プロローグ 脱走
――西暦6600年、人類は滅びかけていた……今からおよそ100年前突如として宇宙からの侵略を受けた地球は荒れ果て、人々は子供から老人まで全て奴隷にされてしまい身体の弱い者達から次々と死んでいく事に危機を感じた地球人は、侵略してきた宇宙人に反発したのだが明らかな科学文明の差で全てが排除され人類が奴隷と化して100年が経った時、それまで家畜以下の扱いを受けていた1人の青年が監守の目を潜り奴隷部屋を飛び出していた……そう、この物語はこの事件から始まった特殊な地球人と心優しい宇宙人達の物語が――
ここは遥か昔雪山だった山の山頂近くにある有名な奴隷商の屋敷で、暗い監守からは見えない大きな窓のある場所に1人の青年が息を切らせて寄り添っていて、その青年は晴久と言う名の奴隷で彼は数分前に当番の監守が鍵を閉め忘れた奴隷部屋から逃げ出していて荒い息の中身をひそめながら、
(今のうちにここを出ないと……!)
そう頭では思うのだが恐怖で足が上手く動かずにいて、その理由は今まで逃げ出した奴隷は何人もいたのだが全て数分で見つかってしまい、辛い拷問を受けた後放置され死んでいるからだ……そして以前見た奴隷の公開処刑の事を思い出しゾッとして身を震わせていると、突然腕を引かれ近くにあった窓へと連れ込まれてしまい咄嗟の事で混乱し身を固くする晴久に腕の主は、
「シッ! 落ち着いて、ここなら安全だし僕は君の味方だよ!」
そう小さな声で優しげに言って暗がりの中微笑む仕草をしていると、その部屋に月明かりが差し腕の主を照らし全貌が見えて来たので目を凝らすと、その人物は尖った耳に金の髪が特徴の宇宙人だったので彼は優しく微笑むが晴久は震えながら睨みつけると、
「な、なんで俺をここに連れてきたんだ? 監守に……引き渡すためですか?」
と言うと宇宙人は傷付いたような面持ちで微笑み、
「違うよ、僕は今のこの状況を変えたいんだ、そのためには君の力が必要なんだよ」
そう真剣な表情で言うが信じられないといった顔の晴久を見て小さくため息をつくと、
「とにかく、今から僕の母さんの元へ行ってちゃんとした服を着よう、そのままではまた捕まるかもしれないからね」
と晴久が着る奴隷服を指して言うと、
「それじゃあここを出る前にこれを着て! 地球人だという事を隠さないとね」
そう言いながら深いフード付きの服を渡すと、
「早く着て! 気付かれるかも知れないから!」
と急かされ慌てて着替えた晴久は彼に手を引かれ部屋の外へ出て行くと歩いている途中怪しむ者もいたのだが、
「彼は僕の友達で人見知りがあるから下を向いているんだよ」
そう笑顔で言って切り抜け歩き続けて5分ほどすると1番大きな扉の前で2人は立ち止まり、彼は緊張の面持ちで深呼吸をしてからノックをすると中から、
「どうぞ」
と落ち着いた女性の声らしきものが聞こえ彼は緊張の面持ちで、
「失礼致します」
そう言って中へ入ると晴久は生まれて初めて入る宇宙人の部屋に戸惑い見回していると、部屋の中はキレイに整頓されベッドやテーブルといったもの以外何もなかったので、晴久は未だ信じられないという心境で立ち尽くしていると1人の女性が前へ出てきて晴久の前で止まると、
「あなたが晴久君ね、私の名前はシャーロット・モンティスよ、この子はテレンス・モンティス、私の息子なの」
優しく微笑みながら言うと手を差し出し握手を求めるが晴久は訳が分からないという表情で、
「こ、これはどういう事なんですか? 俺は……どうなる……のですか?」
と困惑しながら尋ねるとシャーロットが晴久の頬に触れて、
「これから話をするけれどあなたに成し遂げて欲しい事があるの、そのためにテレンスに頼んでここへ呼んだのよ」
そう優しく言われた晴久は少し緊張を緩め、
(この人達はアイツらとは関係無いのか……?)
などと考えていると突然ドアが強く叩かれ、
「シャーロット、少しいいか⁈ 奴隷が1匹逃げたんだ! 探すのを手伝ってくれ‼」
と大声で外の者が言うので晴久は身を固くし緊張しているとシャーロットが晴久の背中を優しく撫でてから、近くのドアを人差し指で差し中へ入っていてと合図をするとテレンスが晴久の手を引き、部屋へと入ってドアを静かに閉めると同時に扉が激しく開き、
「どうした、誰か来ていたのか? なかなかドアを開けなかったが?」
奴隷商の主人がそう言うとシャーロットは、
「ちょうどテレンスの友達が来ていて一緒に勉強していたのですが、あなたが勢い良くドアを叩くから怯えてしまったので奥の部屋へと入ってもらいました」
優しげだが厳しく言われた奴隷商の主人は少したじろいで、
「そ、そうか……すまなかったな」
と言ってから何かを思い出したのか手を叩くと、
「そうだ、奴隷が1匹逃げたんだ! 奴め少しばかり大事にしてやれば調子に乗りおって、公開処刑は他よりきつくしなければ……!」
そう歯ぎしりをしながら怒りを露わにして言うのでシャーロットが、
「落ち着いてください、私も占いで探してみますね」
と微笑みながら言うと奴隷商の主人は納得したように頷いて、
「ああ、頼むぞ!」
そう言って出て行き外に待機させていた数人の男達に支持をだすと散り散りに走り出していき、それを見送ったシャーロットは扉が閉まるまで見守り完全に閉まると晴久とテレンスを呼び、
「もう大丈夫よ、紹介が遅れてしまったわね……彼は私の夫マルコムと言うの、あなたも知っての通り奴隷商よ、あなたにとっては恐怖そのものかしらね」
と悲しげに言って微笑むと晴久にフードを取るように言うと彼は少し渋ったがフードを降ろし、見えた彼の容姿はというと漆黒の腰まである長髪を後ろで括っている華奢な体つきに、瞳は片方が蒼でもう片方が髪の色と同じ黒に顔つきは18歳とは思えないほどの童顔で、見た目は12歳くらいだったので晴久の顔を見たシャーロットは1人確信して頷き彼に寄ると、
「私にはあなたと同じ力があるの、あなたよりは弱いけれども……それにテレンスはこの力は使えない、だから私達にはあなたのその力が必要なの……この地球の人々を救って欲しいの!」
切実な面持ちで言われ困惑する晴久を見てシャーロットは、
「大丈夫、あなたの力なら出来るわ! 」
そう手を握りしめ悲しげ言われるがまだ訳が分からずにいた晴久は、
「ど、どういう事ですか? 俺になにをさせる気……?」
と言うと次にテレンスが前に出て来て、
「僕と君でこの状況を変えるんだよ!」
そう力強く言って彼も手を握ると晴久は困惑していたのでシャーロットが、
「あなたにはもう〔見えて〕いるでしょうけれど、これからこの子ともう一人の3人でこの地球の政治体制を変えるように、奴隷制度の廃止を進言するため旅にでてもらうのです」
と言われた晴久は固まって言葉が出ずにいるとテレンスが、
「大丈夫! 僕達と晴久がいればきっと出来るよ!」
そう自信ありげに言うと晴久は先程より緊張して頷くのでテレンスは困ったように微笑み、その後疲きっていた晴久達はシャーロットの部屋で眠りについた。