二粒目
「ただいまー…」
「おかえりー、遅かったね、また会議?」
姉の恵美だ。今年で19である。恵美姉が中学の頃までは頻繁にケンカをしていたが最近大人しくなった。
「ああ…最近ようやく慣れてきたけどやっぱり疲れるなぁ…」
「おつかれ。ご飯できるから、そのびしょびしょの制服を着替えてきなさい。傘持って行ったんじゃないの?」
「またにーちゃん女の子に傘を貸したんじゃない?」
こいつは弟の隆文。今年で中2。まだまだ生意気だ。
「いつも女子に貸してるみたいな言い方すんなよ…男子にも貸してるからな。」
「やめときな、晴人はナンパ下手なんだから引かれるだけよ?」
「うるせぇよ!…着替えてくる。」
アホらしいけど、こういうやりとりが1番好きだ。
ぐしょぐしょの制服を脱いだらすごく楽になった。ぐっと伸びをする。
「にーちゃん遅いー!」
「はいはい。…お、今日のご飯は肉じゃがか。」
「うん。じゃあいただきます。」
「いただきまーす!」
「いただきます。」
作法や礼儀に厳しい家なのでこういう挨拶はきちんとやる。じゃないと恵美姉の膝蹴りをくらう。
「うんめぇ〜!!」
「…ちょっと味が薄いかな?」
「いや、おいしいよ。」
肉じゃがはよく母親の味というが、うちは恵美姉の味だ。
「…父さんと母さんは?」
「両方仕事。今週は夜勤だって。」
「そうか…」
大変だな、と思う。よく3人も育ててきたと尊敬する。
「…ごちそうさま。シャワー浴びてくる。」
「はーい」
シャワーの流れていく水を見て、ぼんやりとあの女の子のことを考えた。髪は長かった。肩のあたりで切りそろえられていた。目鼻立ちがはっきりしていて、笑った顔はかわいいだろうな、とか考えるがすぐに頭を振って体を洗った。
「にーちゃん!おれ、テストで98点とった!」
「あとの2点はどうしたんだ」
「…どっかいった」
「どうせ字が汚いとかその辺だろう」
「ちげーよ!あれは先生の目が厳しいんだよ!」
「はいはい、字は綺麗に書こうな。…よくがんばった。」
「っしゃ!にーちゃんには褒めてもらえたー」
こういうときは大体恵美姉に散々けなされたあとなのだ。
「…恵美姉、俺寝るわ。」
「おやすみー早いねー」
「おう…ちょっとな。」
ベッドの上に乱暴に寝っころがる。疲れた。頭の中にいつもあの女の子がいる。それを顔に出さないようにするのは苦痛だった。
迫り来る眠気を受け入れ、晴人は深い眠りについた。
ここまで読んでくださってありがとうございます。
ぼちぼち書いていこうと思いますのでよろしくお願いします。