窓の向こう
粉雪の舞う空港から、僕を窓際に乗せた飛行機が飛び立ってゆく。
最大推力のエンジンが、駐車場に停まる車を点描に変え、大地を絵画の様に変えてゆく。
上昇を続ける飛行機は、雪雲をかき分け、やがて巡航高度に達する。
窓の向こうには、夕陽によってバラ色に染められた雲海と、藤色に星が輝く空が広がっていた。
それを眺めながら、こんなことを思った。
飛行機に乗るなんて、ありふれたこと。
その飛行機に乗れば、誰だって観覧者になれる景色なんて、取るに足らないもの。
けれど、それは、飛行機がありふれた存在である時代に生きているからだ。
地球球体説や地動説を唱えた偉人たちも、この窓の向こうの景色は想像できなかったはずだ。
空を目指した飛行家たちにとって、この窓の向こうの景色は、人生を捧げるに足るものだったはずだ。
かつての奇跡が日常になっている。
そんな時代に、僕たちは生きているんだ。
飛行機は降下を始めた。
窓の向こうには、雪の街灯り。
十三才の一人旅が終ろうとしていた。