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作者: 鷹真

・・・淋しい。

そう呟いて、目を伏せた澪。

「そうか。わかった。」

俺がそう頷くと、嬉しそうに笑った。

澪。

何よりも大切な、澪。

俺はお前だけのために・・・。


「おはよう。」

朝からカラリと晴れた週中日。

履修している講義を受けるために俺は、大学正面の門を入って右奥の大講義室に向かっていた。

同じ学科の里香が俺に気づいて近づいてきた。

スラリと長い手足を惜しげもなく披露しつつ、上目づかいに俺の腕に纏わりつく。

ふぅ。

無理やり里香の両腕に絡まれた腕を引き抜く。

ぷー。頬を膨らませて恨みがましく俺を睨むが、視線で講義室へ促すと素直に付いてくる。

「もうちょっと優しくしてもいいと思うよ。アタシに!!」

そう言って抗議してくるのはいつもの事なので、軽く受け流す。

ぶつぶつと文句を言っていたが、講義室の扉を抑えて里香を見やるとありがとうと嬉しそうに笑った。

どうやらご機嫌が治ったようだ。

室内に入ると、数人の視線が俺たちに向けられる。

その視線が語るのは、様々だ。あからさまな奴もいれば、チラチラと盗み見を繰り返す奴もいる。

その視線を気にする事もなく、大講義室の開いている席に腰を下ろす。

当然のように里香が隣の席へ座る。頬杖をついた彼女は、テキストを取り出す素振りも見せない。

いつもの事なので、気にすることもない。

大学などこんなものだ。真面目に勉強するものも、適当になあなあで済ますものも、遊び呆けるものもいる。

俺はというと、そうだな・・・、間あたりか。講義は真面目に受けるが、勉強がしたい訳でも目標があるわけでもない。

俺はただ・・・。


夜の雑踏に足を踏み入れて、ブラブラと辺りをうろつく。

何をするでもなく、適当に流すだけだ。

暫くすると、アチラからやって来る。俺はそれを待つだけ。

「あの~。」

甘ったるい甘え声で、話しかけてくる。

少し大きめのバッグを肩にかけて、まだ幼い顔を化粧で誤魔化した顔の少女に視線を向ける。

「ん?」

軽くほほ笑むだけでいい。簡単だ。

頬を染めながら、後を付いてくる。

人目を避けるように、人混みに紛れて流されるようにその場を後にした。

この少女の素行はあまり良くない。家出少女だろう。

街角の少女が一人消えようが、その賑わいに何の影響も与えはしない。

彼女の両親が気づくだろうが、街をふらつくのに慣れていそうだ。

捜索されるにしても、だいぶ経ってからだろうな・・・。

少しだけ不憫に思う。そう、その少女に面影を重ねてしまうからだ。


「ちょっとぉ~。どういう事よ。」

朝から里香のキャンキャン声に責められる。

「昨日、達也が見かけたって言うんだけど。」

チッ。俺は内心舌打ちをした。

「なにをだ」

内心の苛立ちを隠し、平坦に問いかける。

「XX街をかーわいいわっかーい子と歩いてたって?」

頬を膨らませ、口元を尖らせる。この仕草が可愛いと思っているらしい里香が続けざまに言う。

「アタシというものがありながら。浮気なの?」

・・・浮気も何も。里香と付き合った覚えがない。

「見間違えたんじゃないのか?」

面倒なので、突っ込みをいれずに呆れたように言い放つ。

「そうなの?・・・そうよね。なんか派手な格好だから違うかもって言ってたし。」

単純な女だ。都合のいいように受け取ったらしい。

先ほどまでの怒りが嘘のように消え去って、上機嫌になった。

そこへ達也が通りがかった。里香は達也を大きな声で呼びとめて手招きをした。

「ちょっと~、デマを教えないでよ!あんたの勘違いだったじゃない。」

里香に猛攻撃されて、ちょっとタジタジになった達也が俺を見ながら首を捻る。

「お前じゃないの?アレ。いつもと雰囲気が違ってたけど・・・、兄か弟とか?」

じぃっと俺を見つめる達也に肩を竦ませながら答えてやる。

「俺に兄も弟もいない。それに、課題レポートの提出期限は今日だぞ。遊んでる暇なんてあるかよ。」

膨大な量のレポート提出の話題を振った途端に、達也の顔がさーーーっと青くなる。

「やべぇ。忘れてた。」

面倒そうなので、さっさとその場を離れるべく踵を返す。

里香の馬鹿にした声と達也の懇願する声が聞こえてくるが、無視した。

「おーねーがーいー里香さまぁ。助けて~~」

「いや~。ガセ流した罰だもーーん。」


ふふ。

口元を綻ばせて、澪が喜ぶ。

ふふふ。

お友達が増えたわ。嬉しい。

澪が見下げるのは、半開きに開いた口からだらりと弛緩した舌が覗き出た、瞳が濁った少女だ。

化粧では隠せないほどに青い顔に生気は感じられない。

ふふふ。

私のお友達よ。

澪は笑う。嬉しそうに喜ぶ。

ゆらり、濁った瞳の少女が立ち上がる。ソレは陽炎のように頼りないものだった。


澪。澪。澪。

俺の可愛い、澪。

まだだろう?まだ満足していないだろう?

友達はたくさん欲しいって、小さい頃から言ってたもんな。

ふふ。

ピンポーン。

突如破られた静寂。

苛立ちながらドアを開けると、里香が立っていた。

俺が何かを言う前に勢いよく中に入ってきた。

「寒い。なにこの部屋、チョー寒いんですけど。温度下げ過ぎじゃない?」

両腕を交差させて、反対の手で自分を擦りながら里香が言う。

「あれ?エアコン点けてないじゃん。・・・なんでこんなに寒いの・・」

勝手にリビングまで上がりこんで里香が呟く。

本当に寒いのだろう、絶えずガタガタと震えている。

「何しに来た。」

邪魔な里香をさっさと帰らせたかった。

この空間に邪魔な存在はいらない。

「なによぉ。いつになっても呼んでくれないから、自分から突撃してきたのにぃ~。」

・・・だあれ?

ああ、澪。

この煩いのをさっさと追い返すからね。

「ちょっとぉ。聞いてる?」

「煩い。帰れ。」

・・・まって兄さん。

ふふふ。楽しそうな人ね。

・・・。

澪はにっこりと笑う。

「仕方ない。紹介してやる。俺の、可愛い妹だ。」

「・・・何を言っているの?」

眉を顰めた里香が俺の視線を追う。

「誰も居ないじゃない。」

「澪。俺の可愛い、澪。」

里香の事を無視し、澪に話しかける。

「・・・ちょっと、辞めてよ。変なじょ・・・」

言葉に詰まらせた里香。

澪が挨拶をしようとずいと、里香の目の前まで顔を寄せたからだ。

へな。里香が真っ青になってへたり込んだ。

その周りを澪のお友達が取り囲んでいた。

ゆらり。ゆらり・・・。

「きゃぁぁぁああ。」

ガクガクとする足ではマトモに立つことも出来ずに、這うようにして玄関へと逃れようとする。

「・・・いや。・・・こ・・こないで・・・」

ゆっくりと手を伸ばす。

生白い首を両手で掴み、徐々に力を込めいく。

「・・・っあ・・ぐ・・・」

ぐっと両手に力を込めると里香は人形のようにぐったりとなった。

「澪、年上のお友達もできたな。」

澪。

ああ、俺の澪。

お前が望むなら、俺はいつだって・・・。

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