エピローグ 希望へ向かって
軍城へと乗り込んで行った奴隷制度廃止運動をしていた宇宙人達は、軍上層部と議論した結果奴隷達を全て解放するという制約を交わし、ほどなくして世界中の地球人に人権が与えられさらには苗字も名乗ることが出来るようになり、鎖が解かれた人達は初め戸惑いながらも少しずつ慣れて行き後に宇宙人と地球人は共に暮らし共に働くようになっていた。
そして旅を終えた晴久達はというと違う道へと進んでいき、アミディオとレイラは旅が終わり街へ戻った後にアミディオのプロポーズを受けたレイラは付き合い始め、二十歳を超えるまで待ったアミディオは結婚して3人の子供も授かり幸せに暮らしていると毎日のように電話でテレンスに連絡をしていて、そのテレンスはというと大学に行き夢だった弁護士になり仕事で出会った地球人女性と結婚して、仕事も生活も充実しており美月は結婚はせずに研究所で創られた子供達と共に差別に苦しむ人達を助けるための施設を建て毎日奮闘していて、晴久は旅の後テレンスと猛勉強をして大学に入り教師になるとのちにテレンスが紹介した女性と結婚して双子の女の子も授かり、いつものように休日を利用して晴久の家に遊びに来ていたテレンスが子供達と来て遊んでいると、インターホンが鳴り晴久が玄関に出ると手紙を受け取り配達員に礼を言ってドアを閉めて宛名を見ると、手紙はなんと研二からで彼は旅が終わった後忽然と姿を消し全員で必死に探し回ったのだが見つからずに、十年が経った今初めて手紙が届いた事に驚きと嬉しさの混じった表情でテレンスと一緒に中を読むと、そこには旅の終わりに何も言わずに別れた事への謝罪ともうすぐ自分の時を止めている能力が消えて消滅する事が書かれていたので、さらに驚いて顔を見合わせる二人は愕然としているともう一枚の手紙には場所と日時が書かれていてさらに読み進めると最後には、
[これは晴久とテレンスにしか頼めない事なんだ、どうか最期に旅で苦楽を共にした仲間に会いたい、それが私の最期のわがままであり願いだ、よろしく頼む]
この文章を読んだ晴久とテレンスは慌てて仲間達に連絡を入れると、偶然か必然か全員の仕事に休みが入っていてその日は家族を知り合いに預けて指定場所に一番近い場所に住むテレンスの家に集合することに決め、それから数日後の指定日にテレンスの家に集まった一同はアミディオが運転する電気自動車に乗って進むが重体にはまり、
「くそっ! 早く進めよ‼ 時間が……」
そう腕時計を覗いて焦るアミディオの手に触れながら晴久が、
「落ち着いて、研二もきっとこれを想定してると思う、だから大丈夫だ」
と言って頷くとアミディオも落ち着いてきたのか前を向くと車が進みだし、着いた場所は協定が結ばれた後しばらくして大火事が起き、今では更地になってしまったテレンス達の故郷であり旅の始まった街セイケピア跡地で、元々テレンスとレイラの家で晴久が入れられていた奴隷部屋があった場所に研二が一人で立ち、仲間が来た事に気付いた彼は振り向くと優しく微笑んで、
「ありがとう……来てくれて」
そう穏やかに言うと目を閉じ静かな口調で、
「あの時……何も言わずに離れてしまってすまなかった……実は全てが終わった後に見えてしまったんだ、私は今日この時間に能力がすべて消えてこの世からいなくなることを……私はそれが信じられなくてずっと探していたんだ、消えずに済む方法を……でも見つからずに今日を迎えてしまった、とても苦痛が伴う十年だったな……」
曇る空を見上げて言う研二の話を聞いていた晴久達だったが涙を浮かべながらアミディオが、
「俺達でも何か出来たかもしれないのに、なんで……!」
と最後は声を詰まらせながら言うが研二はゆっくりと首を振ると、
「それでも……無限に続くものなんてないんだよ、特に命はね……それを悟った時私は消滅を受け入れる事が出来た……君達がいたからこそ受け入れる事が出来たんだと思うんだ、本当に……ありがとう」
そう悲し気に微笑んで言った後そよ風が吹き研二の身体が光り出すと、
「時間が来たみたいだ……また、いつか逢おう私はずっといつまでも覚えているよ君達の事を、気高く優しい仲間の事を……」
と清々しい笑顔で言うと研二を覆う光が全てを飲み込むと最後には弾けて小さな光の粒になり、その粒が空へと昇って行くのを泣きじゃくりながら見送る美月とレイラの肩を、テレンスとアミディオが支えていたのだが彼らの目にも涙が浮かんでいて、ふと晴久は右手を上げると光の粒が一つだけ降りてきて掌に触れると吸い込まれて行き、途端に研二の声がした晴久は涙が溢れて止まらなくなり膝から崩れると驚いて近づいたテレンスが腕を支えると晴久は泣きながら、
「また……また逢おう研二……俺はずっと待ってるから……!」
そう言った後テレンスに支えられて車に乗り帰りの道中は晴久と美月、レイラは泣き疲れて寝てしまいテレンスとアミディオが交代で運転して全員が家に戻ったのは夜中近くだった。
そして研二との別れから三年が経ったころ晴久の家に新しい家族が増え祝うためにテレンスが病院に行って幸せそうな晴久一家に声をかけると、満面の笑みで振り向いて生まれた子供を抱いた晴久はテレンスに見せると彼は何か違和感を覚え次にハッと気付くと晴久に、
「この子……研二さんに似てる……?」
驚愕と言った表情で尋ねると晴久は頷いて、
「ああ、でも……俺はこの子を研二さんと思って育てたくないんだ、俺達の子供だし彼もそれを望まないだろうから……」
と涙を浮かべ腕の中で眠る我が子を愛おしそうに見下ろすとテレンスの視線に気付き、ため息をつくと子供を妻に任せて二人で休憩室のソファーに座り壁を眺めながら晴久は、
「研二さんが消えた日……あの時光の粒が俺の中に入って行っただろ? その時に聞こえたんだ、研二さんの声が……あの人は生まれ変わるために自分のカケラを俺の中に入れるから、その時は仲間の研二さんではなくて俺達の子供として育てて欲しいって言ってた……だから、あの子は俺達の子供なんだ」
そう決意の固まった表情で言うとテレンスは立ち上がって振り返り晴久に微笑むと、
「晴久はとても強くなったな、君がそう決めたのなら僕は何も言えないよ、でも……もし研二さんのカケラならあの子が成長して違和感を覚えた時は僕達も説明に加わるよ、その方が信ぴょう性が増すだろ?」
と言って晴久の肩に手を置いて言うと微笑み合った後病室に戻ると晴久の双子の姉妹が、
「パパ―‼」
そう元気で嬉しそうな笑顔で近づいて足に抱き着くと上を見上げて、
「あかちゃんのおなまえきめようよー!」
と言って目を輝かせると晴久は、
「おっ! そうだな、二人も見ててくれるか?」
そう腕まくりをしてから言うと大きく頷く子供達を見て微笑むと頭を撫で、鞄の中からトランプのようだが裏に絵が描かれてあるカードを取り出すとそれを並べ、不思議そうに見ているテレンスに気付いた晴久は真剣な面持ちでカードを並べながら、
「これはタロットカードって言って占いをする道具なんだ、職場の先輩がくれたんだよこれを使って子供の名前を決めるんだ、未来を見てからね!」
と言って並べ終わったカードに集中してめくっていき、最後のカードを見た後頷いてペンと紙を取り出し文字を書いて行くと、今度は満足気に頷いて微笑み晴久に注目している一同に紙を向けると、
「この子の名前は《祐介》だ‼」
そう言うと歓声が起こり晴久はベビーベッドに眠る祐介に満面の笑みを向けていた。
~完~