第34話 聖女の必然
シシラは笑顔で「よかった」と口にした。ガミオが予想外の反応に困惑するまもなく思いも寄らない言葉を続ける。
「シシラ、何を……」
「私は、公爵家でも学園でも自分のことしか考えていない人たちのために都合のいいように利用されてきました。アビスが聖女の仕事を嫌がって押し付けられて、アビスの評判のために学園長や実の両親にも押し付けられて、婚約者だった王子も遊び呆けて話も聞いてくれず……思い返しても周りは酷い人ばかり……でも貴方は違う」
「っ! 何を言ってるんだ! 俺は、俺の目的のために君に近づいて、君にこの国に来てほしくて! 俺は自分のために君を!」
君を、シシラを利用するつもりだった。そう言おうとした直前にシシラが遮るように諭すように言葉を紡ぎ出す。
「貴方は……聖女のいないことでバッファロード王国が衰退することを危惧されていたでしょう。学園にいた頃も私は貴方の口から聞いています。その時はいつも辛そうな顔をしていたことも」
「そ、それは……」
ジュンメウキ王国とバッファロード王国はショーツカ大森林の魔物に脅かされている。その脅威から守るのが聖女の勤めの一つ。聖女の存在が森の魔物などから国を守っているのだ。現在、バッファロード王国に聖女がいない。つまり、森から出てくる魔物やそれ以外の脅威にさらされていることになる。
「ジュンメウキ王国における聖女の必然性は理解しています。バッファロード王国もそれは同じ。多くの国民のために聖女にいてほしいという気持ちは恥じることではないと思います」
「シシラ……でも、俺は、この時が来るまで君に黙っていて……」
シシラが理解を示してくれた。自分を許そうとするどころか許す許さないの話ではなく恥じるなとまで言う。そんなシシラにガミオは本気で頭を下げそうになった。だが、それに気づいたシシラは慌てたようにフォローした。
「落ち着いてください! 私は実のところガミオ殿下の思惑に気づいてました」
「な、何だって!?」
「これでも希少な属性の魔力だって自覚はあるんです。光属性でも聖女になれる資質はあるんですもの。私をバッファロード王国に連れていく思惑はそれだと思わないわけないでしょう?」
ガミオは頭を下げる前に頭を抱えた。自分の思惑がシシラに気づかれていたこともそうだが、気づかれてしまう可能性を考慮しなかった自身の無知さが恥ずかしくなったのだ。
「……ジュンメウキ王国は本当に惜しい人物を蔑ろにしたものだ。聖女アビスよりもシシラこそがずっと聖女にふさわしいはずだというのに」
「そう思っていただけて光栄です。こんなことを今口にするのは今更な気はしますが、ガミオ殿下は私にバッファロード王国の聖女になることを望んでおられると?」
「そうだ。たしかに今更だな」
ガミオはシシラに跪き、頭を垂れて主君に忠誠を誓う騎士のような姿勢を取って望みを告げるのであった。
「……シシラ・アリゲイタ嬢、どうか我が国の聖女になっていただけないだろうか?」
シシラの脳裏に浮かぶのは『シュバリア・カイマ』という唯一の友人の姿。彼に心を救われたから今のシシラがいきてこれたと言っても過言ではない。それほどにシシラは信じている。だからこそ、シシラの言葉は決まっていた。
「謹んでお受けします」




