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心を消して 一人目「幼馴染」  作者: 酒井 梓季
1.僕の周りの普通じゃない人たち
2/2

1.


僕の周囲は普通じゃない。


僕の知り合いは皆普通じゃない人ばかりだ。

普通とゆう定義はなくて曖昧なものだけれど。もし、そんなものがあったとしたら僕の周りに居る人達はその普通の中に入ることはないだろう。もしあの人たちが入ってしまうようなものならば、そんなものは普通じゃない。

 兎に角僕の周りに居る人達は何かしら人並み外れているのだ。

 例えば、今キッチンで僕の朝食を作ってくれている母。匕首町流(あいちまちる)。彼女は息子の僕が言うのもなんだけど絶世の美女である。確か今年で四十後半になる筈なのだが、全くそうは見えない。

「あら。灯流(とうる)起きてきたの。朝ごはんもう少しでできるから待っていて」

 実は母にはもう一つ普通じゃないところ(こっちの方がより普通じゃない)があるのだがそれを語るには朝学校に行くまでの時間では少し足りない。

 母についてはまた今度話そう。

 「はい。出来たわよ」

 母がほかほかとまだ湯気が立っているニラの玉子閉じをご飯と一緒に持ってくる。

 僕はそれを黙々と食べる。

 うん。いつも通り美味しい。卵も僕の好きな半熟になっているし。

皿の上のニラの玉子閉じはどんどん無くなっていく。皿が空になると僕は急いで出かける。

「行ってきます」

キッチンから行ってらっしゃいと母さんの声がする。

さあここからが大変だ。学校の予鈴が鳴るまであと十五分。ここから学校まで徒歩で二十五分。普通に歩いていたら絶対間に合わない。全力で走らないといけない。

このまちに引っ越してからというもの学校までの道を全力疾走するのが日課になっている。お陰で体力が随分付いて、始めよりも時間がかなり縮まった。

残り後七分というところで、見知った顔を見つける。僕の周りの普通じゃない人の一人。檸美桜(のうめさくら)、僕のかわいい幼馴染だ。

「さくらちゃんおはよう」

僕が小さい頃からの習慣でそう挨拶すると、さくらちゃんは僕をじっとりした目で睨んできた。

「あんたにさくらちゃんなんて呼ばれる筋合いは無いわ」

 敵意のある低い声でそんなことを言う。

 僕がこのまちに戻って来てからというものずっとこの調子だ。昔は天使の様なかわいい微笑みで挨拶してくれたのに。

 「そんな酷い事言わないでよ。幼馴染だろ――」

「あんたなんか幼馴染じゃないわ!あんたは私の知っている匕首灯流じゃない!昔の優しくてかっこよかった灯流くんじゃない!あんたは確かに変わってないわ。気持ち悪い風に。でも、あんたは灯流くんじゃない。偽物の偽善者の嘘吐きよ。だから私の本物の幼馴染と同じ呼び方で私を呼ばないで!」

 茶色いショートカットの髪を逆立てる様にして一気に捲し立てられる。

「早くどっかいって!」

僕は仕方なくさくらちゃんを抜かして走る。

 それにしても気持ち悪い風に変わってないか。酷い言われようだな。

 まあそれが彼女の人並み外れたところでもあるのだけれど。

人並み外れた直観力。それが彼女の普通じゃないところだ。

「ホント。困ったなー」

予鈴三分前に僕は校門に着くと走るのを止めた。

これから本鈴までに八分も余裕がある。

昇降口までのんびり歩いていると風紀委員が服装検査をしているのを見つけてしまった。僕は慌てて服装をチェックする。OK問題なし。

僕は安心して昇降口を潜った。

しかし―――

「ちょっとそこの二年。優しい先輩に挨拶なしで無視ってどういうことかな、匕首くん」

綺麗な黒髪を高い位置でポニーテールにした、美人風紀委員長がそこにいた。

僕の周りの普通じゃない人三人目。未来ヶ浜因(みらいがはまゆかり)先輩だ。

 「すみません先輩。おはようございます」

 僕は恭しく頭を下げる。

 「よろしい。今度から忘れたら本当に怒るからね」

 そう言って先輩は頬を膨らませた。

 そんな因先輩は学年首席である。

この高校にも特待生として入学している。

 因先輩は勉強ができるのだが、僕は先輩が遊び回っているところは見たことがあっても勉強しているところは一度も見たことがない。

一体いつ勉強しているのだろうか……謎だ。

「さあ匕首くん。服装検査に引っ掛かってないなら、ここにいつまでもいたら後が閊えるから、さっさと教室に行きなさい」

 そう言って先輩は僕の背中を押した。押された衝撃でよろけながらも僕は上履きに履き替えて教室に向かった。

僕が通う学校、県立早志乃(はやしの)高校は創立七周年という新設校だ。学校の外観は昔の洋風の屋敷を思わせる赤レンガの造りになっていて、窓枠やガラスにも洒落た模様が彫ってある。階段はなんと螺旋階段になっていて、高級そうな木でできている。なんでも有名な建築家が建てたそうで、細部に渡って拘りがみられる。

県立だというのにどこにこんなモノを造れる金があったのかわからないが、うちの学校はこの外観のお陰で一種の観光名所のようなものになってしまっている。町の者でさえ時々見物に来る程だ。田舎町の中でこの建物は完全に浮いている。

「先輩おはようございます……」

「っ……なんだ春見(かすみ)ちゃんか」

 背後から声を掛けられたから想像以上に驚いてしまった。

 彼女の名前は時計野春見(とけいのかすみ)ちゃん。僕の一つ下で一六歳だ。図書委員の彼女は見ての通り腰が低く、気弱だ。いつも何かに脅えている様な表情をしている。

「すいません……。先輩を驚かせようとした訳じゃないんです」

「誤らなくてもいいよ。少しだけ驚いただけだから」

 僕はおろおろとしている春見ちゃんを宥めるように言う

 そんな彼女も僕の周りの普通じゃない人間の一人だ。






執筆中


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