1話:再生
予定より2日遅れて投稿となってしまいました;
あらすじを考えるのにえらく時間がかかってしまいまして…
それでいてこのあらすじの出来って……とか言うのはやめてください(笑)
さて、記念すべき第一話です。
これからもみなさんよろしくお願いします!
一週間に一回程度の更新率になると思います。
第一章はこちらです。
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この世界でどれだけの人が鏡の向こうにもう一つの世界が広がっていると知っているのだろうか。
少なくとも俺は知っている。そしてそこのソファーに我が家かのように居座る少女も知っている。
というか、俺はこの少女によって無理矢理知らされたと言った方が語弊は無いだろう。
半年前、俺は向こうの世界。いや、鏡の別天地でとんでもない経験をした。
四つの組織を巻き込んだ戦争、廻折研究室との直接対決、そしてキリカとの死闘。
あんなことにはもう巻き込まれたくないと思いつつ、あちらの世界のことが気になっている自分がいた。
能力、そんなものが存在する世界なのだ。
肉体を強化する能力、炎を従える能力、見たものを消滅させる能力。
一人一人にさまざまな力が与えられ、それを行使して生きていく世界。
そんなSFチックな世界に住んでいる人々がいるのだ。例えば、俺や怜那の恩師にあたる灯花さん。
俺が大戦から戻ってきてからあちらの世界に顔を出していないので、同様に灯花さんとも会っていないことになる。お世話になったのだから挨拶ぐらいは行かないといけないと思ってはいるのだが。
そのほかに俺は気になることがあった。
あちらの世界で繋がった姉貴との電話。それからというものの、姉貴とは連絡も取れず会うこともなく音信不通になっていた。
何かが引っかかるのだ。俺のあまり冴えない勘だが、今回は何かおかしな感じはする。
あちらの世界で会えるとは思ってはいない。しかし、あんなにも大きな騒ぎになった中で姉貴はどうしてそんなにも冷静でいられたのだろうか。
それに、姉貴があちらの世界に行く意味が分からない。何か明確な理由があったのだろうか、それだからと言って現実の仕事を放ってまで行かなければならない事柄があったのだろうか。
俺はあちらの世界でやるべきことを見つけていた。
最初はあんなにも嫌がっていたのに、俺はいつの間にか魅かれてしまっている。
「なぁ、怜那」
ソファーの上でいまだにごろごろしている少女に声をかける。
黒いストレートの髪に、どこのものか分からない緑を基調とした制服。首には通行石をペンダントのようにしてかけている。
もちろん、俺をあっちの世界に引き込んだ本人である。
それはそうと、俺の通行石がいつの間にか紛失しているのは何故なのだろうか。
「な、何よ! いきなり……」
俺のかけた言葉に何故か微妙な返事をする怜那。 だばだばとソファーから立ちあがり、俺に向き合う。
「えーっとさ、久しぶりにあっちの世界に行かない……のか?」
「………なんで、行きたいの?」
「それは……」
先ほどの理由を並べるだけで良いのだが、俺は何故だかそれを言い出せなかった。
「ふん、まぁいいけどね。じゃ、先行ってるわよ」
「いやいやお前、一緒に行かないとまたバラバラになるだろ?」
俺は怜那の肩を掴み止めるが、すぐに振り払われる。
「なになになによ! いいいきなりなんなの!」
「別に何もしていなだろ!? てか、最近お前おかしくないか?」
そうなのだ。最近口火を切る時も何かの都合で怜那に触る時もこいつはよくわからないリアクションをする。前より俺に対しての変態として見る目が強くなった気がする。
何度も言うが、俺は変態でもロリコンでもないんだけどなぁ………。
「別にっ! なんでもないけど………。さ、行くわよ、手!」
「へいへい、すんません」
俺は軽く謝りながら鏡を見ないよう注意しつつ、その小さな手に俺の手を重ねる。
そしてまた、歪む空間を通り抜けてあちらの世界へ向かう。
瞬く間に廃虚と化したこの建物は元は研究室なるものだった。
しかし、今はかろうじて残ったステンドグラスの破片のみが原形をとどめていた。
廻折研究室室長はかつて右腕があったはずの位置を眺め溜息をついた。
「ふぅ。まさかキリカの白銀の閃光が僕に対しても有効だったなんてね」
パリン、とステンドグラスの欠片を踏み砕く。
室長は無くなった天井を見上げ、赤く染まった空を眺める。 雲は真っ黒に、風は吹かない。
「それにしても、……君がいなかったら僕は死んでいたね。 本当に助かったよ星速見君」
星速見と呼ばれた少年は室長の後方、瓦礫の積み重なった山の上でどこか遠くを見ていた。
「みんな、みんな死んでしまった。 神無月、姫貝塚、鳥赤羽、大海原、風見鶏、栗ヶ原……他のみんなもキリカに消されてしまった。死体も無くなるほどに」
その口からはぶつぶつと独り言のように言葉をもらす。
それに室長は適当に相槌を打つ。それから星速見の方へ振り返り。
「でもね、世界を広げに行っている他のみんながいるじゃないか。君だって途中で帰ってきたんだろう? だからこそこうして私だって生きている。 とりあえずね、世界を広げに行っている数人のうちの半分は呼び戻してほしいな。やりたいことが出来たからね」
くっくっく、と込み上がる笑いをなるべく抑えるように室長は笑う。
その姿を星速見は見て、いつも通りだなと思うのだった。
暗闇の中にいた。
これを暗闇と言っていいのか、それすらも分からないくらいの世界だった。
キリカに次元ごと引き裂かれ、赫逢騎士領団唯一の生き残りであろうトモは次元の狭間に居た。
能力の一部を制限されるというオマケつきで、だ。
あれほど強大な敵に出会ったことは今までになかった。それゆえに対応が遅れ、こんなありさまである。
しかし、ここから出られたからと言って俺は何をすることがあるのだろうか。
赫逢騎士領団は自分以外全滅。帰る場所すらない俺はこれから何をすべきなのだろうか。
そんな考えが頭の中を回る、それゆえにここから出る事さえも放棄していた。
「………」
『おんやぁ? こんな辺鄙なところに人間がいるよ』
頭の中に直接語りかけるように女性の声が聞こえた。
この次元の狭間の中で始めて自分以外の声を聞いた。
「誰か、いるのか」
『あらあら、しかも生きてるのかい。 こいつは大したもんだ、ふむ。顔も悪くない』
「俺の質問に答えろ」
『しかも高圧的と来た。……あんた、面白そうだ』
「……」
『そんな目をするもんじゃないよ。まるで魔眼のようじゃないか。まぁ、いい。私に付いてくる気はあるかい?』
「ここから出られてなお且つ目的が見つかるのならな」
『それなら問題はないよ。きっと、ここから出たら面白いことばっかりだよ。例えば、赫逢騎士領団のみんなを生き返らせたり、……とかね?』
「何だと?」
女性の声はそれきり聞こえなくなった。
そんな事よりも、トモは先ほどの話の続きが聞きたかった。あの声の主は何を考えているのか。
立ち上がり、辺りを見渡す。やはり、闇が広がっているだけで、何も変わらない。
「おい! 返事をしろ。 さっきのはどういうこと意味だ!?」
瞬間、彼のいた空間はひび割れて消失した。
「あー、どうしようかな……」
音城朝陽はモニターに囲まれた小さな部屋の中でそうつぶやいた。
この狭い部屋には4人もの人が詰まっており、人口密度がやや高めだった。
畳でいえば六畳半ほどのスペース。そんななかで朝陽は一人のびのびと足を延ばしていた。
「先ほどからうるさいですね。何をそんなにも悩んでいるのですか」
以外にも反応してくれたのは鳥輪だった。彼女は珍しく手を動かしていなかった。
彼女の目の前にあるのは一冊の本。ただ、それは特殊なもので、彼女が開いているページには何も書いてなく、真っ白である。
これは、彼女が書き足すため、白紙になっているのである。
「いやね、弟がこっちの世界に来たって前言ったじゃん? そのことについてなんだけどー」
「ふぅ。あなたらしくもない。いつものように適当な調子で会いに行けばいいのでは? 弟さんだってこちらの世界のことを理解しているからこそこちらに居るのでしょう?」
「だけどさー。………なんか気が進まないんだよね」
理由は分からなかった。ただ何故か玲夜には会いたくないのだ。
黙ってこんなことをしていたから? それとも自分のこのキャラでこんなSFチックな世界に染まっているから?
どちらの理由でもなさそうだった。
結果、おそらく私は玲夜に会いには行かないだろう。
もしかしたら、何事かを言われるのが怖かっただけかもしれない。