ある冒険者の物語
ある冬の日。
冒険者キルド本部の正面玄関を黒いローブ姿の者が潜りました。
フードを被った者は、冒険者登録がしたい。そう言いました。
声からして、男の人であると分かります。
彼には、左腕がありませんでした。
そんな異質な彼に、大柄な男が言いました。
此処は遊び場じゃねえ、と。
彼は男を無視しました。
それにキレた男は、彼に掴みかかろうとしました。
そう。掴みかかろうとしましたが、ヒラリとかわされてしまいました。それには周囲も笑いを漏らしました。男の方は赤っ恥です。
顔を赤くした男は、腰に挿していた大振りな剣を抜きました。そして、彼に向かって勢いよく、振り下ろしました。
そこからは、目で認識できた者は僅かでしょう。
男の剣は床に落ちました。剣を振り下ろした体制のまま、男は動きません。
数秒後、男の身体はズレていきました。
ゆっくりと、頭から首、胸から腰、股間から尻と赤く滲んでいきました。それは、切り口の跡。
男は、残酷なほどに美しく、両断されました。
よく見れば、彼の腰に鞘が挿してあります。
彼の右手には両刃の剣が握られています。彼は血ぶりするように剣を薙くと鞘に戻しました。
そして、男の死体を見て何を思ったのか。右の掌を男に向け、言いました。
------------燃えろ、と。
これが、後にSランク冒険者となる彼の最初の目撃例となりました。