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平凡な転生ヒロインはヒロイン脱却を目指す

作者: 猫野沙子
掲載日:2026/04/25

 静かなトーンの物語です。ザマァはありません。

 平凡な私が、ヒロインに転生してしまった。

 多分、生まれた時から記憶があったのだろう。なんの違和感もなく「私、転生してるわ」って気が付いた。

 ただ、転生した世界が問題だった。好きだった恋愛小説。よくある魔法もある中世っぽい世界で、王太子と身分違いの恋を実らせる男爵令嬢の物語。

 何がよかったって自分にはない、美貌、頭の良さ、そして王太子様と恋愛しちゃう度胸。王太子もまっすぐで清廉でかっこよかったし、推しカップルだった。

 そのヒロインが私。名前はリリアーナ・ブランシュ。名前まで可愛いヒロイン。家族からはリリって呼ばれる。名前負けしてる気がする。

 平凡な一般人で、気が弱くて目立たないように生きてきた前世。そして、ヒロインなのにその性格を受け継いでいる······。

「無理。王太子妃なんて、ましてゆくゆくは王妃だなんてぜーったいに、無理ムリむりぃ!」

 私は頭を抱えた。波風を立てずに目立たず生きていきたい。いくら王太子がかっこよくても無理。王太子の婚約者、侯爵令嬢だよね。うちが潰されちゃう。必死にどうしようか悩んでいるときに、ふと気がついた。

「そう言えば、幼いころ出会ってるんだよね、アルベルト様と」

 よし、ボイコットだ。学園に通ってアルベルト様と仲良くなると、昔出会ってたことが判明する。そして運命を感じる流れに。

 アルベルト様は側近候補の公爵家三男と城下に出て、庶民の生活を垣間見る。護衛がついてたんだけど、はぐれる。そこへヒロイン登場。困ってる2人に手を差し伸べる流れ。けど、すぐに護衛が見つけてくれるので、ほんの少しだけ一緒に過ごした思い出だけが残る。

 だから、私は安心してボイコットできる。日付は分からないけど、出会う場所と季節は分かる。私はそこを徹底的に避けた。

 けど、気にはなるから、こっそり影から覗くことはしていた。そんなある日、アルベルト様と公爵家三男がいた。護衛とはぐれて不安そうな2人に私の心は揺れた。けど、少しするとハニーブロンドの女の子が2人に声をかけていた。

(新ヒロイン誕生!やったぁ!!)

と心の中で雄たけびを上げた。


 月日は流れ、学園に入学した。ピンクブロンドの髪は目立つから染めたかったけど、染めるものがこの世界では未発達で、男爵家とは言え令嬢の私が使えるものではなかった。姿を変える魔法もあるけど、アングラな方々御用達。これも無理だった。

 せめてもの抵抗でおさげにしている。地味っ子=おさげ。眼鏡があれば完ぺきだけど、目はあいにくと良かった。

 学園生活が始まると、薄々気づいてたけどヒロイン頭脳はかなり優秀だった。理解度がすごい。前世なら欲しかった頭の良さだけど、こっちの世界なら普通の脳みそが欲しかった。



 リリアーナ·ブランシュのうわさはよく聞く。美しい男爵令嬢で、頭が良い。そして控えめな性格。下位貴族の令息たちの間では、おさげにした清楚さがよく話題になっていた。

 俺は同じクラスだから、遠慮なく眺めることはできる。けれど、彼女の友人であるマリア・スコティ子爵令嬢ががっちりガードしているため、話しかけたことはない。

 彼女は控えめというか、目立つのが苦手なようだ。教師にさされて素晴らしい回答をしても、ちょっと顔を赤らめて、俯く癖がある。

 この前、スコティ嬢のガードをかいくぐって話しかけてくる令息の褒め言葉に困惑しているのを見かけた。その令息は伯爵家の令息で、かなり強引に近づいていた。

 しかし、彼女も彼女の友人も俺も下位貴族。伯爵令息に割ってはいれない。

 ハラハラして見ていると、通りがかった王太子殿下の婚約者であるエレオノーラ・グランツ侯爵令嬢が伯爵令息の顔を真っすぐ見つめ、すぐに何でもないように去っていった。

 それに気づいた伯爵令息が、急に何か言って去っていった。ブランシュ嬢は顔を青くしていたが、スコティ嬢が慰めていた。俺にできることはなく、そっとその場を離れた。



 今日は天気が良いから中庭で食べましょうとマリーに誘われるまま、気持ち良い青空のもとおべんとうを食べ、そのままのんびりと他愛のない話をしていた。

 マリーは子爵令嬢で、しっかり者。時々うっかりな私をフォローしたりしてくれる精神的なお姉ちゃんである。

「······ねぇ、リリー。あれって最近噂の」

 マリーが小声で言って、目線でそっと指し示した先には、ハニーブロンドの豊かな髪のエミリア嬢とアルベルト様が連れ立って楽しげに歩いている姿があった。

(ちゃんとヒロインしてくれてるのね)

「目撃しちゃったね······」

私は内心ホッとしつつ、当たり障りなく言う。あの日、やっぱり自分で出会えばよかったと後悔したこともあったけど、これでよかったんだと思う。だって、婚約者がいる方と仲良くなったら白い目で見られちゃう。私には耐えられない。

 マリーと私はどちらともなくベンチを立って、彼らとは反対方向に歩き出した。ふと、廊下の窓に目を留めると、悲しげに目を伏せたグランツ侯爵令嬢が目に入った。

(あっ······)

 彼女が私の視線に気づいたかは分からない。彼女は静かに綺麗に伸ばした背を向けて、凛とした姿で去っていった。

 私がもしも王太子様と出会ってたら。きっと全力で避けてた。そうしたら、彼女が傷つくことはなかったはず。私が逃げたばかりに侯爵令嬢が傷ついてると思うと、私の胸はずきりと痛んだ。


 最初の長期休暇と試験日が近づいていた。どこか浮ついた雰囲気と試験への緊張とがないまぜになった空気のクラス。

 私とマリーは互いの領地に遊びにいく約束をしていた。正直に言って浮かれているが、授業は真面目に受けて、ノートもしっかり取っている。

 寮の部屋に戻ると、授業を思い出しながらノートを読む。ヒロインの脳みそは素晴らしすぎるから、本気では勉強しない。そこそこの成績を目指すのだ。

 そして、試験当日。

 問題用紙を前に、私は頭を抱えていた。

(ど、どうしよう?全部分かる······。恐るべしヒロイン頭脳!)

 私はわざと未回答をするかどうか悩んだ末、問題を作ってくれた教師陣に悪い気がして、結局素直に答案用紙を埋めた。

(だ、大丈夫、だいじょうぶ。アルベルト様は頭良かったし、グランツ侯爵令嬢だって上位に入ってたはず。アルベルト様の側近たちもみんな優秀だったし······)

 翌日、掲示板に張られた成績表を見に行く。人だかりがしていて、アルベルト王太子殿下と同率1位がいると、皆口々に噂している。

 冷たい汗が流れるが、きっと私じゃないと信じて······。クラスの子がこちら見て、隣の人に「ほら、あの子よ」とか「あれが噂の才女か」とか不穏なワードが聞こえる。

 恐る恐る掲示板を見ると、同率1位 アルベルト王太子殿下、リリアーナ・ブランシュ男爵令嬢とあった。

 よりによって、同率1位。いや、1位になって目立つのも嫌だけど、アルベルト様と同率1位って余計に目立つんじゃ?!脳内をぐるぐる同じ言葉が駆け巡る。

 ふと、視線を感じてそちらを見ると、まさかのアルベルト様。柔らかく微笑みかけてきた。

(いろいろと無理ぃ!!)

 私はサッと礼をして人混みから逃げ出した。



 揺れるピンクのおさげが遠ざかるのを、私はざわついた気持ちで見送った。

 思えば入学式のときから、あのピンクブロンドの子が気になっていた。

 何故かは分からない。王太子である私から話しかけるのは、いくら平等を謳っている学園でも憚られた。機会を伺っているがタイミングが悪く、話しかける機会が未だ掴めない。

「アルト様。首席おめでとうございます」

 いつの間にかエミが横に立って、本当に嬉しそうに笑って言ってくれた。エミの向こうにエレオノーラを見つけた。淑女の仮面をつけた彼女が、今何を思っているのか伺いしれない。

 側近たちがさり気なくエレオノーラの視界から私を隠した。

「ありがとう。エミはどうだった?」

 優しく微笑んでみせると、エミは顔を赤らめて

「25位でした」

と消え入りそうに言った。

「すごいじゃないか」

「アルト様や皆様の足元にも及びませんわ」

 側近たちはいずれも10位以内に入っていた。

「上位にいるのだ。このまま努力をすれば、いずれ10位以内にはいれるだろう」

「でしたら、今度勉強を見てはいただけませんか?」

「いいだろう」

エミは嬉しそうに手を合わせて、約束ですよと言った。



 私は図書室の目立たない席に逃げ込んだ。出入り口からは見えづらく、いくつかの机の間にパーテーションが置いてあるのだ。因みに、パーテーションは低く、足下は見えるようになっている。勉強する時に集中出来るよう、でも不埒な事は出来ない配慮がなされた場所だ。

 ほっと息をついた。本当は机に突っ伏してしまいたいけど、学園内ではしたない格好は出来ない。自室ではないのだ。

(ほほえんだアルベルト様、かっこよかったなぁ。でも、エミリア嬢と一緒だったな)

 少しだけ胸が痛む。自らヒロインを降りたけど、学園で見かけるアルベルト様は小説そのままの素敵な方だった。

(この前見かけたグランツ侯爵令嬢、悲しそうだったな。そうりゃそうだよね。小さい時から婚約者だったんだもの)

 憧れるだけなら、罪はないと思う。けど、エミリア嬢みたいになっていたら、グランツ侯爵令嬢を傷つけていたのは自分だ。

 たらればの事を考えても、無駄だと思いながらもみんな幸せになる方法があったら良かったのにと思う。

 ぼんやりそんな事を考えていたら、静かな足音がした。視線を上げると、分厚い本を抱えたクラスメイトのルーカス・ロウエン男爵令息だった。

「ここ、座っても良いかな?」

穏やかな声でそう言われて、私は慌てた。

「ご、ごめんなさい、私、ただ座っていただけなので、すぐ———」

「こちちこそ、邪魔をしてしまったね。この場所は落ち着くから僕も好きなんだ」

「邪魔だなんて······あ、あの。本、重いですよね?静かにしてますから、気になさらないならどうぞ」

「ありがとう」

暖かい笑みを浮かべて、ロウエン様は斜め向かいに腰掛けた。ロウエン様はとても落ち着いた人柄だ。

「1位、おめでとう」

 さらりと言われて、一瞬聞き逃しそうになった。

「あ、あの······、あ、ありがとうございます」

小さくもごもごとお礼を言った。

「目立つの、好きじゃなさそうだよね?」

「え?」

「クラスで指されて発言するとき、いつも俯き加減だから」

 私の顔は赤いだろう。図星です。思わず俯いてしまう。

「僕も目立つのは苦手なんだ。気持ちは分かるよ」

そう言われて、私は顔を上げた。

「そう、なんですね。私も本当に苦手で······この髪色も、両親には悪いけれど、目立つから出来るなら染めてしまいたいのです。」

 おさげの片方をつまみ上げて嘆息すると、

「綺麗な色だから、つい目をやってしまう人の気持ちも分かるよ」

とロウエン様は微笑んだ。

 綺麗な色と言われて、ハッとした。目立たない事ばかり考えていた。この世界に生まれて、ヒロインだと思って。今、ちゃんと私生きてるのに、前世に引っ張られすぎなんじゃないかと自然と思えた。

「ありがとうございます、ロウエン様」

 ちょっと照れてしまったけど、自然と言えた。ロウエン様の雰囲気は、私の肩の力を抜かせるような不思議な温かさがあった。

「よければ、ルーカスと」

「は、はい。では、私のことはリリアーナとお呼びください」

 家族以外で男性とあまり話したことがないせいか、とても胸がドキドキする。ルーカス様がふわりとほほ笑む。優しい笑顔が、”この世界で生きてきた”私を受け止めてくれた気がした。



 ブランシュ嬢から名前呼びを許してもらって密かに浮かれていると、微かな衣擦れの音が聞こえた。視線をそちらに向けると、少し疲れた表情をしているグランツ侯爵令嬢だった。

 最近、王太子殿下はエミリア嬢と言う平民の特待生を侍らせている。優秀な者に目をかけるのは分かるが、あれは距離が近すぎると話題になっている。

 グランツ侯爵令嬢は優秀な方だし、淑女としてあまり感情を見せないが、さり気なく手助けしてくれたりする優しい方だ。ゆくゆくは国母になられるのにふさわしい方だと俺は思う。

 ふとリリアーナ様を見ると、表情が硬い。

(もしかして、グランツ侯爵令嬢が苦手なのかな?この前、グランツ侯爵令嬢が伯爵令息からさり気なく助けたのに気づいてなかったのか。グランツ侯爵令嬢もすぐに離れたからな)

「グランツ侯爵令嬢、ごきげんよう」

 俺がグランツ侯爵令嬢に声をかけると、リリアーナ様は驚いたのか目を見開いた。

「ロウエン男爵令息、ごきげんよう」

とグランツ侯爵令嬢が言って、リリアーナ様に目を留めるとその瞳が少し揺れた様に見えた。

「ブランシュ男爵令嬢も、ごきげんよう」

「っ、ごきげんよう、グランツ侯爵令嬢」

 「······勉強をなさっていたの?」

「い、いえ。あの、静かなところに来たくて······」

「リリアーナ様ははにかみ屋なのです」

 俺がフォローすると、グランツ侯爵令嬢は目に柔らかな色をのぞかせた。

 リリアーナ様は誤解しているようだが、グランツ侯爵令嬢は気遣いのできる優しい方だと俺は思う。

「あ、あの、グランツ侯爵令嬢········」

 グランツ侯爵令嬢に浮かんだ柔らかな色に気づいたのか、リリアーナ様が何か言おうとして言葉に詰まる。

「エレオノーラでいいわ。リリアーナ様とお呼びしても?」

「は、はい!······もちろんです。エレオノーラ様」

 大きく返事をしすぎたと思ったのか、顔を赤くして、思わず俯きそうになるのを堪えて静かに言い直したリリアーナ様は可愛らしかった。俺も便乗することにした。

「私のことは、ルーカスとお呼びください。名前でお呼びしても?」

「もちろんですわ。同級生ですもの。リリアーナ様。ルーカス様」

 エレオノーラ様は、とても美しい笑みを浮かべた。



 わたくしはリリアーナ様に、優しい態度で接した。打算だ。まだ気づいていないアルベルト様の仄かな感情が、リリアーナ様に向かっていくのは時間の問題だと感じていた。

 エミリア嬢は勘違いしているようだが、アルベルト様のあの態度は親しげに見えるがどこか一線を引いている。

 アルベルト様が望むなら、わたくしはリリアーナ様を側妃に押し上げようと密かに決意を固めていた。グランツ侯爵家で養子にしたいところだけど、横槍がはいるかもしれない。

 エミリア嬢はもしかしたら愛妾になるだろうか。アルベルト様のお気持ちを見極めなければ。

 急がなければならない。ルーカス様がリリアーナ様に婚約を申し込む前に。そう考えたとき、私の心が軋んだ。嗚呼、まだ、わたくしにも心が残っている。心など駒には必要ないのに。

 


 エレオノーラ様の事を俺は勘違いしていたのかもしれない。優しさも気遣いも、貴族の仮面の一つだったのかと、遠くにリリアーナ様を見て思う。

 休暇明け、久しぶりにリリアーナ様に会えるとうきうきして学園に戻ったが、彼女は生徒会へ入ってしまって王太子殿下の隣にいた。エミリア嬢も相変わらず侍っていたし、エレオノーラ様も変わらず王太子殿下に接していた。

 ただ一つ。王太子殿下がリリアーナ様を見つめる瞳の温度に、俺はリリアーナ様との未来を夢見てはいけないのだと悟った。

 あの図書室で、エレオノーラ様は何を考え思っていたのだろう。俺からリリアーナ様を取り上げて王太子殿下に差し出してしまった彼女。

 時折、瞳の奥に傷ついた色を宿すくせに。俺がやっと掴みかけたチャンスをあっさりと潰してしまった。

 ふと、リリアーナ様と目が合った。胸が締め付けられる。彼女の瞳の中の感情を、俺は見る勇気がなくて目をそっとそらした。

 俺は学園卒業後静かにこの国を出た。君を見守る勇気がなくて。君が隣にいない未来をこれ以上見たくなくて。



 長期休暇のマリーとの約束は果たせなかった。

 私は王太子殿下から直々に生徒会への参加を求められ、エレオノーラ様とも繋がりができて、お茶会に何度か招かれたからだ。

 エレオノーラ様はルーカス様が言っていた様に気遣いと優しさがある方だ。けれど、それ以上に高位貴族としての矜持を持っている方だった。

 ある秋の日。晴れ渡った空の下で、私は極度の緊張を強いられていた。目の前には王妃様。私の隣ではエレオノーラ様がおだやかにほほ笑んでいる。そして、もう一人。側妃様もいらっしゃる。

「楽になさって」

 王妃様の声音は柔らかい。ほほ笑みを浮かべた顔は年齢を重ねたうつくしさがあって、その気品は私を圧倒した。

「内輪の集まりですから」

と、側妃様も優雅に微笑む。

 不意にルーカス様の顔が浮かぶ。あの図書室で出会ってから一度もお話ができなかった。マリーの瞳には暗い色が宿っていて、ルーカス様が私に近づくのを許さなかった。何故、と聞けなかった。だって、薄々分かっていたから。

 ルーカス様と一度、目が合った。けれど、彼はすぐ目をそらした。育つはずだった気持は無理に摘まれてしぼんでしまい、鈍い痛みが残った。

 マリーは一度、急に泣き出したことがあった。何も言わず抱きしめた。逆の立場だったら、私もマリーみたいになってると分かるから。

 美しい方々のほほ笑みは、私を囲い込むためのもの。でも、私に拒否権はない。

 空虚な心のまま話は進み、私は側妃様の実家の養子となる事が決まった。エレオノーラ様は少し残念そうだったけど、私からしたらどっちでも構わなかった。

 私の未来は、私の手を離れてしまったから。



 わたくしはアルベルト様をお慕いしていた。2人で同じ未来を見据えて、手を携えて国を導いて行くのだと信じていた。

 けれど、アルベルト様は真っすぐ未来を見据えたまま、わたくしを見ることはなかった。

 アルベルト様が見ていたリリアーナ様を差し出して、わたくしは王妃の座についた。跡継ぎも産んだ。グランツ侯爵家に王家との縁を繋いだ。

 わたくしはグランツ侯爵家と王家の駒の役割をしっかり果たした。

 ぎしぎしと耳障りな音を立てていた心は、もう軋まない。空っぽの心に王妃の威厳と慈悲の仮面を貼り付けて、わたくしは生きていく。



 私が掴みかけたヒロイン脱却の夢は叶わなず、けれど小説の結末とは違う結末を迎えた。

 エレオノーラ様は断罪されずに王妃となり、私は側妃として王太子殿下に寵愛され、エミリア嬢は王宮文官として登用されて平民女性の道を明るく照らした。

 周りから見たら、表面上はハッピーエンドだ。夢のような世界が待っているのね、と私に言ったのは誰だったかもう忘れてしまった。

 私は静かな月夜に空を見上げて、今夜も願う。もしもまた転生することがあるのなら、自分で未来を選べる人生が送りたい、と。

  

最後まで読んで頂き、ありがとうございます。

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