第37話 荒れる国
ジュンメウキ王国は大量発生した悪害虫フィロキセラの対応に追われていた。駆除しても駆除しても増え続けるばかり、駆除にも小型の魔物サイズなこともあって時間がかかる。駆除のために騎士団や冒険者も駆り出されたのだがそれでも間に合わない。
「北の村も南の村も被害が! 騎士団と冒険者も増員しろ!」
「国王陛下! 被害は大きくなるばかりです!」
「聖女アビスだけでは駄目だ! 隣国の援助はまだか!」
害虫駆除に聖女アビスも参加することになったが、最初の頃、アビスは害虫を気味悪がって近寄ろうとしないで仕事を避けていた。そんなアビスを王太子が怒鳴るように言い聞かせてやっと駆除に参加するようになった。聖女アビスの魔法はそこそこ広範囲の駆除ができるため多くの人達の期待を寄せたが、魔法を使うたびにアビスはすぐに休んでしまう。そして、休む時間が長いため人々の期待は薄れていった。
「ユーム様は私が大事じゃないの!?」
「今そんなことを言ってる場合か! もっと頑張ってくれよ!」
「あれが聖女様だって? とんだ怠け者じゃないか!」
アビスは嫌そうだったり渋々という感じで駆除に参加する。毎回王太子ユームに言われなければ動かない。シシラがいなくなったことでアビスの素行の悪さが目立ち始めていた矢先のことだ。当然、ユームとアビスの関係は険悪になっていった。
「もっと真面目にやってくれ! 僕が言わなくても自分から害虫駆除に参加するくらいの意志はないのか!」
「あんな気持ち悪い虫なんか見たくもないのに駆除してやってるのよ! もう少し褒めてよ!」
「褒めるだと!? 褒めてほしけりゃ働けよ!」
アリゲイタ公爵家でも害虫駆除の協力要請があったが「シシラの捜索」を理由に渋っていた。だが、聖女アビスの活躍が期待したほどでもなかったということで責任を問われ、全面協力することになった。ただ、そのことで家族関係はギクシャクすることとなった。
「アビスが役に立たないから我らまで無理やり協力させられたんだ! シシラがいなくなったらこんなに無能になるなんて思わなかった!」
「あの娘がいなくなるだけでこんなに何もできないなんて! 聖女何だからもっと頑張ってちょうだいよ!」
「お父様とお母様まで私を責めるの!? 私だって嫌でも頑張ってるのに!」
アリゲイタ公爵夫妻とアビスが責任のなすり合いをするようになったのだ。シシラがいなくなって上手くいかなくなったのは誰のせいなのか、と。アリゲイタ家はもう家族で責め合うのが日常的になった。そんな状況を一人の侍女が嘲笑っていることも知らずに。
「キヒヒヒヒヒ! なんとも愉快な聖女様と家族だこと! シシラがいなくなったら喧嘩するようになるなんておかしいったらありゃしない! 貴方もそう思う~?」
「シ、シ、ラぁああぁぁぁぁ」
侍女アン・デッドは屋敷の屋根の上で嘲笑う。アリゲイタ公爵も聖女アビスもジュンメウキ王家も、この国の不幸の全てを。まるでその不幸こそが自分の力になっているのだというように。その隣には禍々しい魔力を帯びた男が立っていた。
「どうやら、もうそろそろ十分な負の魔力が溜まったみたい。さ~て~、貴方にも頑張ってもらいましょうか? 元学園長?」
「シシラぁぁぁぁぁ……」
アンは口が裂けそうなほどの笑みを浮かべる。変わり果てた元学園長の顔を眺めながら。




