側室なんですけど、何故かお妃様に超愛されてます。
実は前世の記憶を持っていて、今世では超がつく稀少な魔術師でもあるんです。前者については誰にも話した事はないですが。
特に話す必要性はないし、それを話さなくても家族仲は良いし十分です。今世とは全く関係ない世界の話ですしね。
後者については家族だけは知っています。この世界ではどんな魔術でも使える人間は10人に1人と言われております。意外と多いです。仮に全世界で魔術師と呼べる存在が1000人いるとしたら、600人は蝋燭に火を灯せる等、初級魔術の使い手です。300人は中級でしょうか。このレベルになってくると、騎士──一騎当千の実力を持つ相手を2,3人相手にしても負けません。引き分けが大半なのと、その中でも初級よりが居たり上級よりが居たりと様々ですが。
そして90人は上級です。初級と中級の間にも言えますけど、その間には簡単には越えられない壁が存在しています。
さて、ここで残りの10人ですが、ここまでくると上級魔術師を50人相手にしても負けません。この中には時々、他の誰にも使えない魔術を使える者がいたりと、どの国でも垂涎の的でしょう。
さて、ここで私の事になりますが、私は一応10人の中の1人に属しています。この国──ルプスの貴族令嬢。公爵家の娘だったので内密にしつつも、魔術の腕を磨きメキメキと頭角を現していきました。兄様たちと姉様たちが中級と上級の魔術師という規格外のチート家系だったので、魔術の訓練が出来る設備は整っています。
魔術師組合の認識としては、私は上級に後1歩足りない中級魔術師ですね。
家族としては貴族の中で行き遅れても良いと、私がしたい事をさせてくれていたのですが、何故か陛下の側室候補に名が挙がり、別に良いかと事の成り行きを見守っていたら候補が決定になり、奥御殿に入る事になりました。
家族も私に異論がないならいっか。と言う意見だったので、あっという間でしたね。
そうそう。今更ですが、私の名前はユウナ・ディギエッド・ヴァルンファと申します。今は奥御殿の一番奥の広い部屋に側室として過ごしています。
魔術部屋も用意されており、感想としてはここまでしてもらっても良いのだろうかと思う程、私の欲求を満足させてくれる部屋を幾つも用意してくれて、いたせりつくせりです。
奥御殿というより、離れに新しく家を建ててもらって過ごしている、という感じですね。部屋の数は客室。寝室。魔術部屋のほかに寛げる部屋があり、私が実家から連れてきた傍使えである侍女2人の部屋もすぐ近くにあります。2人とも私よりも3歳年上の侍女で、小さい頃からお世話になっています。
客室から、直接2人の部屋に行けるようになっており、廊下に出なくてもお互いの部屋を行き来出来るので楽なんですよね。
それに私専用の庭まであって、本当に広いなぁ、と思います。側室は私以外にはまだ居ませんが、他の側室の方にもこれだけの部屋を与えるんでしょうか。そうなった時は奥御殿の改装の必要があります。
けれどこの分でいくと、側室は増えなさそうな気がします。奥御殿を散歩していたら、明らかに私の部屋と言うか屋敷と言って良いレベルに達しているのは、やはり私の部屋だけでした。
一応だけど、陛下との顔合わせは済んでいます。初日の夜は緊張していたんです。でも、一週間経っても奥御殿に陛下が訪れる気配は一切ありません。うーん。私の顔は好みじゃなかったかな。それならそれで良いんだけど。2年間お手つきがなければ問題なく実家に戻れます。
寧ろそっちの方がいい。
その時はそう思っていました。
私が奥御殿に来てから3週間が経ちました。概ね平和だったと思います。魔術部屋で存分に研究も出来たし。新しい魔法道具を開発するのが大好きなんです……が、一つ変化がありました。大きな変化です。
陛下はまだ来ていないけど、それは一切問題ないです。
全くない。寧ろこないでほしい。実家に戻るので。
来たのは王妃様でした。今日から3日前に事件は起こりました。部屋でのんびりと寛いでいると、突然の来客者が扉を勢いよく開けました。間抜けにもティーカップを右手に持って今にでも飲もうとした体勢のまま固まりました。珍客と言っていいのか迷い所ですが、まさかこの方が。何て思ったのが正直な感想です。
珍客は王妃様だったわけですが、陛下とは幼い頃から共に過ごし、寵妃として陛下に嫁いだのは当たり前の展開だったのでしょう。そんな方が、側室である私に会いに来た理由は牽制だろうかと色々と考えましたよ。流石に。
疑問は尽きる事はなかった私に、王妃様は眩しい程の金糸の髪を煌かせ、翳るほど長い睫毛の奥には淡い緑色の瞳。
それを一箇所で縛っていますが、どんな髪型でも王妃様の美しさを際立たせるだけですが、まとめてある装飾品は銀色に宝石を散りばめたものだった。ゴージャスです。私の拙い言葉では正確に表現できないのが残念です。
兎に角、何もかもが美しい。この人を妻としたのなら、他の女性はその辺りに生えている雑草扱いでも仕方ないと思える美貌。
女の私ですら、時間を忘れて見惚れてしまう。
声を発する事はなく、王妃様の美しさに見惚れていた私に、王妃様は微笑みを浮かべ、ただ一言だけ言葉を口にした。
さぁ、私と一緒にお茶を飲みましょう、と。
それから3日目。3時になると必ず王妃様が私の部屋を訪ねては一緒にお茶を楽しむ。
……。王妃様と側室の関係ってこんなんだっけか、と疑問を持ちます。私が呼んでいた月刊、大人の女たちではもっとドロドロとした関係だったはず。それなのに、このクリーンな関係というか何というか。
「今日のお菓子はスコーンなの。色々なクリームがあるから食べましょうね」
にっこりと惜しみなく綺麗な微笑を私へと向けてくれます。うぅ。眩しい…。
本当にこの笑みだけでお金をとれるんじゃないだろうか。それだけの価値がある微笑だと思います。無料で私に向けてくれていますが。
「ユウナはどんなお菓子が好き? あぁ、それも気になるけど、今日はどんな魔法道具を作ったのかしら?」
「好き嫌いはないのでどんなお菓子でも好きですが…。
今回はまだ作り途中です。疲労回復に効果のある道具を作っています。エルリナ様が陛下の心配をしていましたので…」
まぁ、簡単に言うとただの栄養ドリンクです。
「ユウナ。私の事はエルでいいのよ。様何てつけなくていいの。
けれどグレイの為に作ってくれているのね。何て羨ましい……そんなに気なんて使わなくて良いのよ。頑丈だけが取り得ですもの」
何気に酷い事を言っていたようなきがしますが、良いのでしょうか。
やけに喉が渇いていたので、紅茶をいただく。コクリ、と一口。あぁ、美味しいなぁ。2杯目はミルクティにしようかな。
王妃様が準備してくれるものは、私が持ってきたものよりも1ランク上のものになる。本当に美味しいんです。このスコーンもサクッとした食感。色とりどりのクリーム。ついつい手が伸びてしまう。今日も魔法道具のランニングマシンのお世話になりそうです。
「それではエル様で…」
そうそう。エルリナ様の呼び方ですが、これで妥協してくれないだろうか。が本音です。何といっても相手は王妃様だ。それなのに、呼び捨てにするっていうのはどうしても抵抗があります。
私がそう言えば、王妃様は考えるように指先を口元に当てる。視線は少し上を向けていて、考える素振りを見せた。それを急かさずに、私は紅茶をもう一口飲んだ。
1,2分だろうか。王妃様は仕方なさそうに頷くと。
「今はそれでいいわ」
──という言葉を返してくれる。
呼び捨ては全く諦めていないようだ……。
「それじゃあ今日も聞かせて。ユウナの昔話を」
「はい。昨日は5歳までの話が終わりましたね。次は…」
そして何故か、私の昔話を聞きたがる。
小さい頃からチート脳だったので話せる事は沢山ある。ただ、記憶が融合するまでの3歳ぐらいの時までは記憶が曖昧ですが。だから話したのは4歳ぐらいから。こうして人に話すと、小さい頃から色々とやっているなぁ……と、自分でも再確認中。
流石チート脳。本来だったら忘れていそうな記憶もバッチリと覚えている。そして昔から研究室に篭るようにアイテムを作るのが大好きなんだと、実感したり。そんな私の話を、エル様は喜んで聞いてくれる。
楽しいんだろうか。私の小さい頃の話なんて。
そうは思いつつも、今日も口を開く。嬉しそうに満面の笑顔で聞いてくれる王妃様の為に。
しかし……3時のおやつの時間を6時ぐらいまでやっていて良いのでしょうか。
疑問を抱く中、今日は2人目の珍客が訪れた。
あ……私の立場から考えると、珍客でも何でもなかったです。初日に来なかった時はこういうパターンもあるんだと驚いた程度で。
「まぁ……何しに来たのかしら!」
…何故怒る…ってそうですよね。ラブラブなんですね。それなのに側室の私に会いに来たら怒るのは当たりま…。
「ユウナには2年間無傷で居てもらって、私の筆頭侍女になってもらうんだから近付かないでって言いましたよね!!」
…ってそんな事まで考えていたんですか。エル様。
「貴方のそんなだらしのない表情を見たら、他の者が勘違いするでしょう。私の大切なユウナが勘違いされてしまいますわ!!」
…エル様の大切な旦那様ですよね……?
「エルリナばかりズルイぞ!! 俺だってユウナの話を聞きたいんだ!!!」
「それなら毎晩話してあげてるでしょ! それで満足しなさいよ!!」
……アレ? 何か雲行きがおかしくないでしょうか?
首を傾げながら成り行きを見守っていますが、陛下もエル様もこんな感じだったでしょうか??
「直接聞いても良いじゃないか!!」
「ユウナが穢れますから却下です!!」
………。ある意味、私の存在を忘れてくれているので、スコーンを楽しみながら2人を見てみる。何か妙に愛されている気がするんですが、気のせいでしょうか。
あぁ、でも。本当にスコーンが美味しいなぁ。ちょっと現実逃避気味に、呟いた。