王女と執事は出会う
お待たせ致しました
回想編です
ヴァータス王国の政治は静かな混乱に包まれていた。
古くからの友好国であるウィクトリア王国の第二王子にして王妃の息子、王位継承権一位、フィルクス・フォン・ウィクトリアの急死。それによって側室の子供である第一王子、アーサー・フォン・ウィクトリアが王位継承権一位となったのだ。突然の出来事に貴族たちや国王も少し動揺を隠せずにいた。
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それから半年が過ぎ、木々は秋の訪れを匂わせていた。
白い外壁に描かれた色彩豊かな大地の絵が示す通り、ここはヴァータス王国の都、ヴァイスの中央に鎮座する王城だ。
多くの騎士が常駐し、警備に隙はないように見える。
王城を囲む高い壁の内側と外側、両面を帯刀した騎士が巡回している。
そんな王城の地下。
王族のみに口伝で伝えられる隠し通路。
迷路のような造りになっており、分かれ道が百以上あるらしい。
都の外に通じる出口はいくつもあり、おそらく王城が陥落した際の脱出通路として作られたのだろう。
土が剥き出しの通路、というより洞窟は闇に包まれている。
ザッ、ザッ、ザッっと土壁に足音が響く。
だが、暗闇に光が灯ることはない。
ザッ、ザッと尚響く足音は分かれ道でも迷いをみせる様子はない。
闇を纏った"何か"は、階段であろう段差を躊躇うことなく上がって行く。
"それ"が立ち止まった。行き止まりだ。
コツ、という音が木霊する。
土壁の一部が地に落ちたようだ。
そこから、何かの模様が見える。実際には真っ暗で何も見えないが。
人型の"闇"がそれに手を翳し、そして淡い光が灯る。壁に刻まれた幾何学模様に沿って光は広がり、魔方陣を描いた。
それによって"闇"の姿が見えた。
黒いローブを身に纏い、フードを目深に被っている。同色の手袋を着け、フードの隙間から白い肌が覗く。
高さ二m弱しかない通路と比べて、身長はおよそ百七十cmくらい。長身だ。
ゆったりとしたローブではっきりとは判らないが、性別は男だろう。
彼は目の前に現れた道に足を踏み入れた。
土壁ではなく、こちらは石でできていた。等間隔に炎の灯ったランプが吊るされている。高さも三m程度あり、造りも頑丈だ。壁には古代の言葉だろうか。くさび形文字のようなものが刻まれている。
先ほどの洞窟のような通路が迷路だったのに対して、こちらは一本道だ。
約二百m歩いたところで道が四本に分かれていた。見たところ、それぞれ東西南北に向かって伸びている。
彼は西の道に向かって十歩進んだ所で立ち止まり、天井を見上げた。そこにある印を見つけ、彼は真上に位置する部屋に転移した。
気配を完全に消した上での魔法行使。
これは、彼が超一流の魔法使いであることを意味している。
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転移した先の部屋には少女が一人。
部屋の中央に置かれた丸いテーブルに座り、静かに目を伏せていた。
「あなたは、あれが読めた?」
少女が幼さが残る高めの声で言った。
主語の欠けた問いだ。
「ええ」
しかし、彼は応えた。声変わりの最中なのだろう。高くもないが低くもない声色だ。
「王女殿下が自ら闇ギルドをご利用なさるとは、無用心なのでは?」
彼は挑発するように、それでいて探るように言った。
対して、王女殿下と呼ばれた少女はクスクスと笑い、瞼に隠れていた緑眼をローブ男に向けた。
「でも、その賭けにわたくしは勝ったわ」
彼女は自信に満ち溢れた笑みを浮かべた。
警戒することなく、彼女は問う。
「ねぇ、あなたは誰?」
言った後で思い出したように、
「わたくしはエリザベス。エリザベス・フォン・ヴァータス。ヴァータス王国の第一王女にして王位継承権一位を有する者」
自己紹介をした。
そして、あなたは?と再び問うた。
「私はロストと申します。以後、お見知り置きを」
彼は言って、深々と頭を下げた。
これが、二人の転生者の出会いだ。
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