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3話:目的変化

更新率上昇のために頑張ってます。


『久しぶりのこちらの世界はどうだい? 少年』

真っ暗な異空間から放出された赫逢騎士領団階位一のトモは久しぶりの赤い空と黒い雲を堪能していた。これでこのどこからか響いてくる女性の声が無かったら最高だったのだが。

どうやらそうもいかないらしい。

「どこにいる。いい加減姿を現せ」

「ここに居るじゃないか」

自分のすぐ隣から声が聞こえてきた。

トモは驚いて身を引くが、女性は笑みをたたえたままその場を動いていなかった。

「いつの間に」

「いや、最初からいたと思うけどねぇ。 少年が気が付かなかっただけで。 そんなことより、私の質問に答えなよ」

この質問、というのは最初の問いのことだろうか。それとも異空間内で訊いたものだろうか。

「……」

「私についてくる気はないか、ということなんだけどねぇ。 でも、もうあそこから出しちゃったから軍門に下ってもらうしかないんだけどねぇ」

「お前は、何をしようとしている?」

「何って……、ただ退屈を紛らわそうとだよ」

良く見ると、女性の恰好は奇怪だった。

黒の水着、ビキニのような物を着ているのだが、その上から赤のコートを羽織っている。 肌は白く、癖の強い黒髪は腰のあたりまで伸ばしていた。 顔はどこかで見たことあるような気がする。 どことなく、自分を葬ろうとしていたキリカに似ていなくもない。

「お前は………」

「お前、じゃない。 私の名はリム」

「ふん、……ではリム。お前は先ほど言ったな、赫逢騎士領団のメンバーを生き返らせられると」

トモは彼女のことを少し警戒しながらも問う。

しかし、今の自分ではこの女にさえ敵わない可能性がある。なにしろ、キリカに能力を制限されてしまってるのだ。

だから、自分の出来る範囲での勝利を頭の中にシュミレートし、自分の立ち位置を考える。

「そう、言ったねぇ。 でも、その前に少年、私のことを信じていないんじゃないかね」

「………っ」

「間合いを測る、目線の動きを辿る、筋肉の動きを見る。流石赫逢騎士領団階位一って所かね、相手を見極めようとするその姿勢は素晴らしいものだよ」

バレていた。それが指す意味はすなわち、自分以上の力の持ち主だということ。

間違いなく勝てない、能力が規制されていなかったとして、それでも分からない。確実に勝てるとまでは言いきれない。

「ま、いいんだけどねぇ。 そう言えば少年、能力を規制されているようだねぇ、ついでといっちゃあ何だけど解いてあげるよ」

リムが空中で何かを描くと、そこには幾何学的な魔方陣が現れ、四方に光が散った。

目を開けられないほどの閃光。トモは無意識的に目を閉じてしまっていた。

だんだんと光が弱まって行き、目が開けられる状態になった頃にはもう自分の中の枷が外れていた。

能力が戻ったのだ。自分自身ではどうにもできなかったキリカの呪いが解けているのだ。

このリムという女、一体何者なのか。

トモは少し危機感を抱くと共に、不思議な高揚感をおぼえていた。

「ふうん、その目。 いいね、少年は恰好いいよ。 とりあえずついてきな、お仲間たちが待ってるよ」

そういうとリムは踵を返してこの何もない赤の砂漠の中を進んでいく。

遠くでは竜巻が発生し、落雷が鳴り響いている。

そんなものには気にも留めず歩いて行くリムの背を追ってトモも移動し始めた。


いつの間にかぽっかりと空いた空間の中にリムとトモはいた。

そこには肉片や血がべっとりと付着している立方体が置かれていた。いや、付着しているのではい。透明な立方体の中に詰め込まれているのだ。

リムはそれらを手を使わずに外へ放り出し、呪文のようなものを唱える。

「───────。」

みるみるうちに肉片たちが光を帯び、それぞれが終結して7つの球体に別れる。

ドクン、と脈を打ったその球体はバックリと真ん中から割れ、粘着質のある液体とともに中から見なれた仲間たちが生まれて来た。

「………ハッハァ、なんだって俺はこんなところに……。キリカはどうした」

両頬にキズのある男、赫逢騎士領団階位三のデリィがゆっくりと立ち上がりそうつぶやいた。

「……? 俺は死んだはずじゃあ……」

デリィは辺りを見渡す。

彼の目線の先には笑みをたたえる奇怪な服装をした女性と、トモが立っていた。

「ハッハァ……お前、赫逢騎士領団階位一。なるほど、流石一位様ってわけか。キリカから生き延びるなんてなぁ。 そんでもって次は俺達を生き返らせる、か」

「おはよう、デリィ」

「ハッハァ……。すげえな、俺は結局三位どまりってワケだ、しっかし。二位も呆気なく死ぬもんだな」

「……? コウはあのころリツカ帝国に居た。 あちらの世界からこちらの世界に来るときに不運が重なってな。 キリカとは鉢合わせていないはずだが」

「……? 何を言ってんだ、お前は。ハッハァ、確かにあそこでコウとやらは死んでいたじゃねぇか」

「なるほど、お前は……。いや、これは本人が話すことだな。いや、エキにでも訊いてみるといい」

軽くデリィと会話をかわしてトモは、自分のさらに上に位置する者の元へと近づいて行った。

その者は今ちょうど生まれ落ちたところで、先ほどのデリィと同じように不思議そうに辺りを見渡していた。

「お久しぶりです、最上階位ランクゼロ。 御気分はいかがですか」

「……最悪だ、といいたところだが。生き返ったのか、最高だ」

彼は低い声でそう答えた。 最上階位でさえあしらったキリカは本当に巨大だったのだとトモは改めて理解する。

それから次々と赫逢騎士領団の面々が生き返る。足りないのは灯花と、コウと、そしてキリカだけだった。

元赫逢騎士領団のメンバーは今や8名しかいなくなってしまった。

コウの所在はいまだ不明だった。

「ふうん、十人いなかったんだねぇ。色々と大変じゃないか」

「貴様に心配される筋合いはない」

「貴様じゃない、っていったろ?」

リムが冷たい声を放ったと同時に遠くで立っていた赫逢騎士領団階位十のブレンが悲鳴をあげた。

小さい身体を地面にたたきつけ、奇声をあげる。

目はだんだんと充血して行き、呼吸が乱れていく。

「ハッハァ、何興奮してんだブレン、お前は─────────」

ドパン、と彼の身体が破裂し、近くに居たデリィの顔には鮮血が飛び散る。

「ハッ……ハァ、何だ、いきなり」

トモが振り返ると、元のような笑みをたたえたリムが腕を組んでいた。

「あんまり私を怒らせないでほしいねぇ。 これで赫逢騎士領団は7人になったじゃないか」

「………」

本気で言っているのか冗談で言っているのかどちらともに取れるような口調でリムはそう告げた。

顔は笑っている。しかし、本心は分からない。

「……みんな、聞いてくれ」

トモは決心したように息を吐き、この場に居る赫逢騎士領団のメンバーに意識を促した。

最上階位だけは敬意を込めて。

「ここに居るリムが、みんなを生き返らせた。 見ての通りだ。 して、彼女には目的があるらしい」

ここに来るまでに何度か聞かされていた、俺達の目的とはちょっと違った、どちらかというと廻折研究室に近い目的。

「『第二の鍵』を探し求めているらしい。それが条件だった、お前たちを生き返らせるための」

「ハッハァ、なるほどな。 『鍵』ねぇ」

「俺は赫逢騎士領団の再建を求めた、リムは『第二の鍵』を求めた。条件は満たされた。今!」

トモは一度辺りを見渡してから、自分に言い聞かせるように、周りに言い聞かせるように宣言した。

「赫逢騎士領団は復活した! そして、目的は『第二の鍵』の探索に変わった!」

誰もが息を吞む中。最上階位は静かに目を閉じていた。


「今ここから、行動を開始するっ!」




トモの仰々しい宣言の後、デリィは気になったことを訊ねるべくエキのもとへと歩み寄った。

いつも通り、エキは壁に向かって何事かを呟いている。例の独り言である。

「おい、エキ。 二位のことだが」

「……ん? あぁ、デリィか。なんだ、俺は今忙しいんだ。殺そうか?」

「ハッハ、何度も言うが出来るのであればなぁ。それよりコウって奴のことだ」

「……そうか、お前は気が付かなかったのか。アレは、俺の幻影だった」

「どういうことだ」

エキは壁から目を離し、デリィに向かって直接話しかけた。

「そのまんまの意味だ。あの時コウはリツカ帝国に居た。しかし、会議に出れないのは些か問題があるわけだ。赫逢騎士領団階位二ならば当然、示しがつかないからな。 そこで俺はある頼まれごとをした」

「……」

「その頼まれごととは、俺の半身をコウに擬態・・・・・・・・・・させること・・・・・

「半身を……かぁ?」

デリィは訳が分からない、と困惑した表情をした。それに対してエキは面白そうに顔をゆがめた。

「俺の能力は有体保存リアルディヴィジョン。それ相応のモノを、いやほとんどなんでも作り出すことができる。 人を作ればもちろんそれは意思を持っているし、能力だって持っている。だから、あの時のコウは本物に限りなく近い本物。いや、本体だったんだ。リツカ帝国に居たコウも、キリカに殺されたコウも、どちらも本物だったんだよ」

「ハッハ、それじゃあ二位はキリカにも瞬殺される程度ってことかぁ?」

「それが一概にそうとも言えない、キリカに殺された方のコウは確かにコウだった、リツカ帝国に居るコウとは同じ記憶を持っているが、生まれた瞬間からはコウという人物の歴史が二分されていたものだ。だから、二人は一つではなく、バラバラの意識を持った別人であり、しかし、一つの本体であった」

エキは楽しそうに話す。

壁に手を当て、笑みをこぼしながらも話し続ける。

「俺は驚愕したのは、別々の意思を持っているのにもかかわらず、向こう側が生き残ればいいと考え、逃げようともせず反撃もせずただ殺されに行った精神だ」

「ハッハァ……、じゃあ何か。自分は死んでもコウという存在はあり続けるから関係ないと思えたのか、アイツは。自分の歴史は途絶えるのに、自分は別の存在だというのに死んだって言うのかよ。狂ってるな」

「本物であり、かつ別精神を持ち合わせているのにもかかわらず、自分の優位になるよう行動した。つまりは能力を隠して自分が不利になるような情報を消した。本人は死ぬのに・・・・・・・、だ」

デリィは思った。

もし、自分の他に本体が存在していたとして。俺は今の意識があるにも関わらず、読めない本当の自分のために死ねるのだろうか。

死んだあとは自分には戻らない。無だ。

その後本当の自分はどう行動するのかも知らずに死ねるのか。いや、ここでは本当の自分という言い方もおかしい。ある意味他人である者のために死ねるのか。

無理だった。

少なくともデリィにはその考えは持てなかった。

「ハッハァ、確かにあいつの能力は見ていなかったなぁ」

「もっとも、俺の能力には欠陥があってね」

「……?」

勝手に話し始めるエキに向かってデリィは不思議そうな顔をした。

「他人は一人につき一人までしか作れないんだよ」


その言葉が何を意味して、何を指しているのかがデリィには理解できなかった。















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