nAmBAr.21「裏返る空間」
「あ、時間だね」
明るい言葉を紡ぎ続けてくれて来た彼女が言う。解説を求めるより前に立て続けに言葉は降り掛かって来た。
「あーしの頭の中にはドクドク脈打ってる20って数字が今踊っててね。ニパ君と話しながらこの小躍りが何時地面を蹴破りそうなタップダンス方面に変わるか、その刻をじっと伺ってたって訳。多分この踊り方は先刻話した宇宙の縮小って表現と同期している筈。何が待っているか分からない、離れ離れにならない様とりあえず手、繋いどこっか?」
手を繋いでのからかいが矢継ぎ早に来なかったのを見るにローニャの言葉は本物だし、試練の使徒としてのその不敵な横顔は何処か美しくすら在った、何か自分の本質に纏わる事柄が迫っている、すぐそこの手の届く距離まで来ているとそう言う確信に基づく真剣さが携わっている。彼女のおちゃらけた側面は、ある種その影としての真面目さから来ていると言っても…。
「あごめん、ご期待に沿えない生真面目さ演出しちゃったかなん、大丈夫大丈夫、手を繋ぐ以前に膝枕でしょ? ニパ君にはいずれ然るべき責任取って貰うからそのつもりでね~」
と言いながら繋いだ手をブンブン振ってこっちの心を掻き乱しに掛かる。やはりローニャは、掴み所の無いふわふわとした天女様だった、実際に飛行能力を発揮出来る側面を含めて。
「しかし来るって、何が来るんだろうな。命を守って欲しい筈のイバの奴による全力抵抗なんだろうか」
「何か得体の知れない別空間が来るし、その後はあちき達は否応無く進むんだろうね、命の綱渡りが望む所のいばらの道を。簡単な話では無いだろうし正直あちきも何処までサポート出来る物か分からない、やれる事と言えばイバの裏側そのものであるニパ君にママみ感じて貰えるレベルで手をギュッとしてあげる事位かなん」
冗談めかしてはいるが彼女は段々と汗をかき始めているのが手の平から伝わって来た。さっき言っていた脳内で20と言う数字が脈打つ具合と言う物は彼女の血流にも伝播し始めているのか。
風が来る。正確には、なんだ、前後から圧迫する様な空気の流れを感じると言えばいいのか。単純な風と言う爽やかな詩的語録のそれが体に触れているだけとは言い辛い。見えざる棺桶に手足を縛り付けられようとしているかの様な有無を言わせぬ絶対的な異常が発現しようとしている一歩手前、その焦りにも似た感覚。風が、風と言う鎖の縛り付けが凶悪になって来た。心配になってローニャを見ると前を見据えたまま動こうとしない。軽い”デート”が有った、二人の安らかな異空間でのひと時の余韻は、今粉々に打ち砕かれようとしている。
「行くよニパ君、20歳の扉から逆行するユニへブ最初の関門へ!」
暴風の檻が彼女の最後の方の言葉を遮ろうとしたがちゃんと語気を強めてくれていたのでしっかりと私の耳はそれを拾った。空間が、丸ごと裏返る…。産まれ直す、とでも言えばいいか、そんなミステリアスな境地に立たされたまま、私はその場でローニャの掌の温かさだけに神経を集中しながら、吹き飛ばされない様に足に力を籠め、そして瞼を閉じた。
暴風に吹き飛ばされない様にお星さま封印するローニャの図?




