第32話 悪巧み
シシラがバッファロード王国で目覚める少し前、ジュンメウキ王国のアリゲイタ公爵の屋敷でショーツカ大森林の方角を見つめている侍女がいた。聖女アビスの専属侍女アン・デッドだ。
「ちっ、失敗か。森の魔物たちが穏やかになってるし……封印の祠に魔力まで……あの娘……シシラ!」
何故か、アンはシシラによって封印の祠に魔力が十分注がれたことに気づいた。森の魔物たちによってシシラが襲われて死ぬことを望んでいただけに舌打ちをするほど不快感を示した。
「光属性とはいえ並の聖女に匹敵するかそれ以上……やはり出来損ないの聖女とは違って本当に危険な存在……向こうの国で始末する方法を考えないと……その前にこの国の悪意を……ん?」
アンはシシラをバッファロード王国にいるシシラに害をなす方法を思案していると、アリゲイタ公爵の屋敷から門前払いを食らおうとしている男が目に入る。上級貴族風の格好をしたスキンヘッドの老人だった。顔はだいぶやつれているが、学園長だったガニバケだ。しかも、扉の前でアリゲイタ公爵と口論をしているようだ。
アンは耳を澄まして会話を聞いてみた。
『アリゲイタ公爵! ワシは聖女アビスのしでかした問題の責任を問われて学園を追放されたんだぞ! 賄賂を送って試験結果の入れ替えを要求してきた貴方がたにも責任がある!』
『黙れ! 貴様がしっかりしていなかったからこんな事になったんだ! アビスが恥をかきシシラに負けるななんてあってはならないことだったのに!』
『それは聖女アビスにも問題が、』
『ええい! アビスに責任などない! これ以上私と話したいならシシラを連れてくるんだな!』
バタンと乱暴に扉が閉められる。もうこれ以上は無理だと悟った学園長もとい元学園長ガニバケは悔しそうに天を仰いだ。そして一人の女に対する恨みを呟く。
『……こんな事になったのもシシラ・アリゲイタ、あの女のせいだ……あの女さえ、もっと順々で大人しくしていれば……絶対に許さん、許さんぞ……この手で……!』
ガニバケの恨みの声を聞いたアンはニヤリと顔を大きく歪める。彼女にとっても、おそらくはガニバケにとっても都合のいいことを思いついたのだ。
「いいねいいね~! その願い悪魔として叶えてあげようじゃない! 早速シシラがバッファロード王国に向かったと伝えてあげなきゃ! シシラへの殺意を増幅し、悪魔の魔力を備えさせたうえでね!」
アンの手にドクロマーク模様の虫が握られる。人間の握り拳ほどの大きさもあるそれをアンは愉快そうに見つめる。
「ま、あのハゲのジジイ程度じゃ時間稼ぎしかできないだろうけどね。でも、チャンスなのは確か! あの娘がいない間に、こいつをばらまくとしますかね~!」
その虫は聖女伝説に出てくる害虫と同じ生物だった。




