第36話 害虫の問題
悪害虫フィロキセラ、人間の握りこぶしほどの大きさでドクロマークが特徴のアブラムシ、あらゆる作物を食い荒らし人々を餓死させる恐るべき大害虫とされている。そんな害虫が今、ジュンメウキ王国に広がっているという。害虫対策としてジュンメウキ王国側はあらゆる手を尽くし、騎士団や聖女アビスにも働かせているというが害虫は増える一方。遂には、バッファロード王国にまで支援要請を出すまで追い詰められている。
「まさか、聖女伝説の害虫がジュンメウキ王国に現れるなんて……」
「私の祖国でそんなことが……!」
国王バリスタから直接話を聞いたシシラとガミオは驚き、そして複雑な気持ちになった。二人ともジュンメウキ王国にはいい思い出がないのだ。二人が出会って友人になった過程を除いては。
「父上、俺達をわざわざ謁見の間に呼んでそれを伝えたのは、シシラを聖女として救援に向かわせようというおつもりですか?」
「それは……」
ガミオが国王バリスタに睨みながら聞いてみると、バリスタは険しい顔つきで間をおいてから告げた。
「その通りだ」
「ふざけないでください! あの国でシシラがどんな扱いを受けたか俺は説明したはずですよ! それなのにシシラの力をあの国のために使えというのですか!」
「ガミオ殿下……」
ガミオの怒りは当然のものだが、バリスタはシシラを聖女として救援に行かせる理由を説明する。
「ガミオの怒りは最もだが、悪害虫フィロキセラは聖女伝説において国を滅ぼす危険性を秘めた存在だ。今はジュンメウキ王国で猛威を振るっているようだが、いつ我が国に入ってきてもおかしくはあるまい。あの国にいるうちに全滅させるべきだと判断したまでだ。光属性と聖属性の魔力を弱点としているのなら聖女の力が有効なのだが、ガミオとシシラ嬢の話が事実なら聖女アビスではあまり期待できまい」
「そ、それは……」
ガミオの反論の口が塞がった。確かに悪害虫フィロキセラの危険性は無視できない。いつバッファロード王国に入ってきてもおかしくはない。シシラの力が有効なのも理解できる。それに聖女アビスの性格を考えるなら真面目に働いているとは思えない。シシラが出ていってから聖女アビスの悪評が広まっているらしいのだから。
それでもガミオはシシラを守りたいと反論を考えるのだが、肝心のシシラが決意を固めた。
「国王陛下、私シシラはジュンメウキ王国の救援に向かいます!」
「むっ……」
「シシラ!?」
「ガミオ殿下の言う通り私はジュンメウキ王国に対していい思い出はありません。しかし、そこに住む全ての人が悪い人たちばかりとは思いません。それに国王陛下の危惧しているように悪害虫フィロキセラがこの国に入ってくる危険性があるのなら私は立ち向かいたいです。ガミオ殿下やこの国の皆さんの恩に報いるためにも」
シシラには祖国に対する未練はない。だが、全てを切り捨ててもいいという考えはない。そして、それ以上にガミオやバッファロード王国で世話になった人たちの役に立ちたいという気持ちのほうが大きい。だからこそ、迫りくる脅威に立ち向かうことを決意したのだ。
「シシラ……君はどこまで優しいんだ……」
「そうか、なんという頼もしい聖女だ」
こうして、シシラがバッファロード王国の聖女としてジュンメウキ王国の救援に向かうことが決定した。




