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たぬきくんときつねさん

たぬきくんときつねさん

作者: 曲尾 仁庵

 たぬきくんときつねさんはとってもなかよし。

 きょうもふたりは、タヌキやまとキツネやまのちょうどまんなかにあるはらっぱ、まんなかはらで、まちあわせです。


 きつねさんは、まちあわせばしょのこしかけいわのうえで、あしをぶらぶらさせているたぬきくんをみつけると、うれしそうにかけよってごあいさつしました。


「おう、タイコばら」


 よびかけられたたぬきくんは、きつねさんのほうをふりむいてこたえます。


「なんかようか、キツネづら」


 きつねさんはこしかけいわにひょいっととびのると、じぶんのかおをたぬきくんのかおにぐっとちかづけました。


「てめぇ、キツネのかおにもんくでもあんのかコラ。よなかにトイレにおきるたびにくらやみのなかから

 うすぼんやりとしろくかおだけうかびあがってやろうかコラ」


 たぬきくんも、はながふれてしまいそうなくらいかおをちかづけて、きつねさんをみつめました。


「てめぇこそタヌキのはらをバカにしてんじゃねぇぞコラ。まいばんまくらもとでちょうぜつぎこうの

 わだいこえんそうかいをかいさいしてやんぞコラ」


 ふたりはしばらくじっと、おたがいにみつめあっていましたが、やがて、


「ふんっ」


 かおをそらしてしまいました。ふたりはとっても、てれやさんなのです。


 いつものごあいさつがおわって、いつものようにふたりは、こしかけいわにせなかあわせですわりました。ふたりとも、くちをまいちもんじにむすんで、けっしてしゃべろうとしません。だまっていたってすこしもおもしろくないけれど、はなしかけたらまけなのです。いつからなのか、どうしてなのか、それがふたりのきまりになっていました。


 おだやかなごごのひざしが、ふんわりとまんなかはらにふりそそいでいます。やわらかなかぜがののはなをゆらし、とおくからことりのなきごえをはこんできました。きょうはとてもきもちのよいひです。


 きつねさんもたぬきくんも、せなかでおたがいのけはいをさぐりながら、あいてがはなしかけてくるのをまっていました。しかし、ついにたえきれなくなって、きつねさんはたぬきくんにせなかをむけたまま、はなしかけました。


「おい、タばら」

「タイコばらをりゃくすんじゃねーよ。いみわかんねぇだろうが」


 たぬきくんはかたごしに、きつねさんにこたえました。


「つうじてんだからいいじゃねぇかよ」


 きつねさんはくちをとがらせると、すこしだけからだをたぬきくんのほうにむけました。


「ほぼほぼきせきだろうがよ。そしてそのきせきはじゅうわりおれのこうせきだろうがよ。じぶんでも

 びっくりだわ。じぶんでじぶんをほめてやりたいわ。むしろおれをほめたたえるべきはおまえのほう

 なんじゃないだろうか。えぇ、このキづら」


 たぬきくんはからだをよじると、きつねさんのすぐよこにすわりなおしました。せなかをむけていると、とってもしゃべりづらいのです。


「キづら?」


 きつねさんはすぐとなりのたぬきくんにむかって、ふしぎそうにくびをかしげました。


「なんでつうじてねぇんだよ。このはなしのながれで、どうしてかわいくこくびをかしげていられるん

 ですか? タばらがタイコばらのりゃくだったら、キづらはキツネづらのりゃくだろうがよ。

 だろうがよ」


 たぬきくんはとてもびっくりしたかおをして、きつねさんに『キづら』のいみをせつめいしました。


「か、かわいいとか、ばかじゃねぇ?」


 きつねさんはぽっとかおをあかくすると、たぬきくんからぷいっとかおをそむけました。


「なんでそこにはんのうしてんだよ。はなしのしゅだいはそこじゃねぇんだよ。だいたい、かわいいは

 こくびをかしげるどうさのことをさしているんであって、おまえのことをかわいいといったわけじゃ

 ねぇんだよバカ」


 たぬきくんはあきれたかおをして、すこしはやくちでまくしたてました。


「・・・・・・」


 たぬきくんのことばに、きつねさんはしゅんとしてうつむきました。きつねさんはおんなのこなのです。


「なんでおちこんでんだよ。おれはべつにおまえのことをかわいくないといったわけでもねぇんだよ。

 おれはおまえのかわいさにかんして、どんなはんだんもくだしちゃいねぇんだよ。そもそも

 タヌキめせんでかわいいかどうかなんて、キツネにとっちゃどうでもいいだろうがよ。

 びいしきがこんぽんてきにちがうだろうがよ。てかこのフォローいらなくない?

 なんでちょっとおれがわるいみたいになってんの?」


 おもってもいなかったきつねさんのはんのうにあわてたのか、たぬきくんはてをばたばたさせながら、いっしょうけんめいきつねさんをなぐさめました。きつねさんはうつむいたまま、じっとたぬきくんのべんめいをきいていましたが、だんだんはらがたってきたのか、めのまえをせわしなくうごいているたぬきくんのひだりてに、とつぜん


 がぶっ


とかぶりつきました。


「いだだだだっ! いたいからっ! はがたついちゃうから! なに、なんなの? きゅうにおなかが

 すきましたか? でもタヌキくってもおいしくないから! ざっしょくどうぶつのにくはおいしく

 ないから! だからいったん、いったんかむのやめようか。ね?」


 きつねさんのきしゅうこうげきにおどろき、なみだめになりながら、たぬきくんはきつねさんをやさしくせっとくしました。たとえかみつかれたからって、たぬきくんはきつねさんをらんぼうにふりはらったりはしません。たぬきくんはおとこのこなのです。


 きつねさんはたぬきくんのてをかいほうすると、はれやかなかおでたぬきくんにわらいかけました。


「ふん。ざまぁみろ」


「おお、おれさまのしらうおのようなゆびが、きつねのえさになるところだった。いくらしらうおのよう

 だからって、しらうおのあじはしないんだぞ」


 すこしあかくなったひだりてに、ふうふうといきをふきかけながら、たぬきくんはそうつぶやきました。きつねさんは、たぬきくんのそんなようすにはしらんぷりです。


「そんなことより、つりいこうぜ」

「そんなことより?」


 ばかな、といわんばかりにおおきくめをみひらき、たぬきくんはきつねさんにといかえしました。


「さっきまでのおれのりふじんなげんじつすなわちおまえにたいするはげしいくのうと、

 ふじょうりなぼうりょくすなわちおまえにたえしのぶけなげさが、そのひとことで

 かたづけられてしまうのか?

 『そんなことより』は、すべてのかこをみずにながすまほうのことばなのか?

 マジックワードだというのかー?」


 きつねさんはみけんにしわをよせると、じろりとたぬきくんをにらみました。


「うるさい」

「はい、すいません」


 たぬきくんはせすじをビシッとのばすと、よんじゅうごどのかくどであざやかにあたまをさげました。たぬきくんはひきぎわをこころえているのです。きつねさんはまんぞくそうにうなずくと、あらためてたぬきくんにといかけました。


「で?」

「は?」


 たぬきくんはあたまをあげると、けげんそうなかおをきつねさんにむけました。


「は? じゃねぇよ。つりにいこうっつってんだよ。なにか、ついにのうみそまでたぬきじるのぐざいに

 なっちまったか?」

「ついにもなにも、おれはからだのどのぶぶんだってたぬきじるになったことはねぇよ」

「だまれ」

「はい、すいません」


 はたいろがわるければ、ためらわずにてったいする。むえきなたたかいをさけることもまた、

 ゆうきなのです。


「で、いくの? いかねぇの?」


 きつねさんはなかなかはっきりへんじをしないたぬきくんに、すこしふきげんになっているようです。

きつねさんのようすをよそに、たぬきくんはうでをくんで、しあんげにそらをながめました。


 わたあめのようなしろいくもが、ゆっくりとそらをながれていきます。


「・・・つりかぁ」

「なんだよ。いやなのかよ」


 たぬきくんののりきでないこわねに、きつねさんはとてもがっかりしたかおをしました。


「いやってわけじゃーねぇんだけどさぁ」

「じゃあなんなんだよ」


 きつねさんはとげとげしいこえでききかえします。そんなきつねさんのようすとはたいしょうてきに、

たぬきくんはぼんやりとなにか、かんがえこんでいるようです。


「・・・ピンとこねぇ」

「なんだよそれ」

「やったことねぇし」

「ねぇのかよ」

「すきなん? つり」


 うでをくんだまま、たぬきくんはしせんをきつねさんにむけました。


「いや、そうでもねぇ」


 ちからづよくそくとうしたきつねさんに、ガクッとからだをかしげると、たぬきくんはあきれがおで

きつねさんにいいました。


「じゃあなんでさそったんだよ」

「こないだ、おにぃにつれてってもらってさ。まあそこそこたのしかったし」

「そこそこかよ」

「それに・・・」


「? なに?」


 ためらうようにことばをとめたきつねさんに、たぬきくんははなしのつづきをうながします。すこしいいづらそうに、きつねさんはくちをひらきました。


「・・・おまえ、およげねぇっつったろ?」


 しばらくまえのこと、きつねさんがたぬきくんをかわあそびにさそったことがありました。そのとき、

たぬきくんはなんだかんだとりゆうをつけて、かわにいくのをいやがっていました。どうして、ときいてもはっきりとしたりゆうをいわないたぬきくんを、なだめ、といつめ、しめあげて、ようやくききだしたのが、たぬきくんがおよげない、というじじつだったのです。


「・・・なんだよ。わりぃかよ」


 たぬきくんはばつがわるそうにかおをしかめました。きつねさんはあわててくびをよこにふると、


「わりぃとかいってねぇだろ。ただ、いっつもはらっぱばっかりってのもつまんねぇじゃん。

 だから・・・」


 きつねさんはうつむくと、ききとれるかどうかというほどちいさなこえでいいました。


「・・・つりなら、いっしょにできんじゃねぇかとおもって」

「・・・お、おう」


 きつねさんの、よそうもしていなかったすなおなことばに、たぬきくんはなんといっていいかわからず、きつねさんからしせんをそらしてとおくのみどりをみつめました。


「・・・・・・」


 たぬきくんのちんもくのいみを、きっとごかいして、きつねさんはかおをあげると、キッとたぬきくんをにらんで、きびしいことばをなげかけました。


「・・・もういいよ。いきたくねぇんならそれでいいし。つりそんなにすきじゃねぇし。

 むしろもういきたくねぇし。つーかくんなバカ。バーカ」

「まてまてまて。そういきいそぐなわこうどよ」


 たぬきくんはみぎてをひろげてバッとまえにつきだし、きつねさんをせいしました。


「おれはまだひとことも、いきたくないなんていってねぇだろうがよ」

「ピンとこねぇんじゃねぇのかよ」


 ふしんかんをかおいっぱいにあらわして、きつねさんはたぬきくんをにらみます。たぬきくんはにこにことわらいながらきつねさんにこたえました。


「まあたしかに、しょうじきピンとはきてねぇよ。でもまあ、なんてーの? せっかくの? こういを?

 むだにすんのもアレだし?」

「ぬぁ、はらたつそのいいかたやめろ」


 ごびをふしぜんにあげてしゃべるたぬきくんに、きつねさんはまなじりをつりあげました。しかし、たぬきくんはうでをくみ、まんめんのえみでひとり、うんうんとうなずいています。


「そうかそうか。おまえはそんなにおれがすきか。おれといっしょにあそびたいのか。

 そこまでいわれちゃあむげにはできねぇ。いってやろうじゃねぇか、つり」


 きつねさんのかおが、パッとしゅにそまりました。きつねさんはいきおいよくこしかけいわのうえにたつと、すわっているたぬきくんのあたまのうえから、ひときわおおきなこえでどなりました。


「ふ、ふざっけんな。だれがてめぇをすきなもんか。こわくてかわにちかづくこともできねぇおまえを

 あわれにおもって、やさしくしてやりゃずにのりやがって。ほとけごごろをだしたのがまちがい

 だったよ。てめぇといっしょにつりなんて、たのまれたっていくかバカ」

「ほっほう。さては、こわいのか?」


 たぬきくんはうでをくんだまま、にやりとくちのはしをあげて、いじのわるいかおできつねさんをみあげました。


「はぁ?」


 いみがわからない、といいたげにかおをしかめて、きつねさんはおもわず、すっとんきょうなこえをあげました。


「つりでおれにまけるのがこわいんだろ? いっしょにいって、じつりょくのさをまざまざとみせつけ

 られるのかいやなんだろ? まあ、きもちはわからんでもねぇよ。しんにすぐれたもののまえじゃ、

 もたざるものはなすすべなくやぶれさるのみだもの。けっかのみえてるしょうぶなんて、やりたかねぇ

 のはとうぜんだよなぁ」


 たぬきくんはこらえきれないように、のどのおくでくっくっくとわらっています。きつねさんはこぶしをにぎりしめ、いかりにふるえながら、しぼりだすようにいいました。


「・・・てめぇ、やったこともねぇくせにどのくちがいってやがる」


 にくたらしいほどじしんたっぷりなかおをして、みあげているのにみくだすようなひとみで、たぬきくんはきつねさんにやさしくかたりかけました。


「しんのてんさいにはけいけんなどひつようないのだよきつねくん。むりをいってすまなかったね。

 きみはきみのちっぽけなほこりをまもるために、きみといいしょうぶのできるぼんじんたちとの

 つりをたのしむといい」


 ごくろうさまとでもいうように、たぬきくんはきつねさんのあしをポンポンとたたきました。それによっていかりがちょうてんにたっしたきつねさんは、


「・・・ごていねいにしゃべりかたまでかえてバカにしやがって。いいどきょうだバカヤロウ!

 どっちがつりがうまいか、しょうぶしてやろうじゃねぇか!」


 みぎてのひとさしゆびをビシッとたぬきくんにつきつけました。たぬきくんはきつねさんのいかりをへいぜんとうけとめて、ふてきなえみをうかべました。


「やめといたほうがいいとおもうが、ま、たってのたのみとありゃしかたねぇ。だが、こうかいすんなよ? まけてないたってしらねぇぜ?」

「なくのはてめぇだタイコばら! さんざんおおぐちたたきやがって! あしたのあさ、ここでまってろ! こわくなってしょうぶをすっぽかしたりするんじゃねぇぞ!」

「かてるしょうぶをすっぽかすほど、おれはバカじゃあないよきつねくん」


 ちっちっち、とひとさしゆびをふるたぬきくんに、きつねさんはぜんしんをいからせて、


「かーっ! はらたつ! ぜってぇほえづらかかせてやるからな!」


 そうさけぶと、こしかけいわからとびおり、たぬきくんにせをむけてあるきはじめました。ぜんしんにいかりをたたえたそのすがたは、みょうおうさえもひざをおるはくりょくです。かってにかえりはじめたきつねさんのせなかに、たぬきくんはおうへいなたいどでこえをかけました。


「ああ、まてまて。おれ、つりのどうぐとかよくわかんねぇから、そっちでよういしといてくれ。

 よろしく」


 さんざんバカにしておこらせるようなことをいっておきながら、そんなことはもうわすれてしまったかのようなかおをして、たぬきくんはかるくみぎてをあげました。ふりかえったきつねさんは、もはやいかりをとおりこしたのか、くちをパクパクさせています。


「ん? どうした? いいたいことがあるのなら、いってくれたまえ?」

「なんでもねぇよっ!」


 そうどなりかえすと、きつねさんはふたたびたぬきくんにせをむけ、かたをいからせ、どすどすとじめんをふみしめて、きつねやまにむかってあるきはじめました。そのせなかからは、にどとふりむきはしないというかたいけついがにじみでているようです。たぬきくんはおもしろそうに、きつねさんのうしろすがたをみつめていました。そして、きつねさんがキツネやまにかえったことをかくにんすると、じぶんもタヌキやまにむかってあるきはじめました。


 こうしてきょうも、しっかりまたあしたあそぶやくそくをして、ふたりはじぶんのすむやまへとかえっていったのでした。

<じかいよこく>

だれがのぞんだまさかのぞくへん、まさかまさかのぜんこうへん。

きつねさんのてんねんと、たぬきくんのおとこぎがさくれつする、しょうげきのだいにわ。

じかい、たぬきくんときつねさん2 ~かわでぬしづり~

ゆだんしてると、けがするぜ。

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