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身勝手な願いの結末は、幸せか不幸か  作者: 氷雫月
第二章 "望み"と"闇ギルド"
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闇の森で

本編スタートです


太陽が西の地平線に沈み、惑星の半分が闇に染まってから、十時間以上が経過した真夜中。

"芸術と色彩の国"と謳われる大国『ヴァータス王国』の最北端に『イラの森』はあった。

隣国にして、古くからの友好国である『ウィクトリア王国』との国境を跨ぎ広がっている。

貿易の際に重要な役割を果たす道が敷かれたその森は、だが、多くの魔物が生息する危険地帯でもある。

咆哮、悲鳴、破壊が絶えない弱肉強食の世界は、だが、不気味な静寂に包まれていた。


『イラの森』の一角。

黒々とした太い幹、枝、葉。見ているだけで不安と恐怖に支配されてしまいそうになる。

そんな、脅怖の中心に"それ"はいた。

周囲に同化する程の黒いローブを纏い、フードを目深く被った。人型の、『イラの森』にあっても尚異質な"何か"。


強い風が吹き、フードが外れた。

•••••••••••••••••••••現れたのは、少年だった。

背中の真ん中くらいまである、黒色よりも尚黒い、漆黒の髪。緩く三つ編みにされ、深い緑色のリボンで纏められている。月明かりに照らされた髪には天使の輪が浮かび、手入れが行き届いている事が見てとれる。更に、大粒のルビーを連想させる紅い瞳。整った鼻梁に透き通るような白い肌。口元から下はマフラーに隠れ見えないが、とても整った容貌の持ち主であると分かる。


彼を中心に、五十人近くの人が倒れている。

当然、誰一人として息をしている者はいない。

首が迷子になった者。

胴体がくの字に折れた者。

輪切りになった者。

全員、物言わぬ死体となって転がっている。


彼はフードを深く被り直し、踵を返した。血溜まりも気にせず、歩みを進める。

死体は腹を空かせた者たちが処理してくれるだろう。

彼は急いでいた。

仕事は完璧に終えた。

あとは、己が敬愛する主人に報告するだけだ。

彼女のあの笑顔を思い浮かべるだけで、胸が高鳴る。

彼は場違いな、老若男女が見惚れる笑みを浮かべた。

当然、周りに広がる他者の悲劇などは、眼中にない。

自分は幸運の持ち主であると思う。

自分と利害が一致し、更に、ここまで崇拝することのできる彼女と出会えたことに、だ。


彼は唱える。

「《時間と空間の精霊よ。我が声を聴け》」

膨大な魔力が蠢き、地を揺らす。

足下に光の線が浮かぶ。魔方陣だ。

彼が言葉を紡ぐごとに、光は複雑な幾何学模様を描く。

「《-------------我が魔力を糧とし、我が望みし空間へ。テレポート》」

長々とした詠唱を終え、空間を越える。

彼は、虚空に消えた。


残された残骸---------死体---------に、飢えた獣が、我先にと喰らい付いていた。




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