第44話 復活の経緯
パラドキサ、その名を聞いた時、聖女伝説を詳しく知るシシラやガミオ達は気付いた。パラドキサとは、人々を苦しめる悪魔であり、人の負の感情を餌にすると伝えられている。
(聖女伝説とこれまでの聖女たちの記録から悪魔が実在していたことは知っていたけど、今ここで現れるなんて思わなかった……!)
「パラドキサ……聖女伝説でも名のしれた悪魔ですね」
「キヒヒヒヒ! さっすがシシラお嬢様ですね~! そっちの妹で聖女なアビスお嬢様とは大違いみたい!」
「え? え? どういうこと?」
アビスは『パラドキサ』という名前にピンとこないらしい。聖女でありながら聖女伝説を知らない証拠だが、誰もがそんなことに気を取られてる場合ではなかった。
「この国の害虫の大量発生の原因は貴方だったのですね!」
「正解! 封印から復活したのはいいんだけど人間に化けることしかできなかったのよ~。だから~、虫をばら蒔いて人間の負の感情の魔力を集めてたってわけ!」
「やはりそうでしたか…」
シシラとパラドキサの会話に聞いている誰もが驚いた。フィロキセラの大量発生の原因が悪魔の仕業だったなんて。
「……今、封印と復活と言いましたね? 貴方は封印されていたのですか?」
「キヒヒ! そうそう! 少し前の聖女に見つかって危険だから封印されちゃった~……んだけど、そこのバカな聖女様のお陰で封印が解けたの!」
パラドキサは刺々しい歯がむき出しの顔で笑う。聖女アビスに向けて。
「「「「「え?」」」」」
つまり、『馬鹿な聖女』とは……。
「まさか……アビスが貴方の封印を解いた……!?」
「はぁ!? 何を言ってるのよ! 私、そんなの知らない!」
全員の視線を向けられたアビスは何も知らないと言って否定するが、パラドキサは笑って語りだした。事の経緯を。
「キヒヒヒヒ! 私が封印された場所はアビスお嬢様が聖女教育を学ぶ教会だったんだ。それもアビスお嬢様が『勉強は嫌!』だと言って逃げて隠れた先だったの!」
「ええっ!? あの時に隠れて入った物置に!?」
「物置じゃなくて重要な物とかを厳重にしまってたところなんだけど……アビスお嬢様~? 貴女は魔法を悪用して無理やり入ったでしょ? まあ、あそこは聖属性なら誰でも入れるみたいだし!」
「そ、そうだったの!?」
これだけでアビス以外の全員(人間のみ)が嫌な予想ができた。
「そこに隠れてた貴女って、教会の教師と姉のシシラに対して愚痴りながら暴れまわったじゃない? その時の衝撃で私の封印が大幅に弱まったのさ! そのお陰で時間かかっちゃったけど封印から出てこれたってわけ!」
「う、嘘よ! あれくらいで悪魔の封印が弱まるようなこと……」
「負の感情を抱きながら魔力を放出したんだろ? 魔法が下手な上に魔力量だけは多かったから、先代聖女の封印に悪影響が出ても仕方ないよな~」
アビスは口を開いたまま茫然となった。それは両親である公爵夫妻も同様に。無理もないことだ。過去にアビスが勉強を嫌がって逃げた先で癇癪を起こしたせいで悪魔が復活し、今の状況を作ったというのだから。
「ば、馬鹿な……なんてことだ……」
「そんな……アビスのせい……」
「……嘘、そんなの……」
アビスと公爵夫妻は非難の視線を向けられる。特に、ジュンメウキ王国側の面子からは憎悪に近い感情さえ向けられた。聖女アビスが原因だったのだから。
ただ、アビスへの罵声が飛ぶ直前に、パラドキサが悪意を放った。
「ネタバレは済んだところで! ここにいる皆、死んでちょーだい!」
「「「「「っっ!!??」」」」」
パラドキサが指をパチンと鳴らすのを合図に、謁見の間に害虫フィロキセラが大量に出現した。




