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4話:惨殺結果

更新率上昇!

アクセス数が少なすぎて笑いました……;

「ちょろーっといいかな?」

こちらの世界に来てから何不自由なく一日を過ごし、俺が与えられた部屋で休んでいる時だった。

ドアが少しだけ開かれ、灯花さんがそこから顔をのぞかせていた。

「なんですか?」

俺は腰をかけていたベットから立ちあがり、ドアの方へと近づいて行く。

「あのさ、ちょっと重大なことが起きたんだ。説明するからホールに集まってくれる?」

「分かりました。……あの、怜那は?」

「先に行ってるよ。私は颯鬼んを呼んでくるから、行ってて」

そう促されて俺は部屋から出る。

重大な出来事、それは一体何だのだろうか。もしかして、また新たな敵が現れた、とか。

いやいや、赫逢騎士領団は全滅したはずだし、廻折研究室も無くなったはずだ。 だから他に増える心配事の要素なんて見当たらない。

しかし、この世界は非情だと誰かが言っていた。

平和などで丸く収まる世界ではないのだと。

まず、世界がどこまで続いているのかさえ分かっていない。地球程度なのか、それとももっと大きな世界なのか。俺はまだ、世界のことを詳しく知らないでいた。

踏みしめたことのある大地など、群青の雌鳥のアジトやリツカ帝国。廻折研究室に赫逢騎士領団の領地ぐらいしかないのだ。

転々としている土地だったが、それらどうしの距離は分からない。この世界の移動方法というのは、移動用魔方陣リーブを使うことで成り立っているのだから、分からないのも当然だ。

で、あれば。世界を広げに行っている者たちはどのような心持ちで行動しているのであろうか。

今まで見えている土地の地図は出来ている。しかし、その先は未知。

もしかしたら同じ場所を散策しているのかもしれない。そんな思いを抱いたりもするのだろうか。

色々なことをゴニャゴニャと考えていると、いつの間にかホールにたどり着いていた。

怜那の姿を探すが、見当たらない。

周りの人たちは背が高く、埋もれてしまっているのかもしれない。

背伸びをして見渡す。やはり見当たらない。

そんな事を繰り返しているうちに、大きな声が聞こえてきた。頭上のスピーカーからだ。

≪皆、静まれ。私は群青の雌鳥最高指揮官の咏錠祀えいじょうまつりだ。これから皆に伝えることは最重要情報だ、くれぐれも聞き逃さぬよう≫

凛とした透き通る声がスピーカーから流れてきた。群青の雌鳥最高指揮官ということは灯花さんより偉い人なのだろう。

≪世界を広げに行っていた者たちが、惨殺された≫

ざわざわと騒ぎが大きくなる。スピーカーからの冷たい声に、俺は唖然としていた。

平和だと思ってきた世界が一瞬にして崩れたのを知った。

≪静まれ。 敵は不明、予想だが見ぬ世界の新たな組織かもしれん≫

咏錠指揮官の言いたいことは大体理解できた。

ここに群青の雌鳥が存在するように、この世界の裏側や近くに他の集団が存在していてもおかしくはないのだ。たまたま赫逢騎士領団、廻折研究室、リツカ帝国の存在を知っていただけで、他に勢力が存在していてもおかしくはないのだ。

≪争いの発端はこちらが発見した新たなる神殿、それの捜索妨害だ。おそらく相手方も神殿を調べようと試みていたのであろう。 だが、先行者がいてつい殺してしまった、と。だが私は許せない≫

少しだけ、ほんの少しだけ熱を帯びたような声がスピーカーから漏れる。

≪敵の集団の名は不明。しかし、お前たちに告げる。 敵討ちをしようとは考えるな、しかし、もし向こう側が近付いてきたとなれば応戦せよ。以上だ≫

ブツリ、と音声が途絶え、人の会話は大きくなっていく。

新勢力が現れた。それらに仲間を殺された。

また、何かが始まろうとしていた。

「よーぉ、何辛気臭い面してんだ」

向こう側から歩いてきたのは狩暗颯鬼であった。彼はいつも通りの反応を示していた。

「これでまた暴れられるわけだ。幸い、向こうまでの移動用魔法陣リーブは途中まで完成しているらしいしな」

狩暗の言葉に、俺は何も言えなかった。

「ふん、魔眼イビル・アイズの持ち主がそんな調子でどうすんだ。 お前は敵討ちとして出た方がいいんじゃねぇのか」

先ほどの話など無かったかのように平然と言ってのける狩暗。

戦う理由というものを与えにきたのだろうか。

「まぁ、とっくに、お前さんの相棒には火がついちまってるみてぇだけどな」

狩暗は意味もなく肩をすくめて見せ、颯爽と消えていった。

今のは、怜那のことだったのだろうか。

振り返ってみるが、そこに怜那はいなかった。代わりに灯花さんがそこに居て、俺を見るやにっこりと微笑み返し、近づいてきた。

「まつりんも相当怒ってるようだね~。 っていうか、あの放送じゃあ『敵討ちだっ!』って言っているようなものだからね」

「灯花さん……咏錠指揮官と知り合いなんですか?」

ふっ、と小さく笑って灯花さんは応えた。

「そうだよ。 私とまつりんは一緒にこの地に来て、一緒に群青の雌鳥を立ち上げたんだ。 まぁ、そこにはかつて廻折研究室の室長もいたわけだけれども……それはいいか」

灯花さんの今の言葉によると、群青の雌鳥が存在していなかったころにこの地にいて、それでいて集団を立ち上げたということだ。

群青の雌鳥は確認されている集団の中で、一番最古ものだと言っていた。

であれば、灯花さんはとても偉い人なのではないだろうか。 結成時のメンバーというものは原点たるものなので、普通に考えればこんな中心部ではない末端のような支部にいるであろうか。いや、いないだろう。

では、何故灯花さんは中心部に居ないのだろう。

「考えてること、分かるよ」

灯花さんは俺の目を見てそう言った。心なしか、声に元気が無い気がした。

「私はね、人の上に立てるような人間じゃなかった。 だからこうして、責任逃れのできるような小さな支部で過ごしているんだ。 まつりんからしてみたら相当腹が立っているだろうね。だって設立時のメンバーの一人だよ? その人間がこうして下の方でのうのうと動いている。支えの一つでも欲しいくらいなのにね」

ボッ、と灯花さんは火を自分の指の先に灯したり消したりを繰り返している。

その火を見つめる目が、おかしかった。

まるで魔眼イビル・アイズ騒動があった時のような無機質で全てを反射しているような目。

恐ろしく無感情なその目がそこにあった。

「ま、とりあえず今は新たな敵について考えることにしようか。っと、れーちゃんはどこへ行ったのかな?」

気が付くと灯花さんはいつも通りの目で、いつも通りの調子に戻っていた。

「あぁ、さっきから俺も探しているんですけど……、どこへ行ったのやら」

「颯鬼んは見たって言ってたんだけどねー」

二人して辺りを見回すが、小さな怜那の姿は見つからない。

次第に放送の終わった影響か、人が疎らになっていく。

「あ、あんたっ! どこに居たのよ!」

そんな声が聞こえてきたかと思うと、刀の鞘が飛んできた。

「あぶなっ!」

首を精一杯捻ってそれを避けると、怜那を睨みつける。

「馬鹿か! 当たったら大けがするだろうが!」

「え、なんのこと……?」

「とぼけるつもりかお前は、鞘が……って」

刀を揺らして近づいてくる怜那の腰には、しっかりと鞘があった。

後ろを振り向くと、転がっているはずの鞘が無い。

頭の中が混乱しそうになるのを抑え、思考を張り巡らせる。

俺が見た鞘は何だったのか。もしかしたら幻覚、だったのかもしれない。 それにしてはやけにリアルだった気がする。ちゃんと存在感もそこにあったし、切り裂く空気も感じられた。

だが、現に怜那はしっかりと鞘を持っている。後ろには転がっているはずの鞘が無い。

これは、どういうことだ。

「あんた頭おかしくなったんじゃないの?」

怜那のジト目に射抜かれながらも、俺は動揺を隠せずにいた。

魔眼イビル・アイズが何らかの誤作動を起こしたのか。もしかしたらそうかもしれないし、そうでないかもしれない。

詳しいことは分からないが、ここは慎重にならざるを得なかった。

「頭はおかしくはなっていない。それより、今からどう行動するんだ?」

会話を無理矢理にでも先に押し進める。

「ふん、決まってるわよ。とりあえずその新しい神殿とやらに突撃よ」

「ちょっとれーちゃん。そんな簡単に言うけどね、まだ移動用魔方陣リーブは使えないんだよ? 正確な位置が分からないと使いようがないんだから」

どうやら魔方陣もそんなに万能ではないらしかった。しっかりと手順を踏むからこそ利用できるものなのだ。そこのところは現代の科学に似たような物を感じられた。

「うぐ……。仕方ないですね。どれくらいかかるんですか、灯花さん」

「そうだね~~。 えっと、軽く一週間はかかるんじゃないかな」

「一週間……?」

それはこちらの世界での一週間なのだろうか?

「あ、時間をこっちに合わせたら約20日って所だけどね」

さらっと言ってのける灯花さん。20日間も何もせずに待機ということなのだろうか。

「だからさ、一旦あっちに帰った方がいいよ。んで、一週間経ったらまたおいで」

ひらひらと手を振る灯花さんは怪しい笑みを浮かべていた。

「そう言えば、れいやんの通行石が無くなったんだったよね。しかたないなぁ、これはれーちゃんも帰るしかないよね?」

「え、え。灯花さん……?」

ぐいぐいと俺の背を押して怜那の元へと近づけていく。

そしてポンっと強めに背を押された感覚が伝わる。

危ないですよ─────と声に出す前に辺りは歪んだ銀世界に包まれてて、怜那の素っ頓狂な声だけが俺の耳に残っていた。


強引に。そう、強引に俺と怜那は現実世界に戻された。














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