ある王子の物語
これはある大国の御話です。
この国には二人の王子がおりました。
兄は美しい黒髪に金色の瞳。
弟は美しい白金の髪に金色の瞳。
王家の証である金色の瞳を持った兄弟は、とても仲が良く、いつも一緒でした。勉学に励み、剣術を学び、そして。
この国の人々が幸せな日々を過ごせるようにと、知恵を絞りました。時には、お忍びと称して、街に降り、庶民の生活を体験しました。同年代の子供達と遊び、走り廻りました。
そんな二人の王子を周りは、【賢王の卵】と呼び、温かく見守りました。
しかし、弟王子には心の中にある悩みがありました。それは、王位継承者の問題です。
二人は兄弟は兄弟でも、異母兄弟でした。
弟は王妃の子供。
兄は、妾の子供。
父親である現国王の気まぐれによってできてしまった子供です。
そんな兄は、とても優秀でした。
弟は優しく、聡明で、慈愛に満ちた兄を心底慕っていました。
兄が王となってほしい。そう願っていました。
しかし、産まれとは残酷なものです。
弟は自分が何を言っても、自分がいる限り、兄が王になることはないと分かっていました。
そして、いつからか思うようになりました。
------自分が死ねばいい、と。
そんな、ある日。
弟が視察の為に地方へ行くことになったのです。
兄は弟が心配でした。なにせ、弟が向かう町の途中には『イラの森』と呼ばれる危険地帯があるからです。
兄は、自分が代わりに行くと言いました。
しかし、弟は譲りませんでした。
そんな弟に兄は、御守りを渡しました。プラチナに黒色と金色の装飾が施されたブレスレットです。弟はそれを大事そうに左手に付けて、馬車に乗り込みました。
これが、兄弟最後の記憶となるとも知らずに•••••••••
------第二王子の一行が魔物に襲われた。
その知らせを受けた兄は、周りの制止を聞かず、馬を走らせました。
魔物が多く生息し、大陸屈指の危険地帯をものともせずに、彼は弟の元に急ぎました。
到着した現場は、とても、言葉で言い表わすこともできません。
既に息絶えた者たちが道を塞ぎ、自分の中身を晒していました。
その者たちを退かしながら、兄王子はある物を見つけました。それは、一本の腕でした。
質の良い布で覆われた腕には、ブレスレットが嵌っていました。
他ならぬ、自分が弟に御守りとしてあげた物です。
兄王子はその場に座り込み、腕を拾い上げました。
まだ、温かいのです。弟の温もりを感じるのです。
兄王子は弟が大好きでした。
あの笑顔が、大好きでした。
とても愛おしく、愛らしい、優秀な自慢の弟でした。
腕を胸に抱きしめ、泣きました。
此処が『イラの森』であることも忘れて、泣き叫びました。
しばらくして、到着した騎士たちはただ、ただ立ち尽くし、血まみれの腕を抱き泣く、王子を見つめることしかできませんでした。
弟王子の死は、国全体を悲しみに染め上げました。
兄王子はしばらく、部屋に籠って、誰とも会いませんでした。
悲しみに溺れる兄王子を、一人の少女が訪ねました。
彼女は王子に会うなり、怒りました。
いつまでも引き籠ってないで出てこい、と。
弟が兄のそんな顔を見たら悲しむ、と。
彼女も泣いていたのでしょう。目元が赤くなっています。
兄王子と少女は、一緒に泣きました。
泣いて泣いて、泣き続けました。
しばらくして、二人の泣き声は笑い声に変わりました。変な顏、とお互いに言い合います。
少女は弟王子の婚約者候補でした。
弟は彼女の聡明さなどをよく兄に話していました。
そのうち、三人で遊ぶことが多くなっていました。
公爵令嬢で兄弟と仲の良かった少女は、兄王子の婚約者となりました。
二人は弟王子がよく話していた、笑顔が溢れ、誰もが幸せになれる国を目指し、歩みを進めて行こうと誓いました。
これから、この物語の続きを語ろう。
まずは、ネタバレを少し。
------------弟王子は、生きてる。