第35話 一ヶ月の間で
シシラがバッファロード王国に来てから一ヶ月が経過した。
「シシラ嬢が我が国の聖女に就任してから今日までに起こった我が国の変化を報告せよ」
「はい」
バッファロード王国の王宮の謁見の間にて、国王バリスタ・ゼタ・バッファロードは髭面を除けば息子と瓜二つ二しか見えない顔で静かに部下からの報告を聞いた。
「第一に、ショーツカ大森林から出てくる魔物は減少しました。一ヶ月前から確認していません。第二に、我が国の農作物の育ちが良くなったことから土地の状態が良くなったと思われます。第三に、流れる河川の水が以前よりも綺麗なものになりそのまま飲んでも問題がなくなりました。第四に、シシラ嬢のいる王都を中心に病人や怪我人の治りが早くなりました。大きく目立つ変化は以上のものであり、微々たる変化もたくさんありますが全て我が国に良いものです。後ほど書類にまとめたものを提出します」
「ふむ。予想を超える結果になったわけか」
「はい。どうなるかと思われたものですが、最高の結果になったと」
「うむ……」
国王バリスタは、息子が隣国から連れてきた聖女候補には期待していたが不安もあった。他国の女性を聖女になってもらうために招くなど前代未聞。それに連れてきた女性側からすれば理不尽だと思われるリスクが大きい。そのために国に貢献してくれるのか心配だったし、本当に聖女として働けるか心配だったのだ。
たとえ、息子からの評価が絶大だったとしても。
「……ガミオの言っていた通りだったな。聖属性ではなくて光属性と聞いたときは少し失望したことを謝らねばな」
「シシラ嬢は我が国の歴代の聖女に匹敵する資質をすでに見せています。光属性なのは分かりますが、もう聖女としては十分すぎる成果を出しています。我々も彼女に礼を尽くさねばなりません」
「ああ……例の話はもう少し後先になるだろうと思っていたが……ガミオが、シシラ嬢が共に望むのであれば……」
シシラが聖女に就任した際……というよりもバッファロード王国に来てからは王宮で過ごしていた。シシラはこの国の聖女になったが隣国の人間でもある。そのために今は客人として扱われていた。しかし、シシラをいつまでも『聖女で客人』ということにしたままにするつもりはなかった。国王バリスタは、聖女となったシシラに対して最大限の礼を尽くすためにも彼女を一刻でも早く自国の国民とするつもりなのだ。
そして、願わくば王族の一員にと。国王バリスタは二人の幸せな未来を思い浮かべる。
「国王陛下。隣国ジュンメウキ王国に関する報告を申し上げてもよろしいでしょうか?」
「ああ構わんが、何か大きな変化はあったのか?」
「はい、深刻な状況になっているようです……」
「何? 例の害虫のことか?」
「はい」
国王バリスタは、笑みを浮かべた顔が一転して険しくなる。シシラがこの国に来てからジュンメウキ王国では少しずつ悪い変化が起こっていたのだ。
「『血眼』からの報告によりますと、ジュンメウキ王国で発生した害虫の被害が酷くなる一方の様子。聖女アビスでは何も対応できないとのことです。そのことでジュンメウキ王国は我が国に助力を要請するつもりです」
「害虫がそこまでか……」
今、ジュンメウキ王国では害虫が大量発生していた。その害虫とは聖女伝説で語られる悪害虫フィロキセラだった。




