんと心配なんだけどー』


「わ、わりぃまたいつもの夢、見てた気がする」


 俺はこんな感じの夢をよくみる、夢は自分の望んでいる世界を写し出すなんて聞いたこともあるが、俺はこんな世界を望んでいるのか?


 部屋の端っこにおかれた一人で使うには大きすぎるベッドから降りてコーヒーを飲みに行こうと台所に向かおうとすると、レイナも一緒についてくる。


 ラボの床は白くそして金属でできているためかとても冷たい、そもそもラボの内装がほとんど白一色なのでたまに方向感覚が狂ったりする。


 普段はスマホの中でしかその姿を確認できないレイナは家のなかでは設備が整っているのでかわいい銀髪ツインテールの小学生のような容姿で床や天井や壁の至るところに設置された3Dホログラムプロジェクターから立体的に投影され、俺と一緒に暮らすことができる。


「ほんと、この姿だとかわいいなぁレイナは」


 つい言葉に出してしまった。


『それだと、私がいつもはかわいくないってことになるんですけどーー!』


「ははははは」


『もーセーヤ笑ってないじゃん! ちょっとー』


 こうやってレイナと一緒に話していると、誰もいないこの大ききな家でも自然と寂しさを感じない。


 俺のは元々親が研究所として使っていた施設を少し改造して住んでいる、親はここに滞在することが多かったのか研究所にしては風呂やベッドがあったりするので、たまに元々研究所だったことを忘れるぐらいだ。


 真っ暗な廊下を俺はレイナと二人ゆっくりと歩いて行く。


「やっぱり寝起きはコーヒーだよなぁ」


『そんなの私わかんないしー』


 俺はラボの中心にある机にコーヒーを置いて椅子に座り、レイナはぐるぐると宙を舞いながら、いつも通りの位置でのんびりと話を始める。


「なぁ、レイナ」 


『なに? どしたのセーヤ』


「もうさ……明石達に殴られたり蹴られたりされるのは嫌なんだ……どうにかしてあいつらを負かしてやりたいんだ……手伝ってくれるか?」


 待ってましたといわんばかりにレイナの目がキラキラと宝石のように輝く。


『ずいぶんといきなりだね! でもっセーヤのためならなんでもするよっ!』


 レイナが自分の胸をトンっと叩き、任せなさいというジェスチャーをする。


「ありがと」


『いえいえ~』


「それでさ、俺思いついたんだけど、明石の攻撃全部避けて体力を奪ってから戦うってのはどうよ!」


 俺はちょっとしたシャドーをしながらレイナに説明する。


『おお~さすが! 考えることがすごいわぁ』


「な? これ、たぶんレイナの視覚サポート? を使えば次の攻撃の予測ぐらいはできると思うんだよ」


『まぁ、そのくらいはいくらでもできるけど……私はどうやって相手の動きを見ればいいの? スマホ出しながらだと絶対壊されるしー防犯カメラなんてあるところで戦うわけないし……』


「そこなんだよなぁ~」


『え、セーヤ考えてなかったの?』


「いやぁーーそんぐらいはレイナさんがやってくれると思って」


『セーヤ私に甘えすぎ~♪ 別にいいけど』


「で、レイナさんどぉよ!」


『うーん………眼鏡の横にカメラつけてレンズに動きを投影する感じならわりと簡単に作れるんじゃない?』


「だけど俺、眼鏡なんてかけてないから怪しくね?!」


『でも! とりあえずやらないことには始まらないからさ! やってみよ?』


 たしかにそれも一理あるな、千里の道も一歩からって言うし。


「じゃ、やるかぁ!」


『おーーー!』



 と、まぁこんな感じで《明石の攻撃を高性能眼鏡で避けちゃうぞ作戦》(もちろん名前考えたのはレイナです)が始まった。





ーーーーーーーーーーーーーーーーー








 眼鏡ってこんなにも鼻根が痒くなるもんだったんだな……。


 一時間目の始まる前、オールしたお陰で目が覚めっぱなしだった俺はそのままのテンションで早めに学校に来た。


 まだ、誰一人としていない教室で一人俺は机に突っ伏しながら、眼鏡の違和感を独り言のように頭に浮かべる。


『仕方ないじゃーん♪ それしか思い付かなかったんだしー』


『それはそうなんだけどさ……』


 俺とレイナはあのあと寝ないで眼鏡作りに奔走した、材料はあるものしか使えなかったからなかなかお手軽なものになってしまったが。


 えっと……作り始めたのが10時ぐらいだったからざっと10時間ぐらい作ってたのか……どおりで眠いわけだ、まだ授業までは時間があるし少しは寝ておくのも手だろう。


『お前も休んどけよ、一応』


『うん! じゃあ回線切って少し休んでおくーまたあとでね!』


『んー』


 自分で言っておきながらレイナに休むとかの概念があるのかと不思議に思う、そもそもは機械だから動き過ぎるとなんかが焼ききれたりするのか?

 いや、でも‥‥‥。そんな話をしていたらいつのまにか一時間目が始まろうとしていた。


はぁ、眠い………………。


「こ‥‥で‥ぞーー」


「……………………」


《ありがとうございましたー!》


 終わりの号令で目を覚ます、今日も昼休みまでぶっ通しで寝てしまったらしいが昼夜逆転生活を繰り返してしてきた俺には何の問題もない、むしろ通常運転だ。


 しかし眠いな、もうちょい眠ってても大丈夫だろ。


 二度寝をしようとしたら聞き覚えのある声がしてきた。


「おい! 明石さんがお呼びだ」


 デジャヴ……そんなことより、おいおいもうさん付けかよこいつの変わりようと言ったらもう笑うしかない。


「今日は体育館裏だ、ついてこい」


 俺は下を向きながらてきとうな返事で返す。


「おう」


 スマホの電源をつけるとレイナも起きていたようで、おはよーという軽快な声が聞こえた。


『今日は体育館なんだってさ、どうする? やる?』


『たぶん電波の繋がるとこならどこでも問題ないと思うよ♪』


『そっか、じゃあ手伝ってくれな!』


『ラジャー!』


 このあとも歩きながらレイナとちょっとした打ち合わせを済ませていたら、もう体育館裏についていた。


 俺と歩いているとき空が一言も話さなかったのがなにか気になる、まさか罪悪感だろうかそれともカッコつけているだけなんだろうか……。


「明石さん連れてきました!」


 空は明石達に向かって律儀に深々と礼なんてしちゃっている、俺の認識では明石はくそやろうなんだが何か尊敬できるところがあるのだろうか。


「ご苦労ご苦労、いやぁーー助かったよ、僕なんかが行ったら大騒ぎになっちゃうからね、ほらこっちに来て座りなさい」 


 体育会前の石の階段の上に座っている明石が手招きをしている。


 手をパタパタとさせ空を呼ぶ明石はまるで太った招き猫だ、それでホイホイついていってしまうもんだから仕方がない。

 こいつを売れないラーメン屋にでも置いたら大繁盛するんじゃないかと考えてしまう。


「それで、どうだ何円持ってきた?」


 悪いが完全に初耳である。


 いや、待てよレイナと話してるときにいってたのかもしれないな、空がしゃべってないと思ったら聞こえてなかっただけなのか、どおりでそのあと空が一言もしゃべらないわけだ。


 つまり、俺がレイナと話してるとき周りの人の声は聞こえないのか、いつも誰とも話してないから聞こえないのがデフォルトなんだと思っていた。


「いや、お金持ってきてないんですが……」


 少しうつむきながら言い、相手の顔色を確認する。


 空は少しも驚きを隠せてなく、取り巻きは怒ってるぞ感を醸し出し始め、上機嫌だった招き猫、もとい明石の態度が変わる。


「はぁ? 体育館裏によばれたら普通金持ってくるだろ金!」


 こっちがはぁ?だぜ、どんな頭してんだあいつは、考えが半世紀前の不良だ、てかその学ラン逆に着ているぞ。


「とりあえず今持ってるお金でもいいから渡しなさい」


 明石がはよはよと手を動かす。


『そろそろやっちゃわない?』


 不意に頭に広がる甘ったるい声はレイナから催促。


『じゃあやるか』


 俺はお金を出すふりをしながら眼鏡のスイッチを入れる小さくキュイイイィィンとモーターが回るような音が鳴る。

 準備完了の音だ、あとはあっちのやつらを煽れば俺の勝ちゲーが始まるはずだ。


「それは、ちょっと‥‥」


「ちょっとなんだよ?」


 なかなか腹立たしい様子の明石さんはまんまと作戦に乗ってくれた。やはりバカである。


「無理です」


 面白そうなので挑発したあとさらにかわいい笑顔も追加してお送りする。


「なんだ? てめぇ、なめんなよっ!」


 全力で走ってきた明石の繰り出す大振りのパンチを見るとコマンドのことを一瞬忘れ、逃げ出してしまいたくなる。


 いや、正直逃げてしまいました。

 周りには倉庫で囲まれていて逃げられないのは分かっていても体はもう、逃げている。


 怖い怖い怖い怖い!! 無理無理無理!!


 さっきまでの堂々とした態度とはうって代わり弱々しい自分になってしまう、その様子を見た明石はさらに調子に乗ってブンブンと、パンチを繰り出す。


『こらっ! なんで逃げてるのっ! かわすんでしょー!!』


 ここでレイナからの一喝が来た、だがそんなものでこの怖さが書き消えるとは到底思えないし、現状普通に怖い。


『でも、でも怖いんですけどーーー!』


『大丈夫!私を信じて、いつもセーヤは私のことだけは信じてくれたでしょう』


 んんんんんー、そんなこと言われると健全な男子高校生の俺は、なかなか恥ずかしくなる。けど、レイナがここまでいってくれるなら…………。


『じゃあまぁ、信じるよ』


 俺はここでやっと覚悟を決めて走っていた足にブレーキを掛け明石の居る方へと振り返り発動コードを口にする。


「コマンドa」


 この時発動が一秒でも遅れていたら、確実に攻撃を食らっていただろう。

 コードを口にすると突如として今まで何も映っていなかった眼鏡のレンズ部分に明石のパンチの予測軌道が出現する、それは三つの黄色い円で表され避ける方向まで書いてある。


 ちなみにこの眼鏡は丸眼鏡のようなものではなく、レンズがひとつの横長のガラスでできているのでレンズから見える視界が広い。


『左後ろに避けて!』


 俺には読んでる時間はないと踏んだのか、レイナからも指示が飛んでくる。


 フッと軽い足並みで言われた通りに動くと、明石の攻撃は俺のからだすれすれを綺麗に通り過ぎていく。


 おお、すげぇ! ほんとに避けられる!


「なに避けてんだよ! ざごがぁ!!」


 俺が避けたせいで体をコンクリートに衝突させた明石はこちらを上目で睨みながらキレている。明石を見下せる、この体制最高だな。

 その後の攻撃も俺は予測に従い次々と避けていく。


『後ろ!』

『右後ろ』

『左斜め後ろ!』

『左後ろ!』


 だんだん動きにもなれてきて、調子に乗り初めて来た頃、俺の後ろには大きな壁が立ちはだかる。

 そう、文字通り俺の後ろには大きな壁があったのだ


 ドン!


「ん?」


 このシステムは攻撃の軌道を描くことと共に避けるときの最少の動きを示すものなのだ

 もちろんそんなものは少し後ろに下がるのが一番に決まっている(多分)

 その事をすっかり忘れ言われた通りにしていたら、壁である。


「あーっと…………これはまずいなぁ」


 いつのまにか俺が壁に気をとられているうちに明石は俺の目前にまで迫ってきていた。


 そこからの記憶はもうない。


 あとからレイナに聞いた話によると俺は明石の全力パンチとコンクリートでできた壁に挟まれてそのまま失神してしまったらしい。


 眼鏡はもちろんバッキバキになっていたので捨ててきた。


「あーあ、しっぱいしちゃったや」


 わりと期待していた案だったのでそのぶん落胆も大きい。


『鼻が折れて少し変な感じになっちゃったしね♪』


『変なことは言わんでいい!』


 殴られたときに鼻を折って、なおかつ頭にどでかいたんこぶができたことなんで誰にも言いたくない。俺はまだ少し血がにじみ出ている鼻をさする。


『恥ずかしいんだからあんまり言わないでくれよ……』


『ごめん、ごめんってばぁ♪ でーもー今回は怪我はしたけどいろいろなデータもとれたんだし別にいいじゃん!』


『でもまぁ、それもそーだなぁ。今回の件で視覚のサポートだけではなく防御力も必要だってことがわかったからな! 死ぬかと思ったけど』


『セーヤが体を鍛えるって考えはないの?』


 レイナが少し怒った感じで聞いてくる。もちろんしっかりと答えてあげるつもりだ。


『あぁ、ない!』


 俺の口から発せられた潔い断りの言葉は俺の鼓膜を気持ちよく叩いた。


『もーダメじゃない! ちゃんと運動してないとこの前みたいにぼこぼこにされるんだよ! 普段からねちゃんと運動してる人ならサポート使わなくても攻撃なんてよけれるんだし、そもそも―――――――』


 プチっとな


 この調子だと一生説教が終わらなそうなのでとりあえず切っておく

 まず、必要なのは失神しない用に頭周りのアーマーと、ゴーグル、あとは腹用のプロテクターかな? 他には……。


 そんなことをスマホにメモをするのに集中していたら誰かとぶつかってしまった。


「あ! すみません自分の不注意で!」


 さっき殴られたばっかの俺は少ししたてにまわってしまう。


「ぁ、いえいえこちらこそすみませんね」


 あ、優しい感じの人でよかったぁ

 もしこれが明石だったら慰謝料として一万は確実にとられるとしてそのあと何をされるかわかったもんじゃない。


 俺らはお互いに軽く会釈し、その場を離れる。



ーーーーーーーーーーーー



 ガチャ


「はい、もしもし明石ですけど」


「あぁ俺、正宗」


「まっ、正宗さん!? ご、ごぶさたしております」


「うんうん…………でね今日さぁ、お前のいってたやつ? にぶつかってみたんだけどー、ほんとに弱そうだね今度遊びたいなぁ」


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