1話「強化スーツを着れば最強です」
この世には、聖杯、ロンギヌスの槍、グングニル、そんな、「手に入れたら力を得ることができる物」なんて物が存在する。
勿論そのほとんどが神話だったり伝説だったり伝承の中にあるようなものではあるが、しかし俺もそのような力を手にいれてしまった。
俺はただ、力がほしかった。
それは単に誰かに抗うための力ではなく、圧倒的な力だ、世界を征するようなそんな、恐ろしい力が欲しかったのだ。
そしてまぁ、結論からいってしまえば俺は、その力を手にいれた。
作り出してしまったのだ。神をも殺す尋常ならざる物を作り出してしまったのだ。
あのときはまだそれがどれ程恐ろしいものだったか、何て事は一切考えておらず寧ろそれを楽しんでいた節まであるが、まぁ、これから始まる俺の愚行の数々を楽しんでいただけると幸いである。
◇◇◇
俺がその力を手に入れたのは確かまだ雪が降らないまでも相当に寒い夜のことだった。
夜中の二時、怖い話で丑三つ時と呼ばれる時間。 ほとんどの人が寝ているそんな時間にとある住宅街の一角から新しく太陽ができたかのような光が溢れ出た。
勿論我が家である。
「はっ!」
その光景をみた瞬間に思わず頭を抱えてしまった。
何でこうも凄まじい事になってしまったんだ――。
過去最悪に最高な寝起き早々、そんなことを考えている俺の眼前は、瞬きするのも億劫になるほどの閃光で埋め尽くされていた。
無理矢理起こされることに半ば、苛立ちを抱えながらも、どうしてこんなことになったのかというその原因は、寝ぼけた頭でもはっきりとした心あたりがあった。
そしてさらに言ってしまえば、その原因に胸を躍らせてもいた。
要するに何が起きたのかは解っているが、寝起きがゆえに結局、頭のなかはぐちゃぐちゃの混沌状態だというわけである。
「やっと完成したか……レイナ」
身に余る純白のダブルベッドから身体を下ろし、もたつきながら暗闇の奥から湧き出る閃光へと歩いていく。
閃光の中、壁づたいに歩き、家の半分を占めている研究所の扉のキーを、1225、自分の誕生日で解除した。
厚さ、三十センチメートルを超える鋼鉄の壁がゆっくりと左右に割れ、およそ住宅街に轟いてはいけない音で開け放たれると、その光はさらに猛威を振るい完全に眼前を白にする。
眩しい、が近づかなくては完成したあれに会うことすらできない。
この光の発生源は完成されたあれのはずだ。という俺の予想はあながち間違っておらず、レイナがいすわる見馴れたポッドからその光は放たれていた。
『あっ! せーや!』
光を出している方にいるレイナからはこちらの様子がはっきりと見えているようでまばゆい光の中、進行方向から可愛らしい鈴のような声が聞こえる。
いつもの感じだと手も振っているような気がする。
レイナは、いささか寝ている人への配慮が足りなかったが(寧ろ起こそうとしているまであるが)、まぁこの際仕方がないとも思った。
人間でないレイナに寝てる人のことも考えろと言う方が無理な話である。
「おりゃ!」
レイナの声がする方に暫く歩いていると、やっと発光源にたどり着いた。
そこに着くと、俺は恐ろしすぎるほどの閃光をボタンひとつで消し去った。
「これで、少しは安心」
消したはいいが、しかし先程の光のせいで完全に目がやられてしまっている。
チカチカと、まるで太陽をみたあとのあの感じがじんじんと染みる。
『そんなときは私の作ったARメガネ! 見える君の登場です! はいっ! せーや』
「かっこいいシーンなのになかなかうまくかっこつかないな、別にいいけど」
少し愚痴りながらも眼鏡、もとい見える君を掛けると眼前に美しくも凶悪な残酷なまでに孤高な漆黒の強化スーツが現れた。
美しい――
ディスプレイされたそれは俺から完全に語彙力足るものを奪い去った。
もう、その素晴らしさにみとれるしか無かった。
この装備、強化スーツの名前は創る前から決めていた。
「これが……マニュプレート……」
「うんっ!」
俺の言葉にそのレイナと呼ばれる、3Dホログラムは元気よく頷いた。
◇◇◇◇
「よぉ、聖夜ぁー」
学校に着き、しばらく本のなかの話に没頭していると背後から聞き覚えのある声と俺のボサボサの黒髪をがっしりとつかむ手が降りかかってくる。
まぁ誰か、なんてだいたいわかるのだが。
「……空、何回も言うが…頭つかむなよ」
俺はそいつをにらみ俺の頭をつかんでいる手をどかす。
「もーいーじゃーん!そんなこと気にすんなよー」
この、朝から謎のテンションのこいつは同じクラスの葉山 空。テストでは毎回学年10位以内、身長170超え、天然の茶髪、容姿はおそらくイケメンの部類に入っている。
所謂ただの完璧君だ。
そしてこいつは俺に話しかけてくる人間の一人でもある。
「はぁ、で、なに?」
俺らはほとんどここまではいつも同じことをやっているから、もはやテンプレートと化しているが、仕方なく質問を投げ掛ける。
「今日さ昼一緒に食べようよ、み ん な で」
やっぱりまたこれか…高3になってまでまだこんな事が続くなんて…下らない。
こいつの言う、お昼一緒に食べようよとは、明石やその回りの連中で昼御飯を食べながらイライラしたことやムカついた事を俺を殴ったり蹴ったりすることで解消するあれだ。
まぁ、要するにいじめだ。
「……どうせ強制なんだろ」
一応確認としてわかりきったことを聞く。
「さぁ、それは言えないので! じゃあまたあとで」
いやそれほぼ強制って言ってるようなもんじゃねぇか、退場早いし。いつものパターンからしてこれ絶対行かないとなぜかボコボコにされるやつやん。いってもぼこぼこにされるけど。
『てか、そんぐらいはっきり言えよクズ野郎!』
とてもかわいい声でとんでもない罵声が飛んできた。
『なんだ、起きてたのか』
『当たり前じゃーん何時だと思ってるの? もう12時だよ!』
『ちげーだろ、まだ朝の8時だ』
『ええーつまんなーーい、もうばれちゃったぁ』
『ばれるも何も…時計見れば一発じゃねぇーか』
そう言って俺は、ポケットから出したスマホの中にいる小さな女の子をタップする、するとその女の子がよろめく。
女の子を触っているからといって別に少しエッチなゲームをやってるわけではない。
さらにいえばこの女の子と会話するときに俺は声に出してしゃべってすらいない、ただ頭に話したいことを思い浮かべただけだ。
『まーた変な考え事してるー』
『うるせぇ』
『もー照れちゃってぇ~可愛いんだからぁ』
『回線切るぞ』
『わわわ、それはだめー! ごめんごめんってばぁ』
さっきから話してるこいつは俺が生み出したAIレイナ。
レイナは完璧なAIで自分で考えて成長できるシステムが組んである。
このシステムのせいなのかはわからないが彼女の体はわりと小柄に設定されている、たぶんまだ小学生ぐらいだと思う、けどそれでも俺よりも様々なことをこなす、すごい子だ。
と、彼女は供述しております。
『ねぇ、聞いてるー!』
『聞こえてるわっ!』
『もーホントに回線切っちゃったかと思ったじゃーん』
『だってお前うるせぇんだもん』
『セーヤのいじわるぅーー!そんな意地悪だから友達できないんだ――――』
ザザッ
古臭い音と共にスマホの画面が瞬時に暗くなりさっきまで画面に映っていたレイナも消え、そして声も聞こえなくなる。
理由は簡単だ。スマホの電源が切れると無声通話回線も切れるようにしていたからだ。
これもまた俺が作った技術なのだが、うなじ部分につけている指1本分ぐらいの装置で直接脳から出てくる会話にあたる部分の電気信号を受け取ってその情報を俺のスマホに送りレイナと直接話せると言う物だ。
別に電話のアプリなどでも話せないことはないのだが、スマホに向かって一人で話してるなんて明らかに変態になってしまう、それは色々と困るのでこんな物を作ったわけである。
「でもまぁ、別に切ることもなかったか…」
今俺がいるのは、倉科高校3年3組の廊下側から2列目の一番後ろの席だ。
うちの高校には不便にも教室の後ろにドアがない、そのお陰でこの席では授業中でもケータイをいじり放題なわけなんだが、教室移動の時に不便だと思うときもある。
この特性を利用して普段はスマホをいじりながらレイナとずっと話していたりするのだが、電源を切ってしまったからにはそんなことはできない。
「…………暇だ」
よし!寝よう。
行動は早ければ早い方がいいと聞いたことがある。
それが今だと俺は思う。
特に眠くはないが、授業なんてつまらないものを聞くつもりはないので、ゆっくり目を閉じる。いや、おそらく起きていても寝てしまうだろう。
「はーい皆、席につけー!……」
その声を聞くと共に俺は、自分の体を睡魔に授けた。
「…………………い……」
「おい!」
どこからか声が聞こえる、うるせぇな。眠いのに誰だよ。
あぁーあこのままずっとこの眠りの海から出られなければいいのになぁ……。
そんな思考がまだ霧のかかった頭の中を走り回る。
「起き……って……!」
「う、うるさい…」
俺は寝ぼけながらも腕を払ったりして必死に眠りを邪魔するものを排除しようと努力する。
なんなんだこいつは、俺が寝るのは別に俺の自由だろ。
「おーきーろー! 一緒に昼食べるっていっただろっ!」
耳がいたくなるぐらいの大声で叫ばれ、今まで軽く靄がかかっていた意識が強制的に覚醒させられる。
しかたない起きるか。
「ん、あ、あぁ空かもう少し……」
さっきから叫びまくっている声の主は空だった、何の用件だ? 俺またなんかしたっけ?
「いくぞ!そろそろまずいぞ!」
空は俺の手を引き早く行こうと催促をしてくる。
なーんか忘れてるような、なんだっけ? 考えるがなにも出てこない、当たり前だと言うよりかは仕方ないに近いだろう、だってさっきまで寝ていたのだから。
さぁて、なんだったっけ。
「昼御飯!」
空の呟きにそれだ! と俺は勢いよく空の方に指で作った矢印を向ける
「あっ! 今日昼一緒に食べるって! ヤバいヤバいヤバい!」
「やっと思い出したか、とりあえず急ぐぞ!」
寝起きで動かしづらい体を空に無理やり引っ張られ、教室をあとにする。
昼休みで人がわりといる廊下を颯爽と走り抜け、必死で空の後ろを着いていく。
走る、走る、もうこれ以上に速くは走れないだろうというぐらいのスピードで! そんなとき、空の方ばかり見ていて足元を見ていなかったせいか突然視界が揺らぐ、体が変な方向に曲がり地面と衝突する。
「痛って」
俺はどうやら普通に歩いてる女子の足でこけてしまったらしい。カッコ悪いと言うよりは足をぶつけてしまってすみませんと言う気持ちの方が気持ちの割合的にはおおいが、
「あ、ごめん、今急いでるからっ!」
と言い速攻で足を当ててしまった女子に謝罪と別れを告げ、その場を離脱する。
「聖夜! 速くしろ! 全力で走れっていっただろっ!」
運動神経皆無な挙げ句、たった今こけて全速力で戻ってきた人にそんなこと言うのかよお前は、悪魔か。
「あーもうおいてくぞ! 俺がお前と話してんのばれたらそれだけでもうヤバいのに」
なにいってんだこいつ俺と話すことの何が悪いんだ……。
たぶん空の向かっている所は屋上だと思うが、一階からだとなかなか足が持たない。
「はぁはぁ、もう……ちょっと無理……」
疲れきって息切れしている俺が3階から屋上までの階段の手すりに掴まり立ち止まると、空も走るのをやめる。
「はぁ? ふざけんなよ、お前のせいで、走ってるってのに!」
「なら、別に先にいってりゃいいだろ?」
「そうじゃねぇだろ」
空が頭を抱えて、ため息をつく。
「もう十分休んだだろ、早くいくぞ」
そんなとき、扉が開き、声が響いた。
「お前ら、おせぇよ、遅すぎ」
「え?」
下を向いていた顔をあげると少し高校生にしては、がたいがよすぎるお方が三人ほど見える、その服装は胸元がやけに空いていて首にはお揃いのネックレス、ズボンには大量のチェーンが着いている。
この服装でお馴染みなのが、かの有名な明石さんとその取り巻きだ。
あー終わった、俺らが遅いからってあっちから来ちゃった。
これは空も同様、一番考えたくなかった終わり方だと思う。
「あ、いやこれはその……」
「くっ」
「やぁやぁ葉山君ずいぶんと遅いようだから迎えにいったら、えらくそこのゴミくずとなかがいいようで。どうしたのかな?」
明石はその天然パーマをかきあげながら、堂々と階段を下りてこっちに向かってくる。
「あ、いやこいつが遅かったから……つれてこようと」
いや、保身に回るのは別にいい、だがその前に俺がくずだと言うことを否定してほしかった、と言うか朝御飯を持っていった俺にその態度はないと思う。
「あー! 口答えすんなよ!」
いや、口答えしたのか?
「でもっ! ほんと悪気とかないから……ごめんっ! このとーり!」
あんなイケメンで秀才の空が土下座なんかしちゃって、ほんとカッコ悪い……無様としか、言いようがない。
これだからあいつらと飯を食うのは嫌なんだ、時間より5分は早く集合場所について用意していないと怒鳴られるし、運が悪いと金だってとられる、全くもって理不尽だ、消えればいいのに。
「ゴヤ、おい! 聞いてんのか!」
「あ゛?」
「あ? じゃねぇだろ! 遅れてきたんだから土下座しろよっ!」
空への説教が終わると次は予想通り次は俺の番だ。
こいつらの理論はぶっとんでる、俺が遅れたところで何の問題があると言うのだ、ただの自己満足だろ気持ち悪い。ちなみにゴヤと言うのは俺のことで、由来は名字が小柳だからだそうです。
「なんで俺がお前なんかにどゲッ!!」
俺が明石よりも素晴らしいと言うところをアピールしようとしていた所に……飛んできたのは膝蹴りでした。
あーいってぇ、顔面にいきなり膝蹴りとかありえねぇだろ、普通。バカなの? ねぇバカなのこいつら? てか俺が飯食うとこなんてお前らには関係ないしもっと寝てたかったんですけど!
とは言え、現実で俺はそんなこと言えるわけもなく、次は腰に、そのあとは腹にと、どんどん殴られたり蹴られたりの暴行を受けいつも通りボロ雑巾になりましたとさ。
「お前、なめた口きいてると、ほんとに殺すからな」
俺をある程度殴り気がすんだのか明石はうつ伏せ状態の俺を置いて、定位置へと戻っていく。
そんな下らないいつもの行動に、俺は腹をたてた。
もう毎日のように繰り返されたテンプレートに腹をたてた。
以前ならこんなところで腹をたてたってなんの意味もなかった、ましてや口出しなんてしたら余計に殴られるだけだとわかってもいた。
しかし、今の俺は違う。
「あームカついた、何が殺すだよ。それ、一番ダサい台詞だから」
そんな言葉を自分の口からわざと漏らした。
「はぁ!? ゴヤァ! もーいっぺん言ってみろぉ!」
勿論、なにも考えてない単細胞ポンコツ糞ダサいじめっこの明石はもう反射的にぶちギレる。そして殴りかかろうとしてきさえする。
しかしそんなこと、もう関係ない。
「レイナ、あれよろしく」
寝る前に消したスマホの電源をつけ、レイナにあれを起動するように頼んだ。
『おっはー! レイナだ――わかった! でももういいの?』
『今使わずしていつ使うんだ。ここで使って驚かしてやろうぜ』
『それはーないすっ! と言うわけで、はいはーい起動したよー』
『おっけー』
レイナがあれを起動させたことを確認すると、俺は無造作にポケットから二つの黒い手袋を出した。
その手袋の中心にはカメラのレンズのようなものが填まっており不穏な輝きを見せている。
俺はその手袋を手に嵌め。
「おい! ゴヤてめぇきいてんのかよ! なに俺の話無視して手袋なんてだしてんだよ!」
「転装」
明石の声を遮るようなその言葉とともに、俺はその手袋を交差させた。