再来の騎士
『英勇』という言葉がある。
英雄よりも勇者よりも多くの成績を残し、活躍する者。あまりに大それた意味合いゆえ、世界的称号だ。
– 英勇メルディアン。
歴史上ただ一人、その称号を与えるにふさわしい男が現れるまでは。
無敵無能、史上最強、あるいは人外れ。人間の強さを例える言葉は数あれど、英勇メルディアンを例える言葉は物足りないだろう。
あえて言うならば「理解不能」。
人間はもちろん、世界を統べる三界の
– 地上の竜、– 天界の天使、–冥界の悪魔 たちと何百年にもおよぶ激戦を繰り広げて無敗。さらにその後、世界終焉の危機となった大戦をもあっさり終わらせてしまった。
それが四百年前のこと。 後にも先にも、彼に匹敵する者は現れないと言われている。
……いや、言われていた。
「おめでとう。諸君らは選ばれそして機会を得た」
聖フィラン学園・入学式。
普通科学校の入学式にあたる日、初級学生騎士として入学した メル をはじめ、入学生に向かって学長が発した第一声だ。
「歴史上、英勇メルディアンただ一人が有する
『英雄』の称号を、諸君らが手にするという機会。君たちがこの学園で大した経験を積み、信頼すべき同志を見だし、そして『英雄録』を発見する成績に期待しよう」
それが二年前。あの時はまだ、学長の言うように自分も少しは期待されていたと思う。厳しい入学審査を通過した入学生として。
だが。
「メル、お前またクラスでビリか」
……成績の良し悪しは置いといて。
……どうして俺の成績だけが大声で発表されるのか。
メルは無言でその紙を受け取った。
「冬の進級試験に合格することでいよいよ上級生へと進級する。昨年の初級生から始まり、現在の中級生。そして上級生、卒業を控えた最上級生。冬の進級試験まで気を抜かずに頑張ること。ーーーメルッ!」
「はい」
「お前は皆より更に頑張らないと上級生にあがれないぞ」
「……はい」
下を向き暗い声で小さく返事をした。
午前中の授業のチャイムがなり、みんなが学食へと走った行った。メルは一人屋上へ行き鍵を開けた。端の方に腰掛けると朝買っていたパンを食べ始める。
「英勇録……か」
メルは、その単語をぼんやりと言っていた。
英勇メルディアンの遺品のなかに剣、装備品、その他の所持品は遺されていたが、たった一つ、彼の手元にあるべきはずの物がどこにも無かった。
メルディアンの手記『英雄録』。
地上のあらゆる秘境や聖域、天界から冥界に至る全ての旅をした男の手記だ。
その価値は、単なる英勇の遺品というだけではすまされない。終焉戦争の全容が記された唯一無二の歴史書であり、英勇自筆の剣技指南書であり、数多くの古代遺跡や精霊の住処が記された世界地図でもある。
たとえば、秘境や聖域といわれるエリアは、武器の原料となる希少金属の採掘地でもある。そこの場所が記されていたり、天使や悪魔や竜、あらゆる大型との怪獣との交戦記録も記されているという。
ーしかるべき者が英勇録を手にすれば。
ーそこに記された情報価値は、世界の覇権を掌握するに余りある。
「だからこそ、見つけだせば英勇か……」
”英雄録を発見した者に、歴史上二人目となる
『英雄』の称号を授与する”
世界連合協力会議で正式発表された提案だ。
全世界が新たなる夢見る時代。